黒銀ノ死神～職業無しなのでパーティーを追放されたが、特異職業“処刑者”だった事が判明。処刑鎌を極めたら最強になりました。今更戻って来いと言われてももう遅い。拾ってくれた美女とパーティーを組んだので！～

第262話 深淵ヨリ出シ怪物

「人の身で闇の力を宿すとはなんと哀れな事よ！」

「元はと言えば、お前が原因かもな！」

　双翅と処刑鎌（デスサイズ）の基部からも最高出力で魔力を放出するが、少しずつ押されていく。馬力が違うと言ってしまえばそれまでだが、こちらの全力を片手で受け止められたのだから文句の一つも吐きたくなるだろう。

「如何様にそのような状態になったのかは少し興味深いが……」

「どいつもこいつも同じような反応を……まあ、運命の悪戯みたいなものだ。おかげで何回も死にかけたけどな！」

「ほう、貴様のような存在は彼の時代でも見た事がないが……いくら俗事と言えど、今はそんな事をのたまっている場合ではない。些か残念ではあるが、異端因子（イレギュラー）は早々に潰しておくべきか！！」

　視界の端で永久の闇が持ち上がる。翳（かざ）された戦斧。巨大な闇刃が迫る。

「いつまでも貴方の思い通りになると思わない事だ！」

　その瞬間、俺の隣で熱風が吹き荒び、破砕音と共に巨大な力がぶつかり合う。

「アーク君、突っ込みすぎだよ！」

「その意気や良し……だが、私達を置いて行かれると困ってしまうな！」

　更に両サイドで燐光（フレア）が煌めいた。ルインさんが俺、セラスがジェノさんを後押しするように得物を突き出して鍔迫り合いに割り込んで来る。

「今度こそ両手を塞いだ！　叩き斬って行こうかのォ！！」

　“ナイトグリッサード”――魔力を纏って騎士団長の大剣が三倍ほどの大きさまで巨大化し、剛裂な一撃が繰り出される。

　完全に不意を突いた背後からの一撃。俺達も今度こそ逃がすまいとマルコシアスを釘付けにしている。今度こそ突破口を開けるはず――。

「狙いは上々、発想も悪くない……だがッ！」

「ぬうっ！？」

「やはり我には届かぬ！」

　だが、騎士団長の大剣は、奴の全身から噴き出した魔力残滓の壁に塞き止められる。その魔力残滓――闇の瘴気とも目せる壁は遠隔で操作出来るようであり、閉じた“死神双翅（デスフェイザー）”の様にマルコシアスを守る盾となっていた。

　これまでの戦いからして、高出力攻撃を近距離から打ち込めば魔力残滓の影響はないと想定していた俺達にとって大きな誤算。連携攻撃の足並みが崩れた瞬間だった。

　危機（ピンチ）の後には好機（チャンス）が来る。そんな言葉があるが、それは相手からしても同様。つまり攻勢から一転、攻め手を欠いた俺達に対して、好機（チャンス）の後に危機（ピンチ）がやって来るというのは必然事項だった。

「良き刃だ。彼の邪竜を退けたというのも偶然ではないという事か。なかなかどうして……これでは紛い物共で止めきれぬわけだ」

　更にマルコシアスの全身から魔力が吹き出す。その魔力はこれまで以上に純度が高く、途方もない深淵を覗かせる。同時に奴の膂力も増していき、俺達四人がかりでも抑えがきかなくなり始めた。

「貴様らは強者だ。それは認めよう。ならば、我もそれに応えようではないか！」

「くそっ！？　まだ上があるのか！？」

　先ほどまでは曲がりなりにも拮抗していたし、押し切られたと言ってもこれまでの戦闘で同時に奴とぶつかり合ったのは最大二人まで。しかし、今は四人同時で正面からの力比べだ。その上、俺を含めた全員が消耗を度外視して、さっきまでより遥かに出力を引き上げている。

　それでも尚、押し返されるとあって全員の表情が険しさを増していた。

「では、参ろうかッ！！」

「っ！？」

　バーナーの様に猛々しく迸る魔力。絶望的なまでの存在感。

　これが奴の本気。真の戦闘形態。

「セラス！」

「分かっているッ！」

　殺られる――誰もがそう思った事だろう。その瞬間、ルインさんとセラスは押し合いから離脱。互いに得物を振り上げながら斬撃魔法を起動し、雷と闇を融合させる。

「二振りの閃光よ、雷纏いて闇を穿て――ッ！　“双天雷燐紫戟斬”――ッッ！！」

　“合体魔法（ユニゾン・オリジン）”――雷紫の融合斬撃が放たれ、至近距離で斬り合っている俺達も含めて光と爆炎に呑み込まれた。

「っ、零距離で！？」

「全く無茶を！」

「ふぉ！　斬撃の進行上に儂もおったんじゃがのぉ」

　二人のモーションから次の動作が予測できた俺達は、前方から押し込まれる力を利用して半ば吹き飛ばされる様に脱出に成功。煙で軽くせき込みながら、至近距離で超火力攻撃を放った二人にジト目を向ける。

「ちゃんと躱してくれたんだから、結果オーライって事で……」

「あの状況では致し方なしだ。全滅するよりマシだろう？」

　さっきの一撃は下手をしたら近くの俺達も巻き込まれていたというか、あのタイミングでは確実にアウトだった。その上、万が一回避でもされようものなら、直線上に立っていた騎士団長も同様に巻き込まれていただろう。阿吽の呼吸とも言える咄嗟の判断がなければ、俺達ごと消し炭だったのは間違いない。

　まあ、だからこそ攻撃がヒットしたとも言えるわけだが――。

「ったく、ウチの女性陣は決断の早い事で……」

　結果的には助けられた形になるわけであり、即座に気持ちを切り替えて眼前の黒煙を睨み付ける。

　たった今放たれた“合体魔法（ユニゾン・オリジン）”は、こちらにとっては最高火力に等しい一撃。組み合わせを変えたり、もっと魔力を溜めたりなどで多少の差異はあるだろうが、マルコシアス相手に二人攻撃を直撃させる難度を鑑みれば、正直誤差の範囲だろう。

　故にさっきの一撃は、状況を一変させる起死回生の攻撃となり得るはずだったが――。

「――無傷、か……」

　黒煙を斬り裂いて揺らめく影。傷一つ負っていないマルコシアスを前に、背中に冷たいものが走ったのを実感した。