第268話 目-Resurrection-醒
「どうせすべて滅ぼす事には変わりないから、どうなってもいい。だから精々勝手に潰し合えとでもいうつもりなの!? 一体、どこまで……ッ!」
ルインさんの怒りの叫びが戦場に響く。
マルコシアスが広域殲滅魔法を使うことなく、わざわざ地上に降りて全ての生物を蹂躙している理由。それは広域殲滅魔法で敵を一掃してしまうのが退屈だという一点に尽きるのだろう。
奴からすれば、この戦争は勝ち負けを決するものじゃない。自分一人でどうにでもなる闘いに、わざわざ相克魔族を参戦させて潰し合う様を愉しもうというだけだ。つまりは最初から勝敗が付いた上でのゲームでしかない。
「だからこそ、奴のお眼鏡に叶った俺達に対しては“惜しい”だったわけだ」
「奴の時代の
「ああ、だろうな」
マルコシアスと同じ視点に立って前に立ち塞がる為には、それ相応の力を要求される。有象無象で無価値な駒ではなく、壁を超えた強者であると奴に認めさせなければならないからだ。つまりは、そうなれなければ取るに足らない愚者のまま。それが今、この状況なのだろう。
堕落したこの世界に価値はなく、彼の神話の時代は素晴らしい。何とも分かりやすい極論だった。
「なら、こんな所でじっとしている場合じゃねぇな」
「そうね、受けた借りは返さなくては……」
皆の表情が重苦しくなる中、聞き覚えのある声が響いて来る。
「アリシア、リゲラ……!?」
「二人共目が覚めたんだね!」
何事かと振り返れば、先の戦いで重傷を負った二人が上体を起こしてこちらに視線を向けて来ていた。
「最悪の寝覚めだけどな」
「右に同じく」
その表情は決して芳しいものとは言えないが、まだ闘志が燃え滾っているというのが直に伝わって来る。それを表すかのように、二人ともこのまま治療を続ければ何とかなるだろうという程度には回復を果たしていた。
「それは幸いだが……」
俺達の方も戦線復帰は時間の問題だ。しかし、だからと言って、のこのこ戻ってどうにかなるような状況じゃない。
切り札と目されていた“
虎の子であり最大火力だった“
打てる手は全て打ったが、奴を
その上、偶発的に至った原初魔法・
今のまま戻っても、さっきの二の舞になるというのは明白だろう。
「アーク達が蹴散らされ、皇族連中も見失った。状況が悪いわね」
「ええ、結果的にかなり時間は稼いだ形になったはずなので、広域魔法に巻き込まれていないとは思いますが……」
現状はキュレネさんの言う通りであり、それは誰もが理解している。しかし、人を隠すには人の中――これだけ戦況が混乱している以上、さっきの今でもう皇族が討たれている可能性はかなり低い。
というか、そんな事になっていれば、もっとアクションがあっていいはずだ。決して多くはないだろうが、まだ俺達にも時間は残されている。
「そういえば、キュレネさんとメイズ達はどうして? それにリリア達も……」
「アーク達と分かれて走り回っている時、名家御一行と一群部隊がニエンテとかいうデカい魔族の部隊と戦っている所に遭遇したのよ」
「うん、それで二人に協力してもらって、魔族の人を何とか
「結果的に、我々がグレイブ達と戦っている所に鉢合わせたというわけだ。そして、一悶着ありつつも、互いに肩を並べて彼奴等も討った。おかげで此処の援護に来るのが遅れてしまったわけだが……あの破壊の光に巻き込まれず、皆の治療にこぎつけられた。怪我の光明といった所か」
「そうか、魔族達を……」
キュレネさん、リリア、メイズの順でこれまでの経緯を口にした。
ここまで主要魔族が数を減らしている上に、皇族には一流の護衛が付いている。やはり皇族生存の望みは、十分にあると考えていいはずだ。当然ながら、“今は”という条件付きではあるのは言うまでもない。
何故なら、今も城壁外でも闘いが続いている以上、戦域からの脱出は不可能に近いからだ。精々混乱に乗じて、帝都内部を逃げ惑うというのが関の山。故にあくまでも暫定の希望的観測でしかなく、このままマルコシアスが自由に動き回る事を許してしまえば、最後に待ち受けるのは生命根絶。その根幹は何ら変わっていない。
だからこそ、まだ立ち止まるわけにはいかない。
最早打開策はないのだとしても――。
暗雲が立ち込める中、俺達の全快が秒読みにまで迫って来た。
そんな時――。
「せ、生存者発見ッ!!」
悲鳴のような声音が俺達の鼓膜を震わせる。
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