第242話 真の共同戦線
「何を……」
見知らぬ男性から向けられたのは、様子を探るかのような視線。まるで俺の事を知っているかの様な口ぶりと相まって、不信感を抱かざるを得ない。
敵か味方か――ファヴニールとの戦闘真っ只中という極限状態の中にありながらも、難しい判断を迫れていた。
「――副族長!」
そんな時、今度は見覚えのある
「セラスか……よく無事だったものだ」
「いえ、それはお互い様です。それに……」
「今は何も言うな。そんな状況でもないだろう?」
会話内容からして男性とセラスは既知の仲。という事は――。
「紹介が遅れたな。私はメイズ・スレイター。非業の死を遂げた先代に変わっての代理ではあるが、今は魔族の長をしている者だ」
今姿を見せたのはやはりと言うべきか、マルコシアスの徴兵を拒否して故郷を追われた魔族達だった。そして、目の前の男性が生き残った連中のトップ――非戦派魔族の指揮官だという事。敵ではないのだろうが、安直に味方と捉えるわけにもいかない。そんな感情を内包しながら、困惑混じりで二人の魔族を見る。
「警戒するなとは言わんが、こちらに敵対の意思はない。無論、そちらが刃を向けてこないならば……という前提付きだがね」
しかし返って来たのは、こちら寄りの中間択。何よりも俺を驚かせたのは――。
「その条件を呑むというのであれば、我ら相克魔族は君達人間に手を貸す用意がある」
「つまりそれは……」
「共に戦おうと……いう事なのだがね」
魔族側から共闘を申し出て来た事だ。
確かにセラスから事前にその旨の話を訊いていたが、俺達にとっての魔族は比較的友好的な彼女とそれ以外の者達に分けられる。魔族達にも正義があり、彼ら自身の大義の下に誇りを持って戦っているという事は理解していたが、魔族=敵愾心全開というこれまでから一転して、いきなり援軍に来たと言われれば誰だって固まってしまうだろう。
「我々の討つべき相手は同じ。今は四の五の言っている場合ではないと判断した。故に肩を並べて共に刃を掲げるのであれば、悪い条件ではないと思うが?」
向けられる視線から邪気は感じ取れない。それにファヴニールの周りを飛ぶ
つまりは人間対魔族の全面戦争に対し、第三勢力として介入しているわけだ。そして、そんな彼らが共闘を申し出てくれているのだから、こちらの回答は一つしかない。
「こちらも貴方達に敵対するつもりはない。共闘を……というのなら、喜んで手を取らせて貰いたい」
呉越同舟――どんな形であれ、味方戦力が増えるのなら歓迎して然るべきだ。目の前の魔族が言っている事は尤もだし、何よりもセラスが認めている相手なら、とりあえずは信頼していいだろうという確信もあっての回答だった。
「アーク……」
そんな俺の言葉を訊いて、セラスは僅かに微笑を浮かべ、下のレリティスもどこかご機嫌な様子。少しばかりこそばゆい。
「ただ、俺は指揮官じゃない。この場では協力するけど、そういうのはもっと年長の人に言ってくれ」
「ふっ……心得た」
だが、相克魔族の現族長――メイズ・スレイターの手を取ったのは事実。これで新たに非戦派の相克魔族と狂化モンスターがこちらの戦列に加わる事になる。マルコシアスに対抗するべく種族の垣根を超えて集った戦士達――ある意味では、共同戦線が真に完成した瞬間なのかもしれない。
セラスの様な超レアケースではなく、多くの人間と魔族が肩を並べているという今の俺達の状況が全てを物語っているはずだ。
「そういう事なら、まずはこの局面を乗り切らねばな。散り散りになった皆と再会する為にも……」
セラスはレリティスを駆り、俺の隣まで来て声をかけて来る。依然として戦況が厳しい為、険しい表情は変わらずだが、やはり少しばかり機嫌が良いように感じられる。
まあ、いくら同性の理解者が数名いたとはいえ、敵陣のど真ん中と言って差し支えない帝都でたった一人の魔族として暮らしていたのだから、同胞達との再会に心躍る部分があるとしても無理はない。その上、時には冷たい目を向けられる事すらあったし、死んだと思っていた同胞との再会と考えれば感動も
それに加えて、俺達や自分以外の魔族が敵愾心を抱き合っていないという事も関係しているのかもしれない。要するに昔からの友人と新しい友人が仲良くしていて、嬉しいといった所か。まあ、この場合は親戚か上司と戦友が――という方が正しいのだろうが――。
「言われるまでもない。今は眼前の強敵を斬り伏せるだけだ」
なんにせよ、相克魔族非戦派との共闘は俺にとっても嬉しい事態に変わりない。
魔族の将と比べるのは酷かもしれないが、それでもセラスの証言と今までの闘いを思えば彼らの力は信用に値する。その上、レリティスを除けば、俺一人だった空中戦要員がこれでもかと増えてくれたのもありがたい。非常に大きな戦力と言えるだろう。
これまで苦しめられ続けて来た魔族の力が逆に俺達にとってプラス方面に作用するとは、得てして妙なものだ。でも、悪くはない。
「■、■■■■――!!!!」
マルコシアス打倒は最重要だが、残りの事は眼前の邪竜をどうにかしてから考えればいい。
とにかく今は、自分が成すべき事を果たすだけだ。
「来るぞ、アーク!」
「ああ、分かってる」
鎧纏いし邪竜を前に、俺は魔族達と肩を並べながら空を駆けた。
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