第189話 星空のCrossOver
肉欲と白熱のトーナメントが終結。直後、キュレネさんを筆頭に戦闘直後で気の立っているルインさん達に揉みくちゃにされたり、その影響で周囲の男達からの殺気が増したり、他の一般女性から恨みがましい目で睨まれたりと、気の休まらない状況が続く。
疲れを取りに来たはずがすっかり真逆であり、もう水着姿の女性陣を目の保養にハードスケジュールを乗り切る事を覚悟するしかなかった。
ところがそこからやって来たのは、大分冷めてしまった昼食を皆で取ったり、心折れずに群がって来る男性陣を水着姿のルインさん達が一蹴したりと、一周回って拍子抜けな程穏やかな時間の流れ。
ただ、俺が一人になって別の女性の一団に話しかけられた時、うちの女性陣から咎められるような視線を向けられたのだけは解せなかった。だが、色々と用意したという遊びに興じ始めれば雰囲気は一変。
今度はちゃんとビーチバレーを行ったり、皆で海に潜ったり、小舟に乗ったりと海水浴でしか出来ないそれっぽい遊びの数々。幼少期から少年期の殆どをグラディウスの屋敷で過ごした俺にとっては未知の世界とあって、貴重な経験だった。
しかし、目隠しをしながら周囲の指示に従って果実を叩き割る遊びでは、キュレネさんの悪ふざけによって状況が混乱。
「え、何っ!? きゃっ!?」
挑戦者となったルインさんが魔力で作られた水流の足枷に引っかかって倒れ込んで来てしまい、胸にぶら下がっている巨大な果実を顔に押し付けられて圧殺されかけるという事態が発生していた。
「ぬおっ!?」
「はい、いらっしゃい」
その上、いつの間にか背後に移動していたキュレネさんに二人して突っ込む形になり、前後から抱き着かれてとんでもないことになってしまった。
ビーチに来た当初とトーナメントに続いて第三ラウンドが始まるかと思われたが、何とか止められたのは今日一番のファインプレーだと自負している。
それからもセラスやアリシアと夕食の素材を現地調達したり、ジェノさんやリゲラと一緒にちょっとアレの具材の下処理をしたりと遊びの時間を過ごしていると、いつの間にやら日も落ちてディナータイム。夕食と相成った。
「こういうワイルドな料理は初めてだな」
「ええ、ただ味付けして焼いただけなのに、旅の時とは違う美味しさがあるわね」
「食卓に出るフルコースと違ってこの雑さが趣深い」
「全くね、興味深いわ」
俺とアリシアは串に刺された肉と野菜にかぶりつきながら表情を緩める。初めて体感した星空の下でバーベキューというシチュエーションに酔いしれていた。
「人間の食文化というのは、中々洗練されているのだな」
「ああ、俺も知らなかったよ。そもそも、食事を楽しんで取るなんて考えた事もなかったしな」
人間よりも優れている魔族だが、色々相互互換な面もあるようでセラスも同様。俺たち三人は黙々と食をこなしていた。
「ふふっ、おかわりはいくらでもある。たくさん食べるといい」
「肉焼きの神と言われた俺の力を見せてやるぜっ!!」
イメージ通りのリゲラはともかく、ジェノさんも随分と肉を焼く姿が板についていたのは少しばかり驚きだ。名家の箱入り息子と一流冒険者の違いといった所なのだろう。
「エリルぅ! もっと酒持ってきなさい!!」
「もう! 数日身体を動かさなくていいからって飲みすぎですよ!」
「普段飲んでないんだから、今日は特別よん」
ビーチチェアに優雅に寝そべるキュレネさんの手に握られているのは空のグラス。その近くでちょろちょろしているエリルは、完全に給仕係と化していた。
力ある立場には責任が伴う。完璧最強で新進気鋭のSランクパーティーに所属している為、こうしてゆっくりと過ごせる時間というのはあまりなかったのだろう。皆らしからぬリラックスっぷりを発揮していた。
「ちょっと気を抜き過ぎじゃない?」
ルインさんはうつ伏せでビーチチェアに寝そべり、トロピカルジュースを一吸いすると、そんなキュレネさんに呆れたような半眼を向ける。
「今日気を抜かないでいつ抜くの。ルインちゃんも一緒に飲みましょう?」
「ちょっ!? ここは一人用だから無理やり乗ってこないで!」
「まあまあ、せっかくなんだものいいじゃない」
「何がせっかくなの!?」
するとキュレネさんは、面白半分でルインさんのビーチチェアに入ろうと体を滑り込ませていく。寝そべっていた本人が言っているように、あの長椅子は一人用であるため許容量オーバー。互いに落ちないようにしようとすると、狭い面積の中で二人のダイナマイトボディがせめぎ合い――。
(なるほど……確かにセラス込みであの三人が無防備に日光浴してたら、ナンパしてくださいって言ってるようなものか。俺たちが居なきゃ男漁りに来た美女集団だしなぁ)
そんな事を思いながら目の前に広がる眼福な光景をチラ見していると、両サイドから肘でどつかれた。やはり男の下心は女子に筒抜けであるようだ。ただ、色々と無防備に見せすぎているのが向こうである以上、非はあるだろうと思ってしまうのは男の性だろう。
とはいえ、うちの女性陣は、そんな事を気にする必要がないという結論に至ってしまう。
(まあ、でも……暴漢の二十人や三十人くらいならステゴロで殴り殺せるから、見られようが声かけられようが関係ないのか。見て一人で使うのは好きにしてもいいけど、美貌に寄って来て触ろうとしたら殺しにかかる。とんだ女王蜘蛛だな)
そうして一人で納得していると、また両サイドからどつかれる。
直後、空のグラスを持ったエリルが足を取られて突っ込んできた影響でバランスを崩してしまい、気づいた時にはアリシアの胸の柔らかさが掌に広がっていたり、セラスに白い目で見られたりとなどというハプニングもあったりなかったり――。
「ぶっほっ!?」
更に畳みかけるように、ルインさんとキュレネさんのくんずほぐれつを目の当たりにしたリゲラが鼻血を噴出しながら失神。朝からの度重なる出血で、エリルによる治療が真面目に必要になってしまった。
「ああ、安心した」
「今、私を安全地帯にしましたね?」
「い、いや! 全然、そんな事ありませんよ!!」
しかし、治療中の不用意な一言が主治医殿の逆鱗に触れてしまう事になる。
「アークさんも、ルインさん達から目を逸らす時、私を見ていたのは知っていますからね」
「――ッ!?」
その光景を他人事のように見ていると、何と俺の方にもとんでもない棘が突き刺されてしまった。ルインさんたちの荒れ狂う波の様な体を見てヤバいと思った時に、エリルの方を見て目線を若干逸らしていたのがバレてしまっているという事。何故そうしていたかと言えば、水面に映る地平線の様な――。
「アークさんとは後でお話しする必要性がありそうですね」
「いえ、滅相もない」
これ以上、この事について考察するのは止めておこう。命がいくつあっても足りそうにない。
何はともあれ、こうして俺たちの楽しい夜は
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