第282話 超越者の戦い
「この程度で我が沈むと思うか!?」
漆黒の空に闇の光が瞬き、俺とマルコシアスは互いに弾かれながら距離を取る。しかし、それも一瞬――。
再び俺の姿が掻き消える。
「
マルコシアスは背後の虚空目掛けて振り向き様に大剣を振り抜く。
刹那の交錯。
俺は刃を交えた瞬間に
“
ただ一つ確実なのは、元となった二つの特性を併せ持ち、それらが融合して乗倍の力を発揮するという事だけ。それ故に俺の全能力は桁違いに跳ね上がっている。
特に“
その恩恵が、この超高速戦闘――。
「斬る――ッ!」
「……っ!?」
すれ違いざまに一閃。マルコシアスの肩口から鮮血が舞う。そして、奴の反撃より速く反転。再び加速の世界へ身を投じる。
静から剛へ、剛から静へ。
これまでを遥かに凌駕する超速機動を執りながら、視認不可能な
「この翅虫が!!」
だが、マルコシアスも他の戦士とは文字通り格が違う。四枚の翼による制動と豪快な太刀筋により、俺の軌道に押っ付ける形で
「もう当てて来るか……!」
左翼を折り、身を護る盾としながら驚愕を露わにする。でも、今回は俺もただ打ち飛ばされるだけじゃない。盾とした双翅自体に
俺自身の剛性、鎧強度――これまでなら回避不可能かつ、双翅ごと両断されていたであろう攻撃に対しても無傷。何より、あのマルコシアス相手に正面から単騎で競り合えている。これこそ、“
「それでも……ッ!!」
「我を嘗めるなァ!!!!」
螺旋を描きながら何度も刃を交錯させていた俺達は、正面から斬撃を打ち込み合った。
闇斬激突――またも互いに反動で弾かれ、大地の上へと戻って来る。
そして、再び刃を交錯させた。
「これでも押し切れない……さて、いつまで保ってくれるか……」
その上、“
「まあ、お互い様か……」
「笑止――我に限界など存在しない」
「言ってろ。完璧・完全な生物なんて、この世に居るわけがないんだからな」
それは奴も同じはずだ。狂化因子融合――もしそれが万能な力だとすれば、そもそも魔族なり、相克魔族は数を増やして種としての集団形成に重きを置く必要などない。本当に優秀な者のみを残し、有象無象は殺して回った方が個の性能を上げる為には効率的だろう。
だが相克魔族を駒としか見ていないマルコシアスですら、この局面まで同族殺しで個を高める事はしなかった。
それは相克魔族も同じ事。奴が現れる以前から種としての繁栄を第一にして、共喰いをし合う事はなかったのだろう。セラスやメイズ達から感じ取るに、あった無かったはともかく、恐らく主流ではなかったのは間違いない。
「今のお前は一種の暴走状態。それを強靭的な精神力と魔力で抑え込み、自らの力に転用している。つまり、同じ現象に巻き込まれた者や闇の瘴気に呑まれた俺の様に狂化暴走をしていないというだけだ。時間経過と共に暴走が沈静化してしまえば外付けの力は消え、今ほどの強化値は維持出来ない」
「くはははっ!!!! 多少は頭も使えるようだな。だが、我は貴様の浅はかな思想など凌駕する! 他の者達ならいざ知らず、この我が一度宿した力を取り逃すわけもなかろう? 答えは、否ッ!!」
現象は正解。
事実は否。
マルコシアスは珍しく感心したような口ぶりでそう答えを返してきた。
つまり奴の弱体化を待って、残った面々で袋叩きにするという策も意味を成さない。流石に狂化因子融合の効能を百パーセント引き継ぐわけではないのだろうが、やはり正面突破以外に道はないと断言されたも同じというわけだ。
「魔族の出生率を考えれば、暴走の危険と共に双方絶命する可能性のある合体強化などあまりに非効率的過ぎる。だからこその切り札という事か」
嘗ての魔族がどうだったのかは分からないが、現状において狂化因子融合は奴だけが使いこなせる
俺も奴も正しく限界を超えた姿という事なのだろう。
そして、俺は今――神話の時代を超えた怪物へと異端の刃を向ける。
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