第280話 死神覚醒
レスターと共同戦線・魔族連合が激戦を繰り広げているのと並行して、俺達も魔王マルコシアス相手の死闘を演じている。こちらの状況も決して芳しくはないが、より凄惨なのはあちらの方。
リリアの苦悶の声。
散っていく多くの命。
一歩ずつ、着実に俺達は追い詰められていた。
「どうした? 動きが鈍くなってきたぞ!?」
「それはどうかな!?」
口では言い返すものの、現状はマルコシアスの言う通りだ。こちらの傷は少しずつ増えていくのに、あちらは未だ無傷。正直、いつ押し切られても何ら不思議じゃない。
その上、リリアやメイズ達の方も耐久限界を迎えつつある。あちらもレスターを押し止める力は、もう残っていないだろう。
絶体絶命――既に
「まだ終わりじゃないッ! “青龍雷轟斬”――ッッ!!」
閃光と共に金色の斬撃が舞う。
「ちょっとは苦しいって顔をしなさいよね! “ハイドロアクエリア”――ッッ!!」
激流の刺突が天を突く。
「“ダークバニッシュメント”――っ!!!!」
「“ガイアブレイク”!!」
それに続くようにセラスとリゲラも攻撃を叩き込もうと魔法を起動するが――。
「ふっ、効かんな! “セメタリーオブドレッドノート”――ォッッ!!!!!!」
「この……! ぐ、ぅっ……!?!?」
強烈な殺気が膨れ上がり、これまでに視た事のない強烈な一太刀が繰り出された。
たった一撃で全員の攻撃が粉砕され、大きく吹き飛ばされる。ここに来て一気に陣形が崩された。
「“アクアリオディーズレイン”――っ!!」
アリシアとエリルの“
「“凍穿幻境”――ッ!!」
俺もまた、
「この程度、効かぬわァ!!!!」
剛裂が大地を震わせる。これも返しの刃で薙ぎ払われて不発に終わった。
やはりマルコシアスの言う様に、俺達の動きが鈍り始めているのは間違いない。特に顕著なのは、魔力消費が無視出来なくなってきた所だろう。各々の可動もそうだが、誰もが強力な上級魔法ではなく、取り回しに優れた基本魔法を使い始めている。対するマルコシアスは未だ変わらず。いや、寧ろ力が増してさえいた。
「絶対に倒れるわけにはいかない! 貴方の前では……絶対にッ!!」
“青龍零落斬”――ルインさんは一太刀の呼吸の間に立ち直り、青龍刀を構えて閃光の斬撃を炸裂させる。
「その勢いや良し……素晴らしい太刀だ。しかし、相手が我でなければなァ!!」
上段からの振り下ろし。
深淵の斬撃が閃光を塗り潰す。
「ぐっ……ああっ!?!?」
ルインさんが吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。硬い荒野が砕け散り、彼女が纏う
「――ッッ!!!!」
そんな時、視界の端で闇の光が瞬き、デルトとストナの叫びが聞こえて来る。両家当主が子供達を庇って命を散らした瞬間だった。
「どうやら、この辺りが潮時の様だな」
「何を……!」
「最早、貴様らの底は知れた。中々愉しませて貰ったが……ここから先は俗事にもなるまい。故に……ここで滅せよ!!」
同時にマルコシアスが空へと飛翔し、掲げた大剣の切っ先に漆黒の魔力が集う。
「広域……殲滅魔法……ッ!?」
それは一定範囲内の敵を等しく殲滅する儀式。
俺達に絶望を
この局面で放つという事は、射程範囲が戦場の荒野全てである事は想像に難くない。
回避・迎撃――共に不可能。
目の前で瘴気を帯びる闇光を前にして、完全に手の打ちようがない状況へと追い込まれていた。
「ここまで、なのか……俺達の未来は……」
守れなかった命。
この手で討った命。
受け継いだ想い。
今も共に戦っている者達。
そして、俺の傍らで膝を付いている
俺達の
「混沌の淵に沈め! “ジャガーノート”――ッッ!!!!」
剣尖が地平を指す。
深淵の光が絶望を纏って墜ちて来る。
対して俺は、自らの意志で深淵の光を放つ絶望へと空を駆ける。
「何があっても歩みを止めないと誓った! 倒れていった者達に! 想いを託してくれた人達に……ッ!! 俺自身にッ!!!!」
全てはあの月光の夜から始まった。
絶望の中にあった俺は、金色の髪と紅眼を持つ女性に救われて
だけど、力を手にした自分は、抱いた
でも、他ならぬ誓いを立てた相手から、それが破綻していると突きつけられた。もっと楽に生きる道があると、自分の幸せを追いかける事こそが正常な人間の在り方であると――。
それでも原初の誓いを果たす為に、最後まで意地を張り続けると
何より――。
「俺はまだ……命を燃やし尽くしていない。立ち止まるわけにはいかない!!」
託された想いと大切な人達――護りたい世界が、此処にある。全てが絶望に呑み込まれ、虚無に消え去るなど許すわけにはいかない。此処で歩みを止めるなどありえない。
俺はまだ、生きているのだから――。
「想いを貫く……その為に前に進むッ! 誰よりも
全ての魔力を躍動させる。闇刃の撃鉄を叩き起こし、奥底に眠る魔力を呼び覚ます。
本当の意味で魔力を全開にするのは、闇の魔力を得てから初めての事。何故なら、闇の魔力性質を十全に使いこなしている今現在においても、暴走の危険は常について回る問題であるからだ。つまり不発弾のような状態自体は、ランサエーレ家の一件から何も変わっていない。変わったのは、自らの制御出来る範囲を広げて暴走の危険性を低下させた事だけだ。その結果、魔族の将や邪竜相手にも立ち向かえるようになったという事。
逆を言えば、これまでの俺は、制御可能範囲内の魔力でしか戦って来なかったという事でもある。時々抑えきれなくなったことがあったにせよ、それは変わらない。
だが、それではマルコシアス相手に通用しない。想いを貫くには、到底力が足りない。ならば、どれほど危険だろうと――例えこの身がどうなろうとその先へ進むしかない。
俺は抑えて来た
そして、漆黒の
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