第192話 盾の少女との邂逅
慰安を兼ねた二泊三日のバカンスから二ヵ月が経過した。つまりは魔族が攻めて来るといわれていた当初の予測を大幅に超え、あのケフェイド攻防戦以降は至って平和な日々が続いているという事だ。
そろそろ緊張感やモチベーションが低下し始める頃だが、人類存亡のデッドラインを超えているのも事実。魔族側の動向が気になるのは当然ではあるものの、事情を知っているセラスも困惑している以上、俺たちがどうこう出来る問題じゃないんだろう。
今は来たるべき時に備えて少しでも力を蓄える事に全力を尽くす事しか出来ない。そういうわけで、今日も今日とて訓練に励んでいた。
「くぅー! 今日もハードだったぜぇ!」
「ああ、明日起きた時にベストコンディションになる限界ギリギリぐらいまで、体力を使わされたからな。久しぶりの基礎訓練ってのもあるけど……」
「“
訓練終わりで施設から出ていこうとしている俺の隣で、リゲラが拗ねた様に唇を尖らせる。
「まあ、神話級の奥義なんだから使える方が凄いだろ?」
「ってもなぁ! そういや、お前はお前で自分の練度上げで手いっぱいだったんだっけ?」
「恥ずかしながらって感じだ。予想外に時間があったおかげでようやく形になっては来たかな」
そんな様子のリゲラと近況報告をし合っていると、訓練場の出口辺りに見知った人影を見かけて足を止めてしまう。そんな俺の様子を受け、隣のリゲラが不思議そうに首を傾げた。
「どうしたよ?」
「あ、いや……」
目の前にいるのは、ストナ・マジェストとリリア・フォリア。当のリリアも目を見開いて立ち止まっており、隣にいるストナはリゲラと同様に首を傾げている。しかし、次の瞬間にはリゲラが何かを悟ったように笑みを浮かべ――。
「まあ、ここは若いお二人に任せてお邪魔無視は退散するかねぇ。そこのちっこいのも疲れてんだろ? さっさと帰るぞ」
「ふ、ふぇぇ!?!?」
頭の上に疑問符が見えるほどボケーっとしているストナを引きずりながら訓練場を去って行く。残されたのは俺とリリアだけになってしまい、困った様に見つめ合う事しか出来ないでいた。端から見れば珍しい組み合わせの俺達――。通り行く団員たちに遠巻きに見つめられて正直居心地が悪い。
「――とりあえず、出るか?」
「うん……」
俺はそんな状況に戸惑いながらも、同じような表情を浮かべているリリアと共に訓練場を後にした。
向かう先の当てなどない。一緒に居るところを見られる事にも後ろめたい思いがあるわけじゃないが、ただ何となく人が居る場所で話をしたくないと思って、俺達は帝都の外れ辺りに身を寄せた。
「まあ、その……なんだ……久しぶりっていうのが正しいのか?」
「そう、だね……」
歯切れが悪く始まった会話。どこからどう見ても噛み合っていない俺達の様子を見て、幼少の頃からの知り合い――曲がりなりにも元婚約関係にあったと察せる人間はいないだろう。別にリリアに対して恨みつらみがあるわけじゃない。因縁深い過去とも決別し、わだかまりも消し去った。
だからこそ、理屈的にはリリアと話す事に気後れなど起こすはずがないのだが、やはり感情面では思う所がないといえば嘘になる。
対して過去の経験を考えれば、リリアが俺に後ろめたい思いを抱いているのは確実。多分、お互いにそういう思いがやり辛さとして表層に出てしまっているのだろう。
何より俺自身、リリアの身の上話で色々と衝撃な事を訊いてしまったという事も関係していた。
「最近頑張ってるみたいだな」
「私なんて全然……アークの方がずっと頑張ってるよ。でも、自力で帝都に来て偉い人に認められてるんだから……」
「驚いたのはお互い様だよ。まさか後継者が揃って帝都に来るなんてな。まあ、帝都出向の理由は大体分かるけど、他の二人はどうしたんだ?」
「――ゲリオはマルドリア通りの戦いで体に障害が残っちゃって冒険者を引退。ガスパーは敵前逃亡の一件もあって、私たちの前に現れなくなっちゃった。ただ訊いた話だと心傷の障害を患ったって事だから、ガルフも怒るに怒れなかったみたい」
「そうか、そっちも色々大変だったんだな」
俺が旅立ってからジェノア王国の知り合いたちにも大きな変化があったようで、素直に驚きを隠し切れない。正直ジェノアの
友人と思っていたわけでもないし今更復讐も何もないが、関係を修復するかとか謝られたから許すとかはありえない。しかし、そんな相手とはいえ既知の仲。物理的に再起不能になったという末路を訊かされてしまえば、少しばかりの憐憫が湧き上がるのは仕方のない事だろう。
だが、立ち上がれなくなった者達の事で心を痛めるのは時間の無駄でしかない。少々酷な話だが、今はそれどころではないし、そもそも俺にとってはどうでもいい知人であるからだ。
再起不能となった二人の事は頭の片隅に追いやり、俺は最も気になっている事をリリアに問いかける。
「そういえば、噂で聞いたんだけど……」
「私とガルフ――グラディウスとフォリアがどうなったかって事……かな?」
そんな事は向こうも予想が付いていたようで、少しばかり硬い声音で真実を語り始めた。
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