第263話 崩壊へのカウントダウン

「化け物め……」


 険しい顔でセラスが呟く。


 さっきの“合体魔法ユニゾン・オリジン”に関して言えば、術者両名が“原初魔法ゼロ・オリジン”発動状態だったという事もあり、その威力は計り知れない。それこそ鎧を纏ったファヴニールの竜の息吹ドラゴンブレスにすら匹敵する超火力と言って差し支えないはずだ。照射系と単発の攻撃という差異で射程距離では劣るが、あれほど近距離でぶち込んだのだから、瞬間火力だけならブレスを上回っていた可能性すら秘めている。

 それにも拘らず、眼前のマルコシアスはほぼ無傷。

 対して俺達は、全員が近接職――前衛だ。


 つまり現状が証明してしまったのは、俺達の攻撃が奴には通用しないという絶望的な現実。

 攻撃が通らない以上、こちらに勝ち目がないという事。


「これは、ちょっと参ったのぉ……」


 その上、いくら以前より消耗が抑えられるようになったとは言っても、“原初魔法ゼロ・オリジン”が術者に負荷を強いる形態である事に変わりない。ジェノさんは当然、他の三人も安定性より火力を優先した無茶な魔力運用をしていたのだから、この激戦における消耗度合いは相当のものがあるはずだ。

 それこそ、比較的ニュートラルな状態で全力を出せる俺ですらこの光景に息を呑んだのだから、さっきの今で現実を突き付けられた他の面々が抱く感情は計り知れない。

 特にポラリスで戦った俺やルインさんからすれば、以前の手の抜き方が俗事レベルですらないと明確に突き付けられたのだから尚更だ。


 正しく八方塞がり。だが、唯一突破口があるとすれば――。


「……それなりに愉しめた。どうやら俗事はこれまでのようだ」


 俺達にとっても完全に未知数――限界を超えたジェノさんの一撃に一縷いちるの望みを託すしかない。


「大した太刀だ。今のは少しばかり驚かされた」

「……それにしては平然とし過ぎだけどな」

「ぬかせ、童。あれしきでこの我が倒れるわけがなかろう?」


 最早アイコンタクトなど必要ない。誰も考える事は同じ。

 更に相手が強力になった上に陽動役が一人減った状態で、どうやってマルコシアスにジェノさんの一撃を届かせるか――。

 俺達が何発撃っても決定打にならないのなら、勝つ為にはそれしかない。さっきまで以上の無茶だが、やり切るしかないだろう。


「それは……残念だなッ!」


 “合体魔法ユニゾン・オリジン”着弾時、前に閉じて盾とした双翅を即座に最大展開。漆黒の魔力を推進力としてマルコシアスに肉薄し、斬撃魔法を叩き込むべく処刑鎌デスサイズを振り下ろす。


「悪足掻きだ!」

「これまでに理不尽な出来事なんて腐るほど経験してきた! ここで折れる様なら、最初から戦争の舞台になど立つ資格なんてない!」

「はっ! 我相手にそこまで言い切るとはな! やはり人間にしておくには少々惜しいか!?」


 案の定というべきか、俺の斬撃魔法は戦斧によって防がれる。だが、今回は力比べをする気は更々ない。双翅の二次加速で勢いをつけ、処刑鎌デスサイズの刀身で滑らせる様に奴の攻撃を受け流す。

 更にマルコシアスの攻撃の反動も利用して一度離れながら、空中で大回転。二段加速した斬撃を兜割の要領で繰り出した。


「生憎と魔王様直々の交渉でも、立ち止まる気はないな!」


 処刑鎌デスサイズと大剣が交錯。しかし、今回ばかりは様相が異なる。

 大きく突き出た片刃――処刑鎌デスサイズの刀身の内側に奴の剣が回り込んでおり、完全に引っ掛けられたような形になっているからだ。


「ならば、ここで潰えるしかないな!」

「ち、っっ!?」


 ある種、戦闘スタイルからして全身加速装置の様なものであり、これまでの戦いからして俺自身も足が速い方だという自負はあった。

 更に奴自身の攻撃の勢いも利用した上で繰り出した最大出力の斬撃。

 それをあの斬り合いの中で見極められ、こんな曲劇染みた受け止められ方をされてしまったとあって、思わず体を硬直させてしまう。

 互いの武器や位置取りの関係上、脱出は不可能。余波で地面が砕ける程の魔力を帯びた戦斧が振り上げられた。


「終わりだな、童ッ!」

「――ッ!?」


 次の瞬間、破砕音と共に空中に投げ出され、その直後――錐揉みしながら地面に叩き付けられた。


「ぐっ……! アーク君!」


 響き渡った破砕音は、突っ込んで来たルインさんの偃月刀が戦斧と激突した事によるもの。俺自身の身体を斬り裂いたわけじゃない。


「ほう……あの状況で剣閃を打ち出して来るとはな……」


 そして、頬に薄っすらと切り傷を作ったマルコシアスは、五体満足・・・・な俺に対して愉し気に声を向けて来た。

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