第165話 狂獣殲滅

「■■■■――!!!!」


 狂化モンスター達が咆哮を上げる。


 剣闘竜人――リンドヴルム。

 双頭の狼――オルトロス。

 斧牛頭人――ミノタウロス。


 どの種族も高ランク帯のボスモンスターであり、素の実力ですら一流パーティーで処理に当たらなければならない存在だ。更にそれらのモンスターが狂化因子で大幅に強化されているとあって、帝都に来た頃の俺では決死の覚悟で挑んでどうにか一匹を倒しきれるかというレベルの相手でもある。

 しかし、今は違う。


「行くぞ!」

「■、■■■■――!!!!」


 俺は双翅の機動力を活かしてミノタウロスへ一気に肉薄。敵が反応する前に処刑鎌デスサイズを振り抜き、鎧もかくやという強靭な筋肉で包まれた首を両断した。


「■■■■■――!?!?!?」


 鮮血が飛び散ると共に大きな角が生えた牛頭がズレ落ちていく。即座に再生が始まるが、これで本体の動きは止まった。


「どんなに再生能力が高かろうと決して死なないわけじゃない。体内の狂化因子さえ破壊すれば!」


 “真・黒天新月斬”――漆黒の魔力を纏わせて刀身を巨大化させた処刑鎌デスサイズを上段から振り下ろす。


「――!?!?!?」


 以前までよりも破壊力が増した斬撃は、ミノタウロスを縦に両断。まるで斬撃痕周辺の空間が抉り取られたかの様に体の中央部分が喪失し、巨大な肉体が力を失いながら太い手足を地面に転がらせた。もうその手足が動き出す事はなく、既に躯体再生機能が失われているという証明となっていた。


「悪いが狂化モンスターお前らへの対処法は、体に染みついている。それに……」

「■■■――!!!!!!」


 本能的に仲間が死んだ事を悟ったのか、他二体は動きを乱し、僅かな隙を晒している。その隙を逃すことなく、即座に反転。一気に加速し、オルトロスの眼前に躍り出た。


「今の火力でなら、一気に押し切れるッ!!」

「■■■■――!?!?」


 加速の勢いのまま黒閃を横薙ぎに奔らせて、オルトロスの両前足を斬り落とす。支えを失ったオルトロスは首を垂れるように前屈みとなり、さらに混乱。

 ここもまた、正しく絶好の攻撃機会――。


「悪いが、首は貰っていく!」


 俺は得物を振り抜いた際の重心移動を利用すると、そのまま空中で横に一回転。処刑鎌デスサイズの基部、双翅からの魔力放出で威力を底上げした斬撃を左側の頭部に叩き込む。これまでも似たような挙動をした事はあるが、その威力、速度はこれまでの比ではなく、オルトロスの頭部を割るだけに留まらずに身体の半分程までを斬撃の余波で斬り裂いた。


 狂化モンスターは因子の破壊か耐久限界を超える攻撃を叩き込めば、その超速再生を停止する。これまでは連撃で押すか、属性魔法で動きを鈍化させて身体を内部から破壊するという手段を講じて来たが、それらは最適解というわけじゃなかった。

 並のボスモンスターをも優に凌ぐ狂化モンスターを相手にするには、他に手段がないが為に必然的にそうなっていたと言うべきか。


 しかし、今は違う。

 魔力・武器・俺自身の技量――その全てがこれまでとは別次元であり、屈強な狂化モンスターと正面からぶつかり合ったとしても、素の火力で殺しきれる。

 これこそが狂化モンスターに対抗する為の最適解。


「――終わりだ!」


 処刑鎌デスサイズを袈裟に振り上げ、オルトロスの躯体部分を斬り刻む。連続で斬撃魔法を叩き込めば、オルトロスは残った頭で断末魔の叫びを上げる事も出来ずに沈黙。すかさず、次の敵を視線で射貫く。


 しかし、相手も狂化状態のボスモンスターとあって一筋縄ではいかないようであり、最後のリンドヴルムが剣を差し向けながら突っ込んで来る。


「■■■■■■――!!!!」

「例え空中の不意打ちでも、今の俺には通用しない!」


 対する俺は処刑鎌デスサイズを水平に構えると、そのままの体勢で迎撃。リンドヴルムに突貫した。


「――ッ!」


 横に寝ている柄と剣が激突するが、双翅からの推進力を得て鍔迫り合いの最中にも加速。そのままリンドヴルムを押し込み、近くの商店ごとぶっ飛ばした。


「なに、ィ!? お前は一群に上がりやがった!?」

「何だってんだ、その羽はよぉ!?」

「と、飛んでる?」


 その先には建物の無い空間が広がっており、例の独断出撃したであろう傷だらけの二群団員たちが“死神双翅デスフェイザー”を纏って空中で制止している俺を見て、あんぐりと口を開けている。


 その馬鹿面に文句の一つも言いたくはあるが、今はそんな状況じゃない。俺は二群に構うことなく宙を駆けて、連中を追い詰めていたであろう狂化モンスター達に斬りかかった。


「はっ!」

「■■■■――!?!?!?」


 マンティコアの身体を袈裟に斬り裂き、ギガースの首を両断する。そんな俺目掛けて二体のライラプスが飛び掛かって来るが、双翅からの魔力を放って上昇からの天地反転。ライラプスの攻撃を上から回り込む様に躱し、連中の背中側から斬撃を放って二体まとめて斬り裂いた。


「“凍穿幻境逆巻け――剣群”――ッ!!」


 再び天地を逆転させると足から着地。そのまま刀身を地面に突き立てて冷気を流し込み、氷剣の群れを呼び覚ます。


「■■――!?!?」


 狂化状態のカーバンクル五体、ウォルフ六体は氷剣によって串刺し状態となり、全身凍結。生命活動を停止した。


「い、一網打尽……かよ」

「ホントに、一体どうなってんだ……!?」


 二群連中は狂化モンスターが一掃された事で目を白黒させているが、相も変わらず無視。連中に反応するなんて時間の無駄だし、復活したリンドヴルムが再び剣を差し向けて来ている事からして、気の抜けない状況にあるのに変わりないからだ。

 しかし、リンドヴルムの頭部を石突で小突いて怯ませた所を斬撃で両断。更に斬撃魔法を打ち込む事で三枚おろし。

 これで視認範囲の狂化モンスターは殲滅した。


「今のでかなり頭数を減らせた。これで戦力数値はこっちが上になったはずだが……」


 現在の戦況を分析しながら呟く。


 敵の主力はSランク前衛組が抑えてくれている。これまでの戦いで狂化モンスターもかなり消耗させられたはずだし、今もアリシアが中心となって奮戦してくれている為、連中は最早攻め手とはなり得ない。

 いつの間にか狂化モンスターが増えていた事は気になるが、今のままなら確実に抑え込める。エリルがサポートに戻って来る事を加味すれば、尚更だろう。つまり、俺達サイドには、既に短期戦・長期戦どちらにも対応できる布陣が完成しているという事。


「後は相手の頭を潰すだけ――ぐっ!?」


 選択さえ間違わなければ、勝利は確実だと思った矢先――空から火球が降り注いで来る。


「まさか……増援ッ!?」


 衝撃によろめきながら上空に目をやれば、噴煙の切れ目から三体の飛竜ワイバーン――そして、四人の魔族の存在が確認できる。


「どうして連中がセラスを狙っているのかは知らんが、まさかこんな形で総力戦になるとはな……」


 その増援は、こちらに傾きつつあった戦況をひっくり返しかねない強烈さを秘めており、自分でも表情が険しくなっているのを感じていた。

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