第6章 神剣終極のスターライト

第184話 デンジャラスな宣告

 脱退騒動から三日後――。


 いつもの七人とセラス、一部の騎士団員は帝都宮殿の深部――“ラテレータの離宮”に通され、騎士団長から“原初魔法ゼロ・オリジン”についての講義を受けている。あまり人が立ち入らないのか他の宮殿施設よりは寂れて見えるが、やはり世界最高峰の豪勢な離宮は名家出身の俺であっても及び腰になる程だった。

 一度来た事があるであろうルインさんたちや遠征組はそれほどでもなさそうだが、エリルやアリシア、ある意味ではこの事態の発端となったリゲラなども落ち着きなく周囲を見回している。

 騎士団長はそんな俺達を見て一瞬表情を崩したが、すぐに真剣な様子に変わる。


「魔力を内に留めて高速循環させる事が“原初魔法ゼロ・オリジン”の真髄。制御を誤れば、内側から体が弾け飛ぶだろう。非常に危険な奥義じゃ。使わんで済むのならそれに越した事はないのだが……」

「戦力が厳しいんならしょうがねーだろ? 第二陣で呼ばれたのは気に食わねーけど」

「そう拗ねるな。こればかりは緻密な魔力運用が物を言うのだから、経験豊富な者の方が会得出来る可能性が高いのじゃ」

「ならどうして俺達を呼び出したんですか? 第一陣の中でもルインさんたち三人が実用段階に達するのがやっとだったのなら、今更修行……なんてのは時間の無駄な気もしますけど……」


 “原初魔法ゼロ・オリジン”――それは魔力を扱う者が最後に辿り着く最終形態。会得も運用も一筋縄ではいかないとあって、手放しで皆に広めるにはリスクが高すぎる。


「うむ……セラスと情報交換をする中で、やはり現状戦力では戦況が厳しいという事が明確になってのぉ……。ひとまず自力会得出来そうな者を幅広く見繕って呼び出したというわけじゃな」


 しかし、騎士団長の戦力不足という発言を受けて皆の表情が強張る。ランサエーレ家の一件やらケフェイド攻防戦やら色々と問題が起こったとはいえ、俺たちなりに全力で強くなるために努力して来し、帝都に来た時よりも遥かに強くなったという自覚があった。戦力が足りないのは承知だったが、ここまで明確に言い切られてしまったのだから思う所がないといえば嘘になる。


「一人でも“原初魔法ゼロ・オリジン”を使える者が増えれば、戦力数値の向上は無視出来ないものになる。流石に誰もかれもというわけにはいかんが、可能性がある者は試すべきだろう」


 先日のボルカ・モナータ脱退騒動の影響で“原初魔法ゼロ・オリジン”の存在が明るみになってしまった。

 その結果、案の定というべきか自分も“原初魔法ゼロ・オリジン”を会得してやると息巻いて特訓し始めた輩がチラホラ現れ始めている。万が一あの力を御しきる事が出来れば、一群どころか一気に最強の座に躍り出ることが出来るとあって行動自体は分からんでもない。

 一方、その努力を自力向上に向けてくれればと思う騎士団長の感情も理解出来る。


 まあ、具体的な方法も分からず、とりあえず魔力を放出している光景が滑稽に映るのはここだけの話だ。

 因みに俺の魔力に関しては、馬鹿正直に敵と同じ闇の魔力性質に目覚めました――などと言うわけにはいかず、“原初魔法ゼロ・オリジン”と似たようなブラックボックス扱いになっていた。


「ケフェイドでの戦いを思えば、魔族一人に対してこちらは一群を複数を投入しなければならないじゃろう。普通の狂化モンスターならともかく、マルコシアスが駆っていたという邪竜クラスが複数出て来るとなれば、儂らの方が二手足りん」

「現状では、強力な狂化モンスターとマルコシアス本人への反撃人員カウンターパートが不足するという事ですか?」

「うむ、“原初魔法ゼロ・オリジン”発動の前提条件は使用者の地力。あくまで基本能力の向上が能力の根底にある以上、発現の時点で大多数は切り捨てなければならん」

「なるほど、それでこのメンバー……」


 思案顔のアリシアとロレルが声を上げる。


 セラスとの合流で明確な問題点浮き彫りになったのは喜ばしい所だが、それが地力不足となれば頭の痛い話だ。時間的にも正攻法で修業してもどうにもならなそうという事で、本格的に騎士団長も神話の奥義に頼らざるを得ないという結論を出したのだろう。

 前々から感じ続けていた事だが、戦況を打破する為に必要とされているのは一騎当千の戦士だという事だ。


「会得の芽があるとすれば、お前さん達若い者だけじゃ。本来儂らが守らねばならぬ未来ある若者をこんな形で最前線に立たせてしまう事には胸が痛むが……」

「危険は承知の上です。でなければ、我々は帝都まで協力要請などに来ませんよ」

「帝都騎士団の役目は帝国市民を守る事。異論はありません」

「俺達が騎士団長に目をかけて頂いたのは、この時の為と考えます。冒険者ばかりにいい格好をさせるわけにはいきませんしね」


 ジェノさん、ロレル、遠征組のリーダー格――ブレーヴ・バーナが順に声を上げた。


 それは問題が山積しているにも拘らず、心が折れている人間がこの場に誰もない事の証明。人類が生き残る為の希望なのだろう。


「アーク君は無茶厳禁ね」

「善処します」

「げ・ん・き・んね!」


 かくいう俺も新たな境地に挑む事に少しばかりの興味を抱いていたが、隣から鋭い視線が飛んで来る。


「というか、私が教わってもよいものなのか?」

「もうセラスは仲間だもの。そうじゃなきゃきっと連れてこないわよ」


 その逆側ではセラスとキュレネさんが言葉を交わす。


「後衛の私達も参加していいのでしょうか?」

「まあ、発動出来ればその辺の近接職と殴り合っても勝てるくらい強くなるわけだし、自衛手段としては最強クラス。とりあえずやってみるのは悪くないわね」

「出来りゃ儲けもんって事だよ! まあ、俺は絶対に身に付けてやるけどな!」


 ケフェイドに第一陣として突っ込んだ三人もそれぞれの思いを口にした。


 俺達のように初めて向き合う者。

 ブレーヴのように折れても会得に励み続ける者。

 ルインさん達のように練度を上げる段階に達した者。


 目的は違えど、目指す場所は同じ。

 皆、前を向いて突き進んでいる。


 そんな俺達を見て騎士団長は笑みを浮かべ――。


「ああ、それと……アーク、ルイン、セラス、アリシア、竜の牙ドラゴ・ファングの面々。お主らは数日休め。修行禁止じゃ」

「……な、何ぃっ!?」


 とんでもない爆弾を落とした。

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