第276話 限界バトル
ここで後手に回ってしまえば、一気に押し込まれる。帝都を一蹴したレスターが戻ってこようものなら、それこそマルコシアスとの挟撃となってしまい、万が一の勝機も消え失せるだろう。
つまりこの俺達こそが最終防衛線。何が何でも此処を突破されるわけにはいかない。
「ほう、我を前に他に気をやるとはッ！」
だが、そうは問屋が卸さないとばかりに巨剣が振り下ろされる。咄嗟に双翅を閉じて防御するが、凄まじい圧力を受けて自分の表情が歪むのを感じた。
「ぐ……ッ！？ 相変わらず……この馬鹿力が……！」
マルコシアスは自らに迫る拳撃を片手で受け止めてリゲラごと放り投げた挙句、雨の様に降り注ぐ魔力弾を
その上、先ほどよりも遥かに増した膂力によって、鍔是り合いの中で双翅に
「さて、どこまで耐えられる？」
「くそっ！？」
現状、攻撃を受け流す事も鍔迫り合いからの脱出も不可能。全身を覆う様に双翅を閉じる防御体制を執ると機動力が大幅に低下する為、全面展開時の高速機動を行う事が出来ないからだ。それは本来躱さなければならなかった攻撃を防御してしまった現状において、あまりに致命的過ぎる隙を晒す要因となる。
双翅ごと打ち飛ばされるか、このまま盾ごと叩き切られるか――どちらにせよ、致命傷は免れない。
「アーク君ッ！」
危急の最中、視界の端で閃光が奔り、巨剣の根本に偃月刀が叩き付けられる。
「これ以上、喪ってたまるものか！」
「話に聞く以上に
更にセラスとキュレネさんが刃を突き出して援護に入ってくれた。だが、前者は左腕から放たれた魔力砲で塞き止められ、後者は鍔是り合う俺達ごとを薙ぎ払うかのような剣戟で防がれてしまう。
そんな軌道で剣を振り抜かれたのだから、先に攻撃を受けていた俺とルインさんも共に弾かれ、身体を宙に投げ出される。キュレネさんは羽毛の様に柔らかく、ルインさんは地面を蹴り割りながら着地。
対して俺は、三人の援護よって斬撃の威力が殺されたおかげで地面に叩き付けられる事なく、空中に逃れる事が出来た。そして、追撃に備えて双翅を即時展開、同時に魔力を流して損傷を修復する。しかし、奴は大剣を肩に担いで宙に佇むのみだった。
「中々、
「言ってろッ！」
さっきの前衛五人編成とは異なり、現在はこちらの数も増えて陣形のバランスも整っている。流石に先ほどより総合戦闘能力は落ちているのだろうが、この七対一でもこちらからの有効打が皆無ともなれば、状況が芳しくないのは言うまでもない。非常識という言葉がこれほど当てはまる状況はそうないだろう。
奴の非常識な戦闘能力は最初から分かっていた為に今更心が折れる事はないが、厳しい状況には変わりない。
「では、ご健闘を……」
そうして睨み合う俺達を他所に、闇牙の魔騎士が躍動。二対四枚の牙翼が展開されたかと思えば、巨大な
細身のレスターに対して、ずんぐりとしたシルエットの
「あの図体でなんて機動力なの！？ いや、突進力……！！」
しかし、その実は逆――大出力が
何より、大きく開けた荒野と被害を気にしないで暴れられる帝都での戦いにおいては、出力の加減をする必要がない。つまり実質弱点にはなり得ないという事。強いて言うのなら、通常状態より燃費が悪くなる程度のものであるはずだ。
だが、奴はこの局面で“
「突破された！ 構えろ、リリアッ！！」
後ろの連中が殺られる。
俺達は此処を動けない。
そんな絶望的な状況の中、魔王の右腕による進軍が始まった。
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