第226話 二つの一騎当千
三人の女魔族が入れ違いに斬り結ぶ。
「ちぃ! ホントに忌々しいクソガキ共ね。アタシの下僕たちを……!」
「
ダリアの怒号が戦場に響く。棘付き鞭を硬質化させて
今は物量にものを言わせて押し込めているが、魔族側からの戦力供給が滞っている以上、この状況が続くのはダリア達にとって芳しくない事態だという事だ。
「黙りなさい! お姉様に口答えとは何事ですか!?」
「お前も……少しは自分で考えて刃を振り
「意味ならありますわ! お姉様受けた屈辱……百億倍にして返して差し上げます!」
武器の性質と双方の地力の差か、セラスの
「メインディッシュはあちらでバチバチいっている女。両手足を落とした後に長ったらしい髪を削ぎ、恥辱の限りを尽くした後に帝都で晒し首にしなければ、私の気は収まりませんわ!」
「貴様……!」
「勿論、貴方も同じ目に合わせた後に逃げ遂せた魔族残党の前に晒して差し上げましょう! マルコシアス様の寵愛を無下にした愚か者の貴方もねェ!!」
「私はそんな物を望んではいなかった!」
やはりというべきか、個の戦力としてはセラスが最も秀でていて、僅差でダリア、頭一つ半ほど落ちてユリーゼという具合に落ち着いている。しかし、前衛後衛が揃っており、巧みな連携を見せるダリア達の戦闘数値は、狂化モンスター無しでも単純な足し算の領域に収まるものじゃない。セラスが押しきれていないのがその証だ。
しかし、逆を言えば、そんな二人相手に一人で互角に戦えているセラスの力を賞賛すべき状況なのかもしれないが――。
「はん! 持つ者は持たざる者の事なんてお構いなしかい!? それで甘っちょろい思想に取り憑かれて、全部失って殺されかけるんだから笑い種だねぇ!?」
「私は、無用な犠牲が出るのを避けたいというだけだ! 蘇った奴の思想だけで始められたこんな戦い……一体何になる!? 私達、相克魔族が得る者など何もないのに!?」
「魔族の誇りを取り戻す! 鬱陶しい人間どもが地上から消え去る! それで十分だろうが!」
伸縮する棘付き鞭が
「その果てに我ら自身が消え去る未来が待っているのだとしても、まだ戦うというのか!?」
ダリア達は魔族の今と過去の在り方に憤っている。対するセラスは、魔族の今と未来を憂いている。その上で、自分たちの為に戦っている前者と誰かの為に戦っている後者。互いの視点、そして目指すべき場所が違うのだから、二つの意見が混じり合う事は無いのだろう。
故に同胞でありながら、この大戦の舞台で刃を向け合っている。そして、残る意思はどちらか片方だけ――。
「アンタみたいな裏切り者や逃げ腰の連中なんていなくても、魔族は繁栄していける! 弱い奴は淘汰されて絶滅するのさ!」
「そうですわ! ゴミはゴミらしく、私たちの言う事を訊いていればいいのです!」
「そんな……傲慢な理屈ッ!」
「強けりゃ、何でも許されるのよ! 全員ブチのめせば思う通りってね!」
紫天の斬撃と闇色の一閃、降り注ぐ魔力弾がぶつかり合う。戦力は拮抗。両者共に突破口を見出せない中、戦場は更なる変容を見せていく。
「そんな理屈が許されるわけない! 貴方のエゴで一体何人の人が泣くことになると思っているの!?」
魔族の戦場に雷光が割って入り、棘付き鞭を素手で掴み取ると眼前のダリアに真紅の双眸を向ける。
「な……っ!? この、ガキ……!?」
ダリア達は驚愕に目を見開き、飛び退きながらその背後に視線を向けるが、戦火の大地に無残に散らばる骸の山を見て言葉を失った。
「くっ……!?」
自らの手足であった狂化モンスター軍団の全滅に驚愕しているのはユリーゼも同様であり、旗色の悪さから次の手を打とうとするが――。
「
「させるか! “
「ぐ、がぁっ!?!?」
紫天を纏う
「ユリーゼ!? ちぃ!? 端から指揮官であるアタシらじゃなく、下僕共の全滅を狙っていたって事か!?」
「連携を分断しないと勝ち目はないっていうのなら――」
「倒し易い方から狙い撃つのは、間違いではないはずだ。尤も、セオリー通りなら貴様らから狙うべきなのは、誰が考えても当然の事なのだがな」
たった二人しかいない戦力を分散させてまで、二手に分かれた理由は言葉の通り。
大量のモンスターの相手を引き受けるルインさんが陽動で、セラスが本丸を狙い撃つ――と見せかけ、その実は逆。包囲網を突破したセラスが魔族を相手にしながら時間稼ぎに興じ、その間に“
無茶の甲斐もあって虚を突かれたダリア達よりも一手先の行動を可能とし、見事に思惑通りに事が運んだという結果だ。
そして、奇襲攻撃が決まり、ユリーゼが負傷。元から単体戦闘ではこちらに分があり、片割れであるルインさんが“
「――行くよ、セラス!」
「ああ、これしか道がないのなら、迷わず進むのみ――!」
雷轟と紫天からなる二重魔力斬撃――“
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます