黒銀ノ死神~職業無しなのでパーティーを追放されたが、特異職業“処刑者”だった事が判明。処刑鎌を極めたら最強になりました。今更戻って来いと言われてももう遅い。拾ってくれた美女とパーティーを組んだので!~
第220話 覚悟纏フ剣《Absolute Sodias》
第220話 覚悟纏フ剣《Absolute Sodias》
「漸く正面から向かい合ってくれたって事か……それにしても、その力は……」
俺は眼前のアドアに対して向かい合うと、
「お前達との戦いを経て、力を求めた結果が神話への回帰。と言っても、本来は全身に纏うはずの武装が、さっきまでの戦いのおかげでこの様だ」
「魔力を物質化させて身に纏う……どこかで訊いた話だ」
これまでより遥かに洗練された右腕を握りながら肩を竦めるアドアに対し、漆黒の翼を展開して応える。
「しかし……右腕一本に収束した事で全身武装した時よりも格段に練度が高まっている。いや、未完全な状態だったものが、まさか人間との戦いの中で完成を見るとは……皮肉どころの話じゃないな」
「喜ぶべきか嘆くべきかは分からないが、俺が成すべき事は変わらない。後はお前次第だ」
「……道は一つだけ。僕とお前の想いは相容れない。だからこそ、お前の想いの強さを示してみせろ!」
アドアの肩口から闇の魔力が吹き出し、同様に奴の拳も鈍い光を纏う。一見、これまでの様な荒々しさや迫力こそ感じないが、実際の驚異度は比肩しうるどころの話じゃない。それどころか、全く別次元と言っていいだろう。掠っただけだとしても間違いなく命はないと、本能が感じ取っている。それでも、俺の答えは変わりない。
「当然だ。貫いて進む。それこそが空っぽだった俺に宿った生きる理由なんだからな……」
“ミュルグレス”を正眼で構えて魔力を纏わせると、氷への魔力変換に並行する形で超収束していく。最早、余剰魔力が地面を凍てつかせるような事はない。収束した魔力を剣のみに一点集中し、
双翅の加速を最大へと引き上げ、大地を駆ける。
「行くぞ……!」
「ああ、これで最後だ」
そして、全てを呑み込んでしまうかと錯覚させられる程までに強大な魔力を宿した拳に対し、蒼黒の魔力を灯した剣を横薙ぎに振り抜く――。
「“ダークエルナートクライシス”――ッ!!!!」
「“アブソリュートソーディアス”――ッ!!」
先ほどの闇の隕石を遥かに凌ぐ一撃と、臨界点を超えた氷獄一閃。戦場を揺るがす二つの攻撃が激突し、閃光が全てを包み込んだ。
「――ふん、ここまで、とは……人間だろうが魔族だろうが、力と覚悟は揺るがないという事か……」
口元から鮮血を流しながら、アドアが呟く。新たな形態となった右腕は喪失しており、残る四肢も氷の剣山に囚われている。その上、奴の身体には真一文字に大きな傷が奔っていた。
対する俺は斬り抜けた体勢を崩し、長剣を支えに立っているような状態。生と死が紙一重ではあったが、どうにか大きな怪我は負っていない。
「認めざるを得ない。お前の勝ちだ」
アドアは更に言葉を紡ぐ。
「そう、か……」
あれだけ人間を毛嫌いしていた奴の口から出たとは思えない言葉ではあるが、自然と驚きはなかった。それは多分、本心でぶつかり合った事で奴自身の想いを感じ取ったからだ。ある意味、セラスとは全く別のベクトルで魔族であるアドアと通じ合った瞬間なのかもしれない。だからこそ、強敵だったアドアを討ったのにも拘らず俺の心に去来したのは、勝利の歓喜ではなく虚無感だけなのだろう。
しかし、そんな事は承知の上で剣を執った。相手の想いを踏み
「――アドア・シュピーゲルだ」
「え……?」
「そういえば、僕達はちゃんと名乗り合っていなかった……と思ってな」
そんな風に去来する想いを胸に刻み込んでいたが、突然の言葉に思わず驚いてしまう。でも言われてみれば、確かに俺が得たアドアの情報は初見のセラスとの会話を通じてのみだった。アドアからしても、俺の事は異形の武器を使う厄介な人間という認識でしかなかったのだろう。
戦場で幾度も刃を交えて死闘を演じたとはいえ、本当の意味で正面から向き合ったのは、さっきが初めてだという事は間違いない。今の今まで気づく事はなかったが、彼の口調も初見の時にセラスと話していた時のものに戻っている。ならば、俺も答えないわけにはいかない。
「アーク・グラディウス……それがお前を討った者の名だ」
そう答えると首を回して俺と向き合ったアドアは一瞬の瞑目の末、言葉を紡ぎ始める。それは多分、最期の言葉。
「――強き力を持っている優れた魔族が辺境の地に押し込められ、弱く未完全な人間が旺盛を極めている。そんな世界が許せなかった。それを良しとしている魔族もまた、同じ……。だから僕は戦場を求めたんだ。神話の時代を生き抜いて来たあの方の意志を免罪符にしてね」
「何故、そこまでして……」
「不完全で歪な世界を許容して、ただ生きていく事など耐えられない。それは生きながらに死んでいるも同然……停滞する世界に価値などない。そう思うから……」
“お前はどうだ?”とばかりに向けられる視線。俺はアドアを否定する言葉を持ち合わせていなかった。
「人間と魔獣が共生しているというのなら、歴史の影に押しやられて日の光を浴びられなくなった魔族は何のために存在し、何の為に生きているのか……。きっと、僕はそれが知りたかった」
「だから、その答えを戦場に求めたのか?」
「生の感情がぶつかり合う戦場でなら何かが分かると思った。人間が滅びるというのなら、それも一つの理由になる。もし魔族が滅びるというのなら、所詮はそこまでの存在だったという事。こんな世界が壊れようとどうでもいい。ただ、その果ての答えを……」
俺達が生きる世界。不完全で醜く、大嫌いな世界。今、この世界に守るだけの価値があるのかと問われれば、首を縦に振れないというのが正直な所だった。
「だが、正義でもなければ悪でもない。黒にも白にも染まらずに人間と魔族……双方の為に歩む選択をした者が、その前に立ち塞がるとは……。確かに、憎しみと虚無を束ねただけの僕では、始めから勝つ事など出来なかったのかもしれないな」
世界に絶望したのは俺もアドアも同じ。いや、そんな者達をもっと多く知っている。俺達のような存在が生まれてしまう世界を手放しで肯定する事など出来ない。それでも、守らなければ明日はない。今にも消え行く命の灯を前に、複雑な感情が絡み合って渦を巻く。
「もし……もっと早く
あれだけ激しく燃え上がっていた命も消えるのは、ほんの一瞬。幾度となく刃を交えた魔族の戦士は、その命全てを使い果たして鼓動を止めた。
「――もし、か……」
アドアの視線の先には、今も激戦を繰り広げているセラスの姿。最早、IFを考える事に意味はない。だから、渦巻く感情は握り潰し、自らに刻み込んで進むのみ。
俺は眼前の戦場へ目を向け、長剣を
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