第225話 雷轟ノ戦乙女

「ちょっと厄介だね。このままだとこっちが先に疲れちゃうよ」

「ああ、それにあんな戦い方を続けていては、魔獣たちへの負担も計り知れん」


 ルインさんとセラスの表情は険しい。それはダリア達が繰り広げる理外を超えた戦闘と、凄惨な現状を憂いてのものだろう。打開策は明らか。でも、ダリア達の周りには、異常強化されたSランククラスのモンスターがゴロゴロいるとあって、術者を狙い撃つのは容易な事じゃない。

 仮に包囲網を突破できたとして、人間で言う所の補助職であるユリーゼですら冒険者Aランク上位クラス。ダリアに至っては、Sランク上位帯の戦闘能力を持っているとあって、苦戦は必至。その間に包囲、数と再生能力に物を言わせて殲滅される――なんて事は、想定して然るべき事態だ。

 つまり前衛にゴリゴリの魔獣、後衛にドSシスターズ。この陣形を如何に打ち崩すのかが、ダリア達ツーマンセルを相手にする際の鬼門になるという事だった。


「最期のお話は済んだかしら? なら、このままなぶり殺して上げるわ!」


 ダリアが棘付き鞭を下に叩きつけ、鈍い音と共に地表が砕け散った。それを合図に辺り一帯の狂化モンスターが二人へと襲い掛かる。


「モンスターは私が引き受ける。セラスは奥の二人を!」

「しかし、それではお前の負荷が……」

「無茶はお互い様でしょ? それに連携を分断しないと勝ち目がない。なら……!」

「……了解した」


 連携も理性もなく、ただ行き場のない苦しみを発散するかのように暴れまわる狂化モンスター。そんな彼らを尻目に、ルインさん達は視線を交わして頷き合った。

 二人の作戦は直球ど真ん中の正攻法。一人ずつに分かれて、それぞれが魔族、モンスターに相対。奏者ユリーゼ指揮者ダリア戦闘員モンスターからなる陣形を強引に分断するというものだ。二対無数という状況下とはいえ、個人の能力に物を言わせて危険性を無視した無茶な作戦と言わざるを得ない。しかし、他に道がないのも事実。


 そんな二人の眼前に異常狂化状態のマンティコアが迫り、異常に膨れ上がった異形の拳を振り上げた。


「行くよ、“原初魔法ゼロ・オリジン”――!」


 瞬間、ルインさんの全身を金色の光が包み、雷光が弾ける。


「■、■■■■■■■■■!?!?」


 それはルインさんが切り札を発動した事を示しており、全身から発せられる雷光の余波だけでマンティコアを消し炭に変えてしまう。


「ちっ、出たわね!? でも、忌々しいその姿ごと鮮血の磔に縫い付けてやるよ! 殺りな! このクソ下僕共!!」


 ケフェイド攻防戦での苦い経験からかダリアの表情が憤怒に変わり、彼女の指示を受けたモンスターたちの動きが活性化。自らと新たな力を見せつけるかのようだったこれまでとは異なり、一気に殲滅態勢へと移行した。


「私が道を作る。セラスは行って!」


 同時に偃月刀が振り上げられる。刀身が纏うのは、殲滅の雷轟。


「“青龍崩牙雷斬せいりゅうほうがらいざん”――ッ!!」


 そして、一閃。雷轟の斬撃が飛翔し、左右に揺れて地面を喰い破りながら多くのモンスターを巻き込んで進撃する。放たれた斬撃が誇る威力、速度、発射時間――全てにおいてケフェイド攻防戦の時を遥かに上回っていた。

 それを示すかの様に、全身に纏う燐光フレアも純度と深みが増しているのがはっきりと見て取れる。その上、明らかに以前と出で立ちが変わっているのは、背で煌めきながら波動を放っている金色の光輪。

 今、あの形態こそが、ルインさんが習得した“原初魔法ゼロ・オリジン”の完成形だという事なのだろう。離れていても凄まじい存在感を肌で感じてしまい、相対せずともそんな確信が持てる程だった。


「武運を祈る」

「うん、お互いにね」


 そうこうしている間、雷轟の斬撃によって敵狂化モンスター部隊のど真ん中が引き裂かれる形で、一本の道が出来上がる。荒れ果てた地面を紫天の光を纏ったセラスが疾駆。素早い身のこなしでダリア、ユリーゼの元へと辿り着く。


「貴方達に直接的な恨みはないけれど……斬る以外に助けてあげられる手立てはない……!」


 ルインさんは突貫したセラスを一瞥した後、燐光フレアが宿る瞳で周囲を見回しながら言い放った。先の斬撃で多少数を減らしたとはいえ、彼女の周辺には相も変わらずユリーゼが個別で使役していた大量の狂化モンスターの姿が残されている。外周辺りには、吹き飛んだ理性の中でも、主達を守護するべくセラスへの対処に動き出そうとしている者もおり――。


「出来るだけ痛くしないように頑張ってみるから……」


 直後、即座の疾駆に合わせて金色の閃光が戦場を奔り、一瞬で異形のモンスター達を薙ぎ倒した。驚異的な再生能力を持つ狂化モンスター達ではあるが、もう立ち上がる事はない。交錯の瞬間に斬撃を撃ち込まれ、それぞれがたった一撃で絶命しているからだ。

 流石にここまでの事態になったからか、醜悪な鈍い光を放つ瞳は最大の脅威に向けられる。恐らくは生存本能に従っての行動なのだろう。

 だが、これで連携の分断という目的の一つ・・は、果たしたといっていい。

 故に達成しなければならないのは、もう一つの目的。


「全員まとめて私が相手をしてあげる!」


 目的それを果たすべく、雷轟ノ戦乙女ワルキューレが戦場を駆ける。

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