第281話 混沌魔法《カオス・オリジン》

「“デスオーバーロードマキシマム”――っ!」


 黒閃を奔らせる。

 漆黒の燐光フレア纏う一閃が深淵の光を裂断する。


「アーク君……っ!?」


 斬り裂かれて四散していく広域殲滅魔法。

 処刑鎌デスサイズを担ぎ、漆黒の空に佇む俺自身――。


「童、貴様……その姿は……!」


 闇の残滓が舞い散る中、この場の誰もが言葉を失っているようだった。


「……これが俺の全力。俺の全て……」


 俺の全身から発せられる漆黒の燐光フレア処刑鎌デスサイズの刀身や双翅の爪部分も同色の輝きを放っている。

 “原初魔法ゼロ・オリジン”――初めて足を踏み入れた、新たな境地。

 だが、皆が驚いている要因はそれだけではないのだろう。


「我らの力と、人間共の境地を同時に宿すとは……なんと異形いぎょうな」


 “死神双翅デスフェイザー”・“死神鉤爪タナトスエッジ”は、奴らで言う所の“闇銀ノ魔破鎧ディアブロアルミューラ”を派生させたものに分類出来る。アドアが見せた直接肉体に纏う運用を基本として、マルコシアスやレスターは術者に最適化された形態に昇華させているという事だ。つまり俺の力は、そんな魔力の鎧と非常に近い性質を持っている。何より、俺自身の基本魔力性質は魔族と同じ“闇”。結論、“古代魔法エンシェント・オリジン”の一種と称して差し支えないはずだ。

 そして、たった今発現した“原初魔法ゼロ・オリジン”は、言うまでもなく人間の切り札。


 確かに人の身でありながら“古代魔法エンシェント・オリジン”を使う俺や、魔族でありながら“原初魔法ゼロ・オリジン”を会得したセラスの様な例外は存在する。どちらの境地も魔力運用の一種には変わりない為、素養がある者が発現方法を知っていれば理論的に会得は可能なのだろう。それは俺とセラスが身をもって証明している。

 尤も、長い歴史の中で俺達のような存在が記されていない以上、例外に例外を重ねれば――という事であるのは、言うまでもないが――。


 そして、何故皆がこれほど驚いているのかと言えばだが、それは至極単純。この二つの境地は、それぞれの種族が進化の帰結を見出した究極形態であり、本来相反する力に他ならないからだ。


 魔力を体内で循環させる“原初魔法ゼロ・オリジン”。

 魔力を身に纏う“古代魔法エンシェント・オリジン”。


 この力が双方の“種族”が扱うに当たって最善・最強の形態であるという差異は勿論だが、内に留める力と外部に放出する力という性質コンセプト自体が根本的に異なっている。

 そもそもからして、人間が生まれ持つ魔力性質の中に“闇”がないのだから、俺のようなケースは異端中の異端であって然るべき。

 だからこそ、“原初魔法ゼロ・オリジン”と“古代魔法エンシェント・オリジン”を並行して発現している今の俺は、神話の大戦を生き抜いて来たマルコシアスにとっても理解不能な存在として写っているのだろう。


「“原初魔法ゼロ・オリジン”の理論自体は、完全に把握していた。ルインさんを始め、現物の戦闘も間近で何度も視た。なら、俺が“原初魔法ゼロ・オリジン”を発現してもおかしくはない」

「だが、その姿は……」

「多分、越えてはいけない・・・・・・・・境界を踏み越えた・・・・・・・・。ただ、それだけだ」


 永きに渡って人間と魔族が交わる事はなく、“原初魔法ゼロ・オリジン”・“古代魔法エンシェント・オリジン”――これらも時代の流れと共に技術自体が失われ、実質的に先史遺産オーパーツと化していた。つまり元より皆無だった双方の技術が交わる機会も完全消失しており、二つの境地を持ち合わせる者が現れる事も当然あり得なかったわけだ。

 ただ一人、運命の悪戯によって導かれた歪な愚者を除いて――。


 魔力を必要最低限の容積まで高密度に圧縮、身に纏う鎧として固定化。その上で残存魔力を体内で高速循環させ、増幅・強化する。これこそ俺が行っている事。二つの境地に達した俺だけの形態。恐らくは誰もが想像だにしなかった境地。

 それは仮に双方の技術を持ち得ていた者が居たとしても、変わる事はないだろう。いや、誰もが一瞬は脳裏を過らせるが、非現実的すぎて実行しようとすら思わないというのが正しいか。

 根本的な所からして、双方の形態の片割れですら発現出来るのは、それぞれの種族の上澄みだけだ。俺やルインさん達が各々の形態を使いこなすに至った軌跡を思い返せば、片方を発現させる事ですら、どれほど困難で危険を伴う行為であるのかは説明するまでもないだろう。

 これらを鑑みれば、今の俺がどれほど異端であるのかも明白だ。そして、どれほど無茶をして、どれほど不安定な状態であるのかも――。


「“混沌魔法カオス・オリジン”とでも称するべき形態。今は俺だけの……」

「な……消えたッ!?」


 “死神双翅デスフェイザー”から魔力を放出。俺の姿が掻き消える。

 マルコシアスが反応するよりも速く奴の背後に回り込み、処刑鎌デスサイズを振り抜いた。


「貴様……!? この、力は……!?」


 黒閃と大剣が激突。

 マルコシアスが目を見開き、ジェノさんに戦斧を砕かれた時以上の驚愕を露わにする。


「俺の全て……皆との旅路の果てに得た力だッ!!」


 今度は漆黒の刃が押し返される事はない。双翅・処刑鎌デスサイズの基部からも燐光フレアを放出し、これまでとは次元の違う推進力を以て刃を押し込んだ・・・・・

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