第203話 Evolution Warriors

「貴様だけは、この俺がッ!」

「やられた分はやり返す!」

「性懲りもなく――ッ!」


 俺に迫る闇腕と小剣。


「そこの電撃娘には借りがあるのよねェ!!」

「くっ、またッ!?」


 ルインさんに迫る棘付き鞭。


「裏切り者、抹殺」

「少しは自分で考えて行動したらどうなのだ!?」


 セラスには巨拳が振り下ろされる。


 俺たちの側にセラスが加わっているとはいえ、その光景は殆どケフェイド攻防戦の焼き直し。異なっているのは、皆の素の実力が跳ね上がっている事だろう。


「“ダークブレイクフィスト”――ッッ!!!!」

「“絶・黒天新月斬”――ッ!!」


 互いに進化した魔法が激突。漆黒の刃で闇色の鎧腕を斬り裂く。


「ぐ……っ!? やはり吹き飛ばされるか……だがッ!?」

「再生速度が段違い……だなっ!」


 以前にも増した破壊力でアドアの魔法を捻じ伏せたが、裂けて吹っ飛んだ鎧腕が超速再生。減速することなく迫って来る。


「魔法を斬り飛ばされるのを最初から想定して強引に突っ込んで来るとは……」

「人間風情に押されるのは忌々しいが、貴様相手にはこちらの方が効率がいいんでな! このまま握り潰してやるよ!」

「そう思い通りにはいかない!」


 予想外の反撃だったが、“死神双翅デスフェイザー”から魔力を放出して平行移動。鎧腕の側部に処刑鎌デスサイズの石突を押し当て、そのままの勢いで横に反れる様に空中に逃れる。


「何故そこまで人間を憎む!? こんな戦いに意味など……!」

「意味ならあるさ! 貴様ら下等な人間が我が物顔で地上にのさばっているにも拘らず、

我ら高潔な魔族が辺境に追いやられて生きるなんて許される事ではないのだからねェ!!!!」

「それは神話の時代から蘇ったマルコシアスの論理だろう!? そんな遥か太古の因縁を今更持ち出して何の意味がある!?」

「我ら魔族は永きに渡る幻影から目覚め、あの方に覚醒を促されたのだ! そして、真なる使命に目覚めた!」


 巨大化した闇脚による蹴りを回り込むように躱し、膝から先を処刑鎌デスサイズで両断。しかし、水や風を切ったのかと思わされる様な速度で即時再生してしまい、何事もなかったかの様に上段から拳が迫って来る。

 火力・出力・再生速度――どれをとっても以前までとは段違い。だが、こちらの火力と機動力も桁違いに跳ね上がっている。最高加速で鎧腕に沿うように飛翔し、一気にアドアの眼前へと躍り出た。


「お前達だって、人間の可能性の一部だろうに!」

「違うッ! 我ら相克魔族は誇り高き魔族の末裔――貴様ら下等な人間とは断じて格が違うんだ!!」


 処刑鎌デスサイズと鎧拳が再び交錯する。


「こんな事をしても戻るものなど何もない! 本当にマルコシアスがお前達の先導者になってくれると思っているのか!?」

「うるさいっ! 何も知らぬ人間風情がこの俺に指図するなァ!!!!」

「く……っ!? 本当に滅ぼしたいのか!? 世界も……お前たち自身もッ!!」


 互いに弾かれ合い、二つの闇が何度も激突する。俺達の想いは平行線を辿り、拮抗状態。どちらも攻め込むタイミングをうかがっていた。

 そんな時、突破口を見出せずにアドアと鍔是っている俺の周囲を闇の小剣群が取り囲む。


「“ブレイドダンス・エアリアルシフト”――」

「大量の小剣……囲まれたか!? しかし、この量は……」


 全方位に配置されている闇を纏う鋭い刃。抜け道など存在しない。


「ふん、横槍を入れられるとはな……!」

「こちらも形状変化を……!?」


 同時にアドアの鎧腕も人型ヒューマノイドタイプから形状が変化。竜を思わせる鋭い指先からは、触手の様に鋭利な爪が伸びて迫って来ている。


剣群発射ブレードファイアー!!」

「くそっ!? やるしかないか……!」


 初見かつ凄まじい威力であろう魔法での挟撃。最高出力で振り切るしかないと刀身と双翅に魔力を巡らせるが――。


「“ハイドロアクエリア”――ッ!!」

「何ッ!?」

「……私の小剣が流されるッ!」


 激流を纏って巨大化した長槍の穂先が煌めき、レーヴェの小剣群を叩き落す。その間、俺は突然の乱入で驚愕しているアドアの爪先を切り落としながら距離を取った。


「はーい、お姉さんですよー。どう? 惚れちゃった?」


 アドアの攻撃範囲レンジ外に着地すれば、乱入者であるキュレネさんが明るい笑みを向けて来る。


「もうちょっと勢いを緩めて下さいよ。前髪がビショビショだ」

「あら、それはゴメンなさい。アークは濡れる方じゃなくて、私を濡らす方が好きだものね」

「また誤解を招きそうな発言を……」


 口調は軽く、眼差しは鋭い。頼もしい乱入者の存在を受けて少しばかり表情が綻ぶ。


「“サーディアバスター”――ッ!!」

「“デストグランディル”――ッッ!!!!」


 その傍ら、エリルの砲撃とリゲラの拳撃がそれぞれの戦場に撃ち放たれる。理外からの強力な攻撃を受け、得物を交錯させていたルインさんとセラスも魔族達から距離を取る。


「やはり立ち塞がるのはお前達か……」

「ふん、まさかもう体勢を立て直して来るなんてね」


 四対三から、四対六へ。さっきまでとは一転して、今度はこちらに有利な状況だ。


「ちょっと口惜しいけれど、ここまで足止めできれば上等ね。良い挨拶になったかしら?」

「挨拶……だとォ!? いきなり何だってんだッ!」

「ちょっとした目覚ましよ。いきなり総攻撃じゃ、貴方達が苦しむ所が見られないでしょう?」


 俺達は互いに横一列で相対。エリル達が率いていたであろう一部団員も戦場に姿を現し、これで数的有利は完全に逆転したが、当のダリアは燃え上がる街をバックに加虐的な笑みを浮かべている。


「というわけで、本番は少しばかり先の機会に取っておきましょう。流石に余計なのが増えて来ちゃったしね」

「逃げやがるってのか!?」

「ふん、本来ならお前達を殲滅する程度楽勝だが、あの方の命令だからな」

「致し方、なし……」


 相対する俺達を尻目に、魔族達は一ヶ所に集った。


「逃がすと思っているのか!?」

「はっ、セラスちゃんもすっかり人間が板に付いてるわねぇ! 腰抜けの長老サマも、あの世でお喜びだろうさ!」


 撤退の兆候を感じ取って飛び掛かるセラスだったが、打ち放たれた棘付き鞭に対して槍斧ハルバードで迎撃する事を強制され、進撃の足が止まる。そんな彼女の表情は驚愕と怒りに染まっていた。


「貴様ら……過去の亡霊の寝言に心を売って、今の長までも廃したというのか!?」

「はんっ! 自分達の領分を見失わずに自然の一部として他の生物とも共生する――なんて、しみったれた風習を捨てられないクソ長老の方が、よっぽど過去の亡霊じゃないのかい!?」

「とうとう、相克魔族の誇りまでも見失ったか!?」


 俺達の目の前では、相克魔族同士の意志のぶつかり合いが繰り広げられる。だが、両者の憤りと言い知れぬ因縁を感じて、俺達は硬直を選択せざるを得ない。


「時間切れ。“ブレイドダンス”――っ!」


 その瞬間、こちらの連携が崩れた隙を目敏く見逃さなかったレーヴェが魔法術式を起動させ、小剣の幕が俺達と魔族達を隔てる壁となった。


「くそっ!」


 “ダークバニッシュメント”――セラスは斬撃魔法で小剣の幕を吹き飛ばしたが、魔族の姿は爆炎と化した小剣の向こう側から消えていた。

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