第243話 一斉攻撃
「しかし、どうする? いくらこちらの人数が増えたとはいえ、このままでは全滅だぞ」
新たな戦力を加えてファヴニールとの戦闘を再開した俺だったが、何度か切り結んだ後に弾かれ、隣に来たセラスに視線を向けられる。細められた彼女の目が状況の悪さを物語っていた。
「ああ、このまま普通に戦っていたら勝ち目はないだろうな。どうにかあの鎧を引き剥がさなくては……」
邪竜――ファヴニールは途轍もなく強い。理屈を捏ねる必要もなく、ただ単純に強い。
確かにこちらの戦力は随分と充実したが、小細工の通用しない理不尽なまでの強さの前には戦局を左右するには至らないというわけだ。地形を変える程の地震や津波、異常気象を相手にするのなら人間も魔族も大差ないという事なのだろう。
実際問題、奴があの闇の鎧を纏って以降、こちら側からはまともなダメージが与えられていない。人数が増えた事で、一人一人への負担が多少軽減されただけだ。そう考えれば、よくアレを相手に持ち堪える事が出来たと、少しばかり自分を褒めてやってもいいかもしれない。
と言っても、泣き言を吐いている場合ではないのだが――。
「搦め手が通用する相手じゃないし、今のままでは時間稼ぎは出来ても状況を打開する事は出来ない。それなら……」
「正攻法しかない……というわけか」
極論ではあるが、元々からして少しでも掠れば撃墜されるのだから、ファヴニールの超火力はこの際どうでもいい。最大の問題はやはりあの鎧だ。こちらからの攻撃は通らない上に狂化モンスターとしての性質や、あの体躯の大きさからして体力勝負でも勝てるわけがない。
セラスが言う通り、いくら数が増えようとも、いずれこちらが力尽きるのは自明の理と断言せざるを得ない。つまりは何とかしてあの鎧と鱗の二段防壁を突破し、最大火力をぶち込む以外に打開の手はないというわけだ。
「でも、せっかく数が増えて選択肢の幅が広がったんだ。それを活用しない手はない」
「手数に物を言わせて連続で魔法を叩き込む……頭がいい作戦とは言えないが、致し方ないか」
ファヴニールの強さは単純であるが故に対策の余地がない。なら、一点突破でこちらがその防御を上回り、一瞬の好機を作り出して確実に処理する。俺一人では手の打ちようがなかったが、これだけ戦力があれば話は別だ。無論、深い闇の中で一筋の光明を手繰り寄せる様な可能性でしかない事には変わりないが――。
「ほう……あの堅物のセラスが似た時分の少年と
「副族長……それはどういう意味ですか?」
攻め手の方針を固めた時、隣に付けたメイズから
「少々感慨深くてね。別に深い意味はないよ。尤も、今興味があるのは、君達が話していた内容についてだが……」
おどけるメイズだったが、すぐに戦士の顔を取り戻す。
「魔族側の見解としても、まともにアレと戦ったとして勝ち目はないというのは同意だ。力を結集するというのなら、こちらも陣形を変化させる用意があるが?」
「それはありがたいが……正直、分の悪い駆けになるぞ」
「最早退くという選択肢はなく、こちらから仕掛けなくては状況の打開は不可能。君達が命を賭すというのなら、我らもそれに応えよう。人間に忖度するつもりなど毛頭ないが、今は互いの目的は一致しているのだからね」
敵ではないが、手放しで味方というわけでもない。あくまで人間と魔族という線引きを明確にした上での共闘宣言。いや、ある意味では俺達と心中するという宣言なのかもしれない。セラスの想い、覚悟――彼女と同じ思想を共有する彼らとならば、勝負に出るのは悪くないはずだ。
俺達は視線を交わし合い、ファヴニールを誘導しながら陣形を組み替えていく。
「自分で跳ぶのとは全然違う……」
「おぉっと……地に足がついてないってのは、この事だねェ」
それぞれ別の
現状必要なのは、ファヴニールの鎧を打ち抜く超火力。その条件に当てはまるのは俺とセラス、それからこの二人だけ。俺がそうであった様に同じ高度まで上がって接近すれば、彼女達の攻撃も真価を発揮するという目算からの陣形だ。
因みにメイズは全体の指揮を取る為、俺達とは少々別枠扱いとなっている。
「左翼、高度を上げよ! 右翼は一部独立し、奴の背後に回り込め!」
メイズの指示に従い、魔族を乗せた
「さて……下は人口密集地であり、退避は不可能。勝っても負けても地獄が待っているわけだが……」
皆の戦いを見てセラスが呟く。これから行うのは、ファヴニールを相手に全力特攻とも言うべき無茶な行動。元々からして細い可能性を手繰り寄せる事が出来なければ勝機がないにも拘らず、この局面を乗り切ってもマルコシアスや魔族達との戦いが待っている。どちらも地獄への入り口でしかない。
「こんな戦いが起こらなくたって地獄みたいな世界なんだから、何があっても変わらないさ」
勝って前に進んでも、敗けて立ち止まるのだとしても生存の可能性は皆無に等しい。それなら一歩でも前に進む。それが俺に出来る唯一の事。
「行こう、皆が作ってくれるチャンスを逃すわけにはいかない」
俺達は眼前の戦場を睨み付ける。急降下からの急上昇――魔族達の動きを受け、ファヴニールが上を向く。そこに浴びせられる火球の嵐――。
「■■■■■■――!!!!」
しかし、鎧纏う邪竜にとって、
「総員、一斉攻撃――ッ!!」
対してメイズを始めとした魔族達は、上空から一斉に魔法を撃ち放つ。並のモンスターであれば一撃一撃が必殺になり得る威力ではあるが、あの邪竜相手では火球と合わせても傷一つ与えるにすら至らない。
しかし、ファヴニールが上空に舞い上がろうと姿勢を変えた為、鎧に包まれた土手っ腹が俺達の目の前に晒される。これこそが皆が作ってくれた最初で最後の
「行くぞ――ッ!!」
俺達は空を駆け、邪竜舞う戦場に突貫した。
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