第154話 幕間:少女達の哀愁歌Ⅱ
「それで、ちょっとこの人良いなぁ……とかないのかしら?」
キュレネは照れくさそうにしているルインたちを見回すと、軽く笑みを浮かべながら口を開いた。
「急にそんな事言われても……」
「まあ、改めて考えると恋愛なんて完全に専門外といいますか……」
「私達って、もしかして女子力はGランク並なのかしら? 炊事、洗濯、モンスターハント――全部こなせて自立はしているつもりなのだけど……」
対する回答は、言い様こそ違うものの内容は同じ。年頃の乙女としては、些か枯れている。
「まあ、私も人の事は言えないけど灰色の青春よねぇ……」
それに関しては、キュレネも同様であるようだ。
「うーん。男の子と言えば、最近話題なのが何人かいるけれど、その辺はどうなのかしら? ほら、例の弟君とか結構カッコいいし」
「あー、彼はフォリアさんとお付き合いしてるらしいよ」
「それって、盾のお嬢さん?」
「うん、何でも小さな頃からの婚約者だとかって……」
「そ、それは許嫁という奴では!? 流石は名家……実際に目にすると世界が違うって感じですね……」
「でも二人共、前と雰囲気変わってたけどなぁ……。ちゃんと話したことはないから、普段の空気感とかは分かんないけど」
しかし、なんだかんだ言いつつも、彼女達とて年頃の乙女である事には変わりない。“女三人寄れば
「筋肉君は……まぁ、顔は悪くないけど……」
「あはは……楽しい人だとは思うけど、ずっと一緒に居るのは……」
「ノーコメントで」
「右に同じくです。プライベートまであんな調子で話しかけられてたら、心臓が張り裂けそうなので……」
美形・剣聖・グラディウスという誰の目から見ても超優良物件であるガルフの話もそこそこに、続いてはデルトの話題――だったのだが、彼に関しては満場一致で速攻終了。四人は中々に強烈なキャラに、悪い意味でやられてしまっている。
特に物静かな方が好ましいと思っているエリルには、初対面の時に屈託のない笑顔と大変元気がよろしい挨拶をかまされた際に軽いトラウマが刻まれていたようだった。
「そういえばアリシアちゃんは、凄いノリのいい男の子に抱き着かれかけてたけど?」
「あの連中とそういう関係になるなんて、想像するだけでおぞましいです! ありえません!」
続いて話題に挙がったのは、この数週間の間に共同戦線と合流したアリシアの旧パーティーメンバーについて。
例のノリノリパーティーが多少なりとも出世して帝都に現れた事に関しては、面識があるメンバーも驚きを隠しきれなかった。そこまでは感動的な場面であったのが、何を思ったのかリーダー格のチャラ男がアリシアにハグをしようとして状況は激変。銀の淑女の右ストレートで皆仲良くボコボコにされていたのは、色んな意味で記憶に新しい。
「じゃあ、大本命というか、大注目株のあのボウヤなんてどうなの? 彼自身は相当モテてるようだけれど?」
「モナータ君……ですよね?」
「ええ、何でも二郡落ちしたその日にトップを叩きのめして、もうあそこはあの子が牛耳っているそうじゃない? それにたったの一週間と少ししか帝都にいないのに民衆からの支持も凄い事になってるみたいだし」
「確か……誰彼構わず人助けをしてるんだよね? お婆さんの荷物を持ってあげたり、子供の遊び相手になったり、いじめっ子にお説教したり……だっけ?」
「そういえば、街の人に横柄な態度を取っていたとかで、一群の団員二人もその彼にやられたと訊いた事があるのだけれど?」
「帝都市民の住宅にお邪魔したり、街や公園などでも修行しまくっていたりという話も訊いた事がありますね」
その次に話題に挙がったのは、破天荒野郎だのドロップアウトボーイだのと様々な意味で大注目株に成り上がったボルカ・モナータについて。
彼女達の知るボルカは粗暴で直情的、才能こそ感じさせるものの人の話を訊かない困った少年でしかない。しかし、そんな様子とは打って変わって一群から追い出された後の彼の功績には、目を見張るものがあると言わざるを得なかった。
「長年重んじられてきた規律に囚われない。利権も権力も関係なく向かって行って、強きを挫き弱気を守る。それでいて
「騎士になるには、ある程度才能がないといけないし、名家の生まれが優先的に雇用されることも多い。そんなエリート集団の中に、自分達より下の平民冒険者が殴り込むような形で加入して、鳴り物入りで成り上がっていく。確かに市民からすれば親近感も湧くのかも。あの性格もあるものね」
「最初は雰囲気最悪だったらしいですけど、今となっては一~三群の中で最も結束が高まってるという噂も……。それから三群のおじさん達も、二群に混じって一緒に飲みに行くようになったと訊いた事があります」
あまりにも反抗的な態度を知っているキュレネたちからは二度に渡って苦言を呈されるボルカではあるが、帝都市民や同じ二群、その下の三群などからの支持は相当に厚いようであり、これまでは軽い派閥争いの様な形であった二つの階級の垣根をぶち壊して結束するきっかけにまでなっていた。
それはある種、フェルゴやランドといった英傑や、冒険者達が数ヵ月かけても成し得なかった事でもあり、最早ボルカ・モナータは一群や騎士団最上部にとっても無視出来ない存在になっていると同義だった。
「――
「その上、これまであまり成果が出ていなかった二群がここに来て結束して、その彼を中心に三群までもが意思統一を果たしかけているわね」
「追い出された当の本人が、その一群に対して“いつか戻って来てぶっ倒してやる”って息巻いてたという事は……」
「あはは……もしかして、今の私達って完全に悪役なんじゃないかな?」
四人は顔を見合わせて苦笑を浮かべる。
「大抵、この短期間で急成長したあの子や二・三群の合同部隊に私達が手も足も出ずに負けて、立場逆転で大没落。魔族との戦いでも、その人たちが活躍する傍らで元エリートとして無残に死んでいく……みたいな?」
「ありがちな展開というか、何というか……」
「なら、今は私達の方が共同戦線にとってノイズなのかなぁ?」
一群は帝都最高峰の人員が集まっている為に既に基礎が出来上がっていると判断され、元々からして個人訓練が多い。特に最近はフェルゴの方針もあって、細かなフォーメーションよりも個々の能力を引き上げる方面に重点を置かれている。
対して二・三群は基礎固めであったり、帝都内での対人制圧を想定とした街内訓練であったりと細々としたものが多く、チームワークの強化に重きが置かれていた。そんな中に突然圧倒的な個人技を持つ者が現れ、下のグループは彼に引っ張られる形で結束を強めている。
しかも、階級が下になればなるほど人数も多く、“打倒一群!”とそれらのメンバーどころか民衆からも集中的に軽い敵意を向けられているのを改めて意識してしまうと、いくら彼女達とは言えそれなりに思う所はあるようだ。
「それはどうかしらね。でも、確かにああやって言いたくても言えない事だったり、生の感情を素直に吐き出せる子に力があるっていうのは、“今までと何かが違う”って希望を託せるのかもしれないし、素直で好感も持てる。言われてみれば、うちの男衆はあのボルカって子と真逆かもだしね……」
そんな空気の中、キュレネの言葉に触発される様に、いよいよ彼女達にとって距離が近い異性達が話題に出始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます