第259話 暴虐ノ魔王

 マルコシアスの得物から強大な魔力が迸る。


「何にせよ、人類最後の護り手と化した貴様らと、栄華の象徴である皇族共を潰せば人類は終わる。後は有象無象でしかないのだからなァ!」


 剛裂戟閃。

 激烈な勢いで肉薄して来た奴が繰り出す斬撃の破壊力は先ほどの比ではない。いよいよ本腰を入れて戦いに臨もうといった所か。

 そして、地響きを起こしながら砕け散る大地。俺達は一様に跳躍して回避しながら陣形を組む。対して悠然とこちらを射抜く視線。


「はい、そうですかとやらせるわけにいくか!」

「当然、退く理由はないね!」


 俺の背中からは悪魔の翼が顕現。他の四人は、眩い燐光フレアを全身に纏う。徹底抗戦――そんな言葉が相応しい状況だろう。

 いよいよを以ての最終決戦と相成った。


「ならば、全てを打ち砕いてくれる!」

「この……馬鹿力がっ!」


 ひるがえる戦斧。

 かざされる大剣。


 打ち下ろされる斬撃の鋭さ、熱さ、力強さ――これまでの敵とは全てにおいて桁が違う。

 一見奴の動きは力任せで派手なだけとも思えるが、実際の所は次元の違う突破力に高度な精彩さも兼ね備えている。正に異次元火力の斬撃の嵐が正確無比の精度で迫ってくるようなものだ。しかも、そんな必殺を超えた連撃が息を吐くように繰り出され続けるとあって、より一層質が悪いと言わざるを得ない。

 ならばと近接を避けて間合いを確保しようとしても、斬撃魔法で中距離ミドルレンジまでは対応されてしまう。更に距離を空ければ、剣先から撃ち放たれる砲撃魔法で遠距離ロングレンジまで攻撃の手が伸びて来る。そんな攻撃の嵐に踏鞴たたらを踏めば、即座の近距離クロスレンジ――数的有利を取っているのにも拘らず、付け入る隙が見つからない。

 その上、俺達を悩ませているのは奴の機動力や火力だけではなかった。


「効かぬなァ!」

「くそっ、こっちの攻撃が素で捻じ伏せられる!?」


 こちらには数的有利がある。故に誰かが狙われている時にそれ以外で反撃を加えているが、マルコシアスの全身から滲み出ている魔力残滓によって全て防がれてしまう。奴の猛攻を前に腰を据えて火力の高い魔法を放つ事が出来ていないとはいえ、“防御”行動にすら入る事なくこちらの攻撃が通らないのではお話にならない。

 自分達で言うのもアレだが、“原初魔法ゼロ・オリジン”発現者四人と破壊力に優れる魔力性質を持つ俺の五人がかりともなれば、人類側にとってはほぼ最強戦力の詰め合わせと断言してもいいだろう。強いて言うなら、背後で倒れている二人と別行動をとっている二人、ブレーヴ、メイズ辺りが揃えば、真にベストメンバーという事になるはずだ。

 しかし、現状それを望むのは酷――というか、立場も思想も違う俺達が集結する事ですら本来はありえない事だ。いつかのギルドで竜の牙ドラゴ・ファングにルインさんが加わったらドリームチームだと称した事もあったが、今回に関してはそれを遥かに凌駕する。

 だからこそ、俺達五人がかりで防戦一方だという現状がどれほど異常な事なのかは、考えるまでもないだろう。


「ぬぅっ!!」

「くっ、なんて威力なの!?」

「分かってはいたが、魔法の精度も剣技に負けず劣らずだな!」


 交差する青龍偃月刀と槍斧ハルバードが振り下ろされた大剣を受け止める。二人掛かりですらルインさん達の顔は苦悶に歪んでおり、剣戟の威力を示すかのように彼女達の足元が砕けて沈み込んでいく。


「だが、これで取り回しに優れる左の剣は塞いだ! ここから先は!」

「ほほ、儂らが突っ込む番じゃのぉ!」


 鍔是り合って足を止める三人の逆サイドから回り込むのは、ジェノさんと騎士団長。


「挟み撃ちなど、子供騙しよ!」

「無論、ただの挟撃じゃないわい! ぐっ……!?」


 マルコシアスは即座に戦斧を振りかざすが、言葉の通り突っ込んで来たのは騎士団長だけ。戦斧と大剣が激突する一方で、ジェノさんは更に勢いを付けて奴の背後に回り込む。

 要は頑丈な大剣を武器としている騎士団長を盾兼陽動役として足止め、ジェノさんがマルコシアス本体に攻撃を叩き込むという挟撃からの二重攻撃。両手が塞がっている奴に焔聖を纏う剣が迫る。


たぎれ炎熱! “プロメテイグナート”――ッ!」


 劫火の力を帯びて巨大化する刀身。漸く放てたこちらからの決定打となり得る一撃。


「ふっ、やはり今代の使い手の中の頂点……あの紛い物共よりも腕が立つようだが……」

「きゃっ!?」

「ぐっ!?」

「その程度で我に打ち克とうなどと……片腹痛いわッ!!」


 しかし斬撃の直撃前に両手を塞いでいた三人が力任せに吹き飛ばされ、ジェノさんの剣と奴の戦斧が激突。双方の刃が火花を散らす。そんな中、マルコシアスの大剣は完全にフリー、その切っ先が斬撃を受け止められて動けないジェノさんに向けられる。


「“絶・黒天新月斬”――ッ!!」


 それを見た瞬間、すかさず加速斬撃魔法を叩き込む。


「ふっ、貴様もだ! 童ッ!!」

「ちっ!?」


 しかし俺の斬撃も奴の注意を引くに留まり、大剣で押し返されるに留まった。結果、俺とジェノさんも左右に吹き飛ばされる。


「くっ……!」


 漸く魔力残滓を抜いて攻撃を加えられたのは良かったものの、連携攻撃をいとも容易く防がれた現状と共に俺達の顔つきは厳しい。五人がかりで出来ているのが、防戦と時間稼ぎともなれば自然な感情だろう。

 マルコシアスの強さは単純明快。理不尽とも言える戦闘能力だ。正直、もう一人の“原初魔法ゼロ・オリジン”発現者であるキュレネさんがこの場に居ても、防戦一方という現状が変わる事はないだろう。

 無論キュレネさんが頼りないというわけではなく、奴が強すぎるという意味合いだ。


「あまりに脆い!」

「それでも、退くわけにはいかない!」


 しかし、俺達に出来るのは前に進み続ける事だけだ。相手が如何に強大であっても関係ない。

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