第244話 漆黒を彩る爆炎の大華
俺達が攻勢に出たのを見計らい、メイズ達が全力で砲火を集中させる。
「まだだ! 持ち堪えろ!!」
円を描くように宙を舞う
「■■■――!!」
それでもお構いなしで上昇する邪竜。焼け石に水なのは火を見るより明らかだが、奴が攻撃を煩わしく思って動きが大振りになった瞬間――そこが最後の勝機。
俺達は皆が繋いでくれた時間を無駄にしない為に、収束し続けて来た魔力を一気に開放する。
「退きなッ! ガキ共!」
「“ゼピュロスブラスター”――ッッ!!!!」
渦を巻き、大気を震わせる超出力砲撃。荒れ狂う竜巻を思わせる風の砲撃がファヴニールの腹部に炸裂した。
「■■■■――!?」
これまで不意を突いた俺の初撃以外に動じる事の無かったファヴニールだったが、ここに来て漸く顔色を変える。上空のメイズ達に気を取られて回避が遅れたのか、防御力に自信があったが故に敢えて攻撃を受けたのかは定かじゃないが、流石にこの出力で不意打ちされるのは少しばかり予想外だったという所か。
しかし、渾身の砲撃も闇の鎧を薄く削るに留まり、奴の動揺を誘っただけ。でも、それでいい。
「いくら図体がデカかろうが、生き物には変わりないって事さね。ちっと大人しくしてな!」
砲撃の残滓が巨体の各所に小型竜巻となって絡みつき、その動きを抑制する。そう、セルケさんはダメージを通せると思って撃ったわけじゃない。本来の役割はファヴニールの行動を制限する事であり、以前風の属性変換を覚えたばかりの俺がラセット・ランサエーレにやったような拘束を大きな規模で行ったという事だ。
それは二重の意味で虚を突いた一撃。ここで砲火を一転に集結させる。
「“ダークランス・ジェノサイドシフト”――ッ!
セラスが生成した紫天の長槍が虚空を彩り、彼女の指示に合わせてファヴニールの関節部に降り注いだ。
豪雨の様な乱撃。少しずつではあるが闇の鎧を削り取っていく。
「■、■■■■■――!?」
「逃がすか! 吹き荒べ……“斬風轟翔牙”――ッ!!」
そんな中、俺が
相手が動きを止めている上に的がこれだけ巨大なのだから、攻撃を外すはずもなく直撃。その追撃を以てしても奴の強靭な装甲を貫くに至らないものの、翼膜や関節部に纏わり付く風刃が二重の拘束と化した。
「■■■――!!」
それを見計らって、レリティスを始めとした全ての
「灼き尽くす……“イグナイトブレイズ”――ッ!!」
追撃の数々に合わせて偃月刀が振り下ろされ、ルインさんは邪竜の土手っ腹目掛けて炎の斬撃を放つ。
直後――戦場の空に爆炎の大華が咲き誇った。
「■、■■■■■■――!?!?」
邪竜の咆哮が轟く。さっきまでとはまた別種の声音。恐らくそれは、苦悶と屈辱によるもの。連撃に次ぐ連撃によって、漸くダメージが通ったという事なのだろう。
普通に考えればいくら強力な魔法を使ったからといって、さっきまで通用しなかった攻撃が通るわけもない。だが、今回ばかりは事情が違う。
ファヴニールの全身を包むのは、
元々からして俺達が魔法で運用している炎や氷は、自然界のそれらとは様相が異なる。具体例を挙げれば、冷気で炎を凍らせる事も出来るし、雷撃で土塊を消滅させる事だって出来る。つまり魔力で生成されているが故に。氷は炎に弱いと言った自然の摂理に囚われないという事。無論、属性間での相性は存在するが、そんなものは術者の技量でどうにでもなってしまう程度でしかない為に重視されていないのが現状だ。
だが、その一方で俺達の行使する属性魔法は、自然界における炎や氷としての要素を完全に失っているというわけでもない。自然現象と同様に属性間で相性が存在するのが、それを証明しているだろう。
そして、この辺りの属性関係を考えれば、風の魔法と接触した炎が勢いを増した理由など容易に導き出せる事だろう。
「やっぱ、アタシは
爆炎嵐が風の牢獄との連鎖反応で何倍にも倍増してファヴニールを苦しめる中、
やはりこちらが本職と言うべきか、刀身が纏う魔力総量は巨大砲塔を象っていた先程までを遥かに上回っている。そして、この局面で放とうとしているという事は、恐らく彼女にとっても最強の攻撃。
「“スリュリィグラナート”――ォォ!!!!」
豪快に振り下ろされた大剣から烈風の巨大斬撃が飛翔し、足が止まっているファヴニールに直撃。今度は外側から周囲の火炎と連鎖反応を起こし、凄まじい熱気と衝撃が戦場の空を包む。特大爆発の激しさに戦域の誰もが身を固くするが、攻撃を加え終えたセルケさんの背を追い越すように俺達三人は一気に先行。
鎧に亀裂が入り始めた邪竜を前に極限まで収束した魔力を一気に解き放ち、最大出力で魔法を発動させる。
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