第278話 人間達の挽歌
「これ以上闘わないでッ!!」
大気を埋め尽くす薄紅色の砲撃が、直進するレスターを呑み込む。
この砲撃魔法の威力水準が他と明らかに異なるというのは、遠巻きからでも視認出来る。“
安定性、汎用性、経験値、近接格闘――帝都に来た頃のストナは多数の能力に不安がある為に、“現時点”では優れた戦士とは言えないという評価を下されていた。だが、そんな中で皆の目を引いたのは、彼女の瞬間火力の高さ。つまり単体戦闘では素人並みのストナも、固定砲台となり得る状況であれば帝都屈指の猛者と化すという事だ。
「やったか!?」
団員の誰かが叫ぶ。
しかし、その歓喜の声を掻き消す様に着弾地点を漂う黒煙が切り裂かれ、内部から一つの影が飛び出した。
「――今のは少々面食らった。私も他の者達の事は強く言えんな」
「そんな……ッ!? アレでもダメなのかよ!」
影の正体は、当然レスター。恐らくさっきの激流壁を突破した時と同様、直前に斬撃を放って威力を相殺したのだろう。
それでも流石に無傷ではないようであり、身体の各所に黒い煤が付着している。とはいえ、逆を言えばその程度の負傷度合いでしかなく、戦闘には何ら支障はない。寧ろ目標である帝都まで、流れ作業で通り過ぎて行こうとしていた奴の闘志に火をつける結果と相成った。
「有象無象と侮るのは愚策……貴様らは確かに私の敵だと認めざるをえまい。此処で摘んでおくべきか……」
「くっ……!」
先ほどまで大きく開いていた距離は、最早無いに等しい。それを認識した団員達の表情が凍り付く。
対するレスターがそんな面々に右腕を
「ここは絶対に通させない!」
リリアが砲撃の目の前に立ち塞がる。
「太古より宿りし守護の輝きよ、闇を照らす光となれ! “ズウェートカテドラル”――ッッ!!!!」
大盾の先で地面を殴りつければ、白き光と共に巨大な魔力障壁が展開。暗き狂闇を遮断する。初めて見る魔法だ。恐らくはフォリア家に伝わる奥義の一つなのだろう。
術者の地力の低さ、魔力運用技術の練度不足からなる燃費の悪さ等を鑑みれば、現時点での実戦運用は現実的ではない。それでも単純な防御力という意味合いであれば、“
“聖盾”という生まれ持った最強クラスの
「はっ! 上等だっ!!」
そして、レスターが攻撃態勢に入ったままであるという事は、防御に割くリソースが限りなく低下しているという事。
攻勢に出るのは――大技を放つタイミングは、ここしかない。
「ブチかますぜっ!! “シュラーゲンインパクト”――ォォッ!!!!!!」
デルトの右腕に束ねられているのは、激しい魔力の球形。そこからの動作はあまりにシンプル。右腕を振り抜き、迸る魔力をレスターに向けて撃ち放った。この魔法は見覚えがある。騎士団合流時の親善試合においてデルトが見せたファオスト家の奥義――一撃必殺の大出力拳撃だ。
拳撃と侮るなかれとでも称するべき広範囲攻撃。初見かつリリアの盾と鍔是り合っているレスターに回避する手段はない。
「っ!!」
ストナの砲撃に引き続き、再びの着弾。デルトの拳撃は容易く大地を抉り飛ばし、巨大なクレーターを形作る。周辺への被害が威力の高さを如実に表していた。
「――今のも、まともに受けていたら少々拙かったかもしれんな。やはり認識を改める必要がありそうだ」
「ちっ! 涼しい顔しやがって」
黒煙が晴れる。揺らめく大刃と二本の大槍――今回も無傷とは言えないが全くの軽症。異形の悪魔が健在な様を白日の下に晒す。
名家の跡取り三人がかりによる最大魔法も、レスターの鎧に対して少しばかりの傷を付けるに留まった。
「それでも進軍は止まった! 全員で囲って攻め立てれば!」
「俺達でも押し切れる!」
「行くしかないッ!!」
確かに手傷を負わせる事は叶わなかったが、流石のレスターも今は足を止めている。この状況ならレスターを捉える事が出来ると踏んだのか、これまで背後で控えていた近接部隊が一斉に飛び掛かった。
長剣、長槍、戦斧、手甲――様々な近接用武装が魔力を纏ってレスターに差し向けられる。
「行くぞッ! “
「了解ッッ!!!!」
東西南北それぞれ縦一列で並び、時間差を付けながら一気に突撃。斬りつけた者が次々と走り抜ける形で攻撃を加え続けるという多人数対一を想定した陣形。格上を
「“ディバインスラッシュ”――ッ!!」
「“サンダースラッシュ”――!!」
「“アースブレイター”!!!!」
「“マギカフィスト”!!」
質より量、団員の多刃が全方位からレスターを強襲する。
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