第274話 最終決戦
天頂高くから一振りで引き裂かれたように城壁。その向こう側で深淵の光柱が猛々しく存在を主張している。帝都の外にまで戦場が広がっている事には驚いたが、あの禍々しい輝きを他の何とも見紛うことはない。戦場が目の前に迫って来ていると認識した瞬間、
「あの闇の波動……間違いない。城壁を超えた後に散開! 後はそれぞれの指揮系統に従ってくれ! 俺達は本丸を狙い撃つ!」
「了解ッ!」
胸に去来する様々な想い。だが、全てを背負って前に進む。
今の俺達に作戦と呼べるような高尚なモノはない。というか、急場凌ぎで立てた作戦が通用するような生半可な相手ではない為、最早必要ないというべきか。
その上、俺達が向かう戦場は帝都の街を超えた荒野。大きく開けた地形であるし、マルコシアス相手では城壁や崖も障害物となり得ないだろう。一ヶ所に固まって全滅する事は避けなければならないが、下手に戦力を散らすのも悪手でしかない。結局の所、前衛、後衛、補助役をバランスよく散らした部隊で連携しながら戦う――以外の作戦など、そもそも立てようがなかったという事だ。
限界に挑み続ける――それが俺たちに出来る事。だから、一番勝率の高い方法を模索した結果がいつも通りの戦いだった。
「
城壁の裂け目を抜けて戦場の荒野に躍り出る。
真っ先に視界に飛び込んで来たのは、闇を纏う巨剣。そこからの行動は
「凍てつく棺の内にて深淵の眠りを与えよ! “
人間であったモノ、魔族であったモノ、
そんな地獄の戦場において辛うじて生き残っているのは遠征組の一部と皇族、それとマルコシアスとレスターのみ。
案の定というべきか戦況は最悪。いや、よく保たせてくれたというべきか。であれば、次は俺達の番。選手交代だ。
「はぁ……はぁっ!? な……ッ!? あれは……」
「ほう……これはまた……」
突然の襲来を受け、ブレーヴとマルコシアスを含めた戦場の誰もが俺達の存在に釘付けとなった。それこそがこちらの狙い。全滅寸前の共同戦線と皇族から魔族連中の気を引く事が出来たという証明。
「負傷者を連れて一端退け! ここからは俺達が……!」
氷竜が双翼を
何故、わざわざ正面から突っ込むのかと言えば、至極単純。平地という地形の特性上、そもそもからして奴らの虚を突くのは不可能だからだ。というか、そんなレベルの相手ならさっきの戦闘で倒せていた筈だし、こちらにも戦力を温存していられる余裕もない。
何より連中相手に一瞬でも気を抜けば、間違いなく瞬殺される。故に正面から戦う以外に道はない。
「ふっ、まさかあの状況で命を拾ったばかりか、再び我の前に現れようとはなァ!!」
「生憎と死ぬわけにはいかない。まだ何も果たしていないからなッ!」
津波の様な斬撃と氷竜が激突。威力では押し負けるが、奴の斬撃前方を凍結させた。結果、直進しようとした斬撃が斜めに反れていく。
そのタイミングで双翅から魔力を放出。高速機動を以てマルコシアスに肉薄し、今もに殺されかかっていた皇族とその近くで倒れ伏している遠征組の前に躍り出る。そして、マルコシアスに刃を差し向け、再びの開戦と相成った。
「最早勝機など無いと理解しているであろうに、せっかく拾った命を無駄にするつもりか?」
「違うッ! 俺達が生き残った事を無駄にしない為に此処に来たッ!」
既に背後の連中に戦力としての期待は出来ない。ここから先は、俺達の戦場――最終決戦。
「そういう事だッ! テメェだけは、ここで……ッッ!!!!」
「貴様は……それに……」
背水の陣で黒閃を奔らせる俺の背後からリゲラが突出し、土塊を纏う拳撃を連続で繰り出す。大剣の腹で拳を受け止めるマルコシアスだったが、その表情は俺の時以上の驚きに染まる。更にそのタイミングで水流の矢が飛来し、奴を強襲した。それもまた、奴にとっては予想外。
何故ならマルコシアスからすれば、リゲラもアリシアもさっきの戦闘で一蹴した相手でしかないからだ。曲がりなりにも最後まで立っていた俺だけではなく、リゲラ達まで傷を癒して再び戦場に現れたのだから、さしもの奴も驚かざるを得ないのだろう。だが、所詮は驚き止まりであり、戦況を覆すには到底至らない。
「これ以上は、やらせないッ!!」
煌めく雷轟。
永久の紫天。
円環の激流。
「くはははっっ!!!! 新顔も含めてよく集ったものだ! だが、これだけ力の差を見せつけられてまだ我に向かってこようとはなァ!!」
しかし、そんな連撃も深淵の剛裂によって対処されてしまう。あまりに常識外れな光景だが、そんな事は誰もが織り込み済み。皆が弾かれた所で、間髪入れずに水流の矢と火球の嵐がマルコシアスに向けて降り注ぐ。
「色々と返さないといけない借りがあるのよッ!!」
「貴方は……ここで倒れるべき存在だッ!!」
アリシアとエリル――後衛二人による決死の攻撃。彼女達を突き動かす想いの裏側にあるのは当然――。
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