第160話 闇を喰らった先に見据えるモノ

 俺とリゲラは武器に魔力を纏わせて漆黒と鈍色の光芒となり、家屋の上で雑談に興じている魔族三人目掛けて突っ込んだ。


「また会ったな、人間ッ!!」

「出来れば会いたくなかったんだがな!」


 アドアの闇腕と俺の処刑鎌デスサイズが交錯する。


「下がってな、レーヴェちゃん!」

「女より殴りやすいが、テメェどういう図体してやがるんだよ!」


 数メートル横では、巨漢とリゲラの拳が激突。


「中々、勢いが良いみたいだけど、命知らずは褒められたものじゃない。消し飛ばして上げ、る――ッ!?」


 レーヴェと呼ばれていた少女は、それぞれ魔族と鍔是り合う俺とリゲラに対して指に挟んだ小剣ダガーを投げつけようとして来たが、そんな彼女に火球と水流の矢が押し寄せる。


「ふぅん。残った二人はこういうタイプって事ね!」


 レーヴェは巧みな動きと闇の魔力を纏わせた小剣投擲で弾幕を迎撃。舞うように遠距離攻撃から逃れた。


「元々、人探しなんつーチマチマしたのは苦手だし、暇つぶしにはちょうどいいなァ!!」

「何を言ってやがるッ!!」


 それと並行してリゲラと巨漢の魔族のぶつかり合いは熾烈さを増し、二人の体躯差通りに速度と力の激突と化している。


「人探しとは、随分と可愛らしい目的だな! 一体誰を――!?」

「はっ! 黙れよ、人間がァ!!!!」


 俺もまた、アドアの闇腕を回り込むように避けながら、奴と接近戦を演じていた。虚を突いたおかげか戦いのペースこそ握れているが、やはり相手も実力者。竜の牙ドラゴ・ファングと俺達の強襲でも完全に押し切る事が出来ないでいる。

 実際、六対四くらいで俺達に分があるものの、薄い氷皮一枚で成り立っているようなバランスであり、何かの拍子にひっくり返されてしまう可能性は多分にある。故に一瞬でも気を抜けば、全滅は必至――。


「そもそも今回仕掛けてきたのは貴様たち人間からだ!!」

「――ッ!? だが、お前達がケフェイドの街を焼いたからこそ、あの阿呆たちが突っ込んで来たんじゃないのか!?」


 処刑鎌デスサイズを横に振り抜き、両手を組んでダブルスレッジハンマーを繰り出そうとしていたアドアの両腕をまとめて両断。更に剣圧で腕の魔力ごと吹き飛ばした。


「ぐっ! この前よりも、遥かに切れ味が増している!?」

「ああ、おかげさまでな!!」


 以前までの俺との差異に驚愕するアドアだったが、腕を即時再生させて左ストレートを繰り出して来る。しかし、向かって来る肘の辺りを撫で付けるように刀身を奔らせれば、再びの切断。吹き飛んだ左腕の魔力を見て、アドアの驚愕が増した。

 新武器はともかく、俺の攻撃性能が増した要因は目の前のコイツにある。そういう意味では、今のこれだけの攻撃出力を保持しているのはアドアのおかげでもあり、魔力の暴走で死にかけた事への意趣返しも込めて皮肉気に言い放った。


「き、貴様ァ!! どういう事だ!」


 だが、そんな事をアドアが理解する由もない。処刑鎌デスサイズの刃から逃れる為に跳躍した先の家屋の上から、出力を増した闇右腕が向けられた。


 だがアドアが逃げた先は、今の俺にとっての・・・・・・・・射程圏内。

 そして、繰り出されるのは、威力が増したが故の大振り。


「出来る事なら討ちたくないが……今はそうも言っていられない。これで終わらせる――ッ!」


 その瞬間、俺は背中から・・・・魔力を放出しながら急加速し、宙を舞った・・・・・


「な――にぃ!? 人間が、空を駆け……ぐっ!?!?」


 携えている処刑鎌デスサイズが向かう先は、驚愕に目を見開くアドアの首元――。


「斬り裂く――ッ!!」


 闇纏う漆黒の斬撃――これまでの比ではない出力を誇る一撃は、突き出された巨大な闇腕部を両断しながら奴の首元を掻き斬ろうと舞い上がる。


「何をやっているのよ!? “ブレイドダンス”――!」

「“スレイターウィップ”――!!」

「うるさいっ!! “ダークアームフィスト”――!!」


 闇を纏う小剣の嵐、棘付きの鞭、斬り飛ばしたのとは逆の腕部が処刑鎌デスサイズの刀身と激突し、衝撃と反発作用で俺達の身体が弾かれ合う。


「楽しそうね。私も混ぜなさいな」


 アドアとレーヴェに加えて割って入って来たのは、キュレネさんよりも一回り上に見える妙齢の女性魔族。


「ちくしょっぉぉ!?!? 離しやがれェェ!!!!!!」


 現在進行形で建物の支柱に拘束されているボルカと戦っていたはずだが、良い様にあしらってこっちに側に来てしまったようだ。


「ああぁ! もうっ! もう一人まで戻って来ちゃったじゃない!!」

「でも、これで一ヶ所に固まってくれましたよッ!!!!」


 俺達が一対三の形で分かれた所でアリシアとエリルが魔法を発動。火球と土塊、水流の矢の雨が超高密度弾幕となってアドア達に襲い掛かる。


「ちぃ! このっ!?」

「ぐっ!? 人間風情が――!!」


 飛来した魔法が炸裂し、奴らを呑み込んで爆炎を上げた。


「――遠距離からとはいえ、何発かはまともに入ったはずなんだが……流石に頑丈だな」

「よくも、貴様――ッ!」

「こんな人間……初めて……」

「この私の顔に傷をつけるなんて、万死に値するわよね」


 何度かの激しい炸裂の後、三人は別の家屋に飛び退いて驚愕と怒りの視線を寄越して来る。無傷というわけではないが、奴らの戦意は欠片も衰えていない。それどころか半端に突いた分、いよいよ戦闘のスイッチが入ってしまったという感じだ。


「おいおい、お前……そいつは一体どういう状況なんだよ!?」

「あん? なんで人間がそんな姿に……」


 戦況の変化を感じ取ってか、拳撃の反動で弾かれたリゲラと巨漢魔族がそれぞれの陣地に立つが、他の連中と同様に目を見開くと俺に視線を向けて来た。


 蝙蝠こうもり――いや、悪魔を思わせる禍々しい漆黒の翼を背に携え、処刑鎌デスサイズを肩に担ぎながら宙に佇むこの俺に・・・・・・・・――。

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