第145話 三人目の特異職業

「何を言って!? きゃっ!?!?」


 少女騎士が棘付きの一撃を避ける。しかし狼牙棒によって足場ごと砕かれた所為で、大きく吹き飛ばされながら体勢を崩した。


「へっ! これが俺を見捨てやがったバカ女とクソ野郎どもに復讐するための第一歩! こいつで終わりだァァァ!!!!!!」


 そんな俺達の懸念事項の通り、ボルカの跳躍と共に棘の付いた棍棒メイスが振り上げられた。


 次に繰り出されるのは、言うまでもなく上段からのフルスイング。

 地面に横たわる少女騎士に向け、防具の上からでも相手を穴だらけにしてしまうであろう狼牙棒が迫る。


 だが、俺達が止めに入る事はなかった。


「全く――何をやっておるんじゃ! 貴様は!?」

「な、何ィ!? てめっ! 何すんだよ、このクソジジイ!?!?」


 鈍い音と共に狼牙棒を遮る大剣――。


 俺達よりも戦域に近い所から、騎士団長が動くのが見えていたからだ。


「誰がジジイじゃァ!? まだまだピッチピチの現役じゃい!!」

「おうふっ!?」


 そして、騎士団長の掌底によってボルカは宙を舞った。

 同時にまだ見ぬ特異職業ユニークジョブとボルカ自身の破天荒さ、騎士団長直々の乱入を受けて色んな意味で会場がどよめく。


「彼のさっきの一撃……」

「ええ、当たれば即死でしたね」


 そんな中、ルインさんは硬い声を漏らし、俺も頷いた。


「元気がいいのは良いことだけれど、確かに不安っていうのはわかるわね」

「奴さんの事情はよく分かんねぇけど、背中を任せてぇとは思わないな」


 キュレネさんとリゲラも同様であるようで、アリシアたち他のメンバーの表情もそれなりに険しい。


 だが、そんな俺達とは裏腹に周囲のボルカへの反応は二極化していた。


「大したもんだな!」

「ああ、アイツやるじゃねぇか!」

「変な武器を使う奴は、皆ぶっ飛んでんなァ!」


 ボルカの戦いが派手だった事や俺やルインさんという前例があったからか、頼もしい新人が来たと受け入れる声。


「でも、あの自信がどこまで続くのかな?」

「まぁ、その内ボロが出るだろ」

「いくらなんでも態度がなぁ」


 半面、ボルカの横柄で粗暴な態度を嫌う声。


 俺やガルフたちとは違い、名家やコネといったバックボーンもなく無職ノージョブとして不遇の時代を過ごしてきた少年が、ある日魔法に目覚めて帝都騎士団の目に留まる――などというのは、何かの物語かと思う程にドラマチックな出来事だ。


 実際、あの細かい事を気にしなさそうで真っ直ぐな性格や粗削りながらも確かな才能に好感を抱くものは多いだろうし、彼の口ぶりからして友人や彼女、もしくは母親辺りから蔑まれていたような過去もあるのだろう。

 それらを跳ね除けてこの立場まで上り詰めたのだとすれば、好感に値する面もあるのかもしれない


 反感を抱いた者としては、鳴り物入りで帝都に来て一群の騎士団員を屠ってみせた事や、早速騎士団長に目をつけられた事などを妬む感情が大きいといった所か。


「この馬鹿モンが!」

「んだと!? コラァ!!」


 しかし、賛否はあれど、騎士団長に首根っこを掴まれて不貞腐れているボルカに誰もが注目している。好きの反対は嫌いではなく無関心とは有名な言葉だが、誰もが大きな賛否を抱いている時点で、確かにあのボルカという少年は何かをやってくれそうなオーラを放っているのだろう。


 よくある物語としては、この戦いを経て少女騎士と仲を深め、さらに圧倒的な才能でルインさんやキュレネさんをも下して彼女たちにも惚れられ、皆で協力して魔族と戦うという流れになるのかもしれない。


 そのまま戦いを続けて魔族を滅ぼして世界を救い、ジェノさんや騎士団長を超える最強の冒険者になる――何とも王道なサクセスストーリー。


 ボルカ・モナータという少年は、それだけの事を思わせる程に主人公属性がてんこ盛りだという事だ。


「年長者に向かって何という口の利き方じゃ!?」

「あい、でェッ!?」


 拳骨を落とされて涙目になるボルカと野次を飛ばす騎士団員や冒険者たち――。


「これから次第だな。色々・・と……」

「そうね」


 ジェノさんとキュレネさん――年長二人が神妙な面持ちで呟く。


「……」


 周囲の人間と自分達――世界の乖離かいりもかくやという状況を受け、俺達だけが周囲と完全に切り離されているのかもしれない――とすら感じていた。


(嘗てのガルフは、グラディウスに残って利権に染まった俺自身なのかもしれないと思っていたが――)


 そんな中、同じ特異職業ユニークジョブ持ちであり、似たような過去を背負っているであろうボルカに対して自分と重なる部分を見出してしまった事で、俺の心境は複雑の一言だった。


 だからこそ、気づかなかったのかもしれない。


 目の前のルインさんもまた、俺と同じような表情かおをしてボルカを見ている事に――。

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