第157話 ギャップ萌え?
「魔族の襲撃!?」
「それもだけど、勝手に出撃って……」
指揮官の叫びを訊き、女性陣が目を見開く。
「――ったく! 平和な時は全然続かねぇな!」
「そんなのは今更だろ。それよりも
それは俺達も同様であり、思わず頭を抱えそうな状況となっていた。
「アークが言うと説得力あるわね」
「そんな事言ってる場合じゃねぇだろ!? ヤバいってのは、一体どういう事だ?」
「――事情は現場に向かいながら話す。あまり時間はなさそうだ」
「でも、出撃指令が出ていません。流石に無断出撃は……」
「それは大丈夫だろう。どっちにしろ俺達も出撃しないといけないだろうしな。でも、お役所仕事の判断を待っている時間もないから、手っ取り早く命令を下させるには……」
「はいはい、貸し一つね」
俺達は思考のギアを戦闘モードに切り替え、素早く意見を飛ばし合う。今しなければならない事、させてはいけない事を明確にした俺は隣のアリシアとアイコンタクトを交わし、肩を竦めながら去っていく彼女の背を見送った。
「あん? 一体……何をするつもりなんだ? って、あ……あああぁぁ、ぁぁっ――ッッ!?!?!?」
「これは、嘘っ……そんな……ぁっっっ、ぅぅ!?!?」
アイコンタクトの意図を理解出来なかったであろうリゲラとエリルは、俺とアリシアの間で視線を行き交わせているが、次の瞬間には二人の表情が凍り付く。頬に両手を当てて口を開けている様は、まるで絵画か何かの叫びのシーンの様だ。
まあ、その反応も当然だろう。
何故なら――。
「あのぉ……」
「ん、何だね? 今忙しい所……」
「ちょっといいですかぁ? 私のお話を訊いて欲しいんですけどぉ?」
指揮官連中にぶりっ子をかましているアリシアの姿を見てしまったからだ。
「だ、だだだ、誰だ……アレ!?」
「わ、私は、何かおぞましいものを見ているんじゃないでしょうか!?」
「いや、二人の眼球は正常だ。現実を受け入れてくれ」
数秒後、正気を取り戻した二人に掴みかかられて肩を揺すられるが、俺には目の前で起こった事をありのまま伝える事しかできない。
「そ、そんな事言われたって……」
「真面目に寝込みそうなんですが……」
(普段のアリシアを知ってる上に中途半端に付き合いが長くなった分、俺の時よりもインパクトがデカいんだろう)
尚も狼狽する二人に対し、曖昧な苦笑で返す。
何故この二人が声を裏返しながら目を見開いているのかといえば、やはりアリシアの様子が普段と違うからに尽きる。というのも、今のアリシアは蒼い瞳を潤ませながら胸の上で手を組み、可愛らしく小首を傾げて上目遣いという、普段はクールビューティーだとかフリーズドライだという単語が似合う彼女からは想像もつかない姿。更にはどこから出しているのか分からない程の甘ったるい猫撫で声――。
その姿は正しく超一級のぶりっ子であり、見事なまでに年上のおじさまに媚を売るように甘えていた。
(色んな意味で悪い方に振れ幅がデカかったって感じだよなぁ……)
まあ、ルインさんやエリルが恥ずかしがりながらもぶりっ子したりする姿は、それはそれでギャップが凄まじいものの、辛うじて想像出来なくもない。それにキュレネさん辺りは、恐らくもっと上手く強烈な立ち回りをするであろう事も同様だ。
しかし、アリシアの場合は、如何せん普段とのギャップが大きすぎて、与える衝撃も凄まじい事になっていた。尤も、自分が同じ立場になったとしたら、多分全く同じ反応をしていたであろうから、俺には驚きに固まっている二人を笑う事は出来ないのだが――。
「――さて、フォーマンセル出撃って事で話は付けて来たわ……って、どうしたの、この二人?」
「自然現象だ。気にしてやらないでくれ」
「そう?」
そうこうしていると交渉に向かっていた張本人が俺達の元へ戻って来た。そんなアリシアは成果報告と言わんばかりに向こう側から見えないよう小さくVサインしているが、未だに軽く放心状態の二人を見て今度は本心から首を傾げている。しかし、互いの名誉の為、俺から伝える言葉はなかった。
「とにかく、これで合法的に出撃できるようになったわけだ。さっさと現場に向かおう」
「ええ、そうね」
なんにせよ、これで俺達の大義名分が整ったわけであり、誰からも咎められる事なく大手を振って出撃できる。俺とアリシアは視線を交わして頷き合うと、未だショックから抜け切れていない二人を引っ張りながら騎士団の訓練施設を飛び出し、帝都外の街へと駆けた。
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