第143話 盾ノ乙女
知らぬ間に決着がついていた第一戦。いくら俺達回りが静まっているとはいえ、大人数で囲んでの模擬戦とあって、全体を見ればそれなりの盛り上がりを見せていた。
「……」
そんな中、ガルフは得意げな表情で控え席へと戻っていく。
帝都を出奔した名家の跡取りが、一群の騎士団員に勝利したと考えれば、正しく大金星。
状況だけを見て舞い上がるのも、無理はないのかもしれない。重ね重ねにはなるが、グラディウスの屋敷で分かれた時から思えば、ガルフ自身も相当に強くなっている事も間違いないだろう。
「それでは第二戦! 両者前へ!」
しかし、そんなガルフとは視線も交わす事もなく、入れ替わるようにリリアが中央に向けて歩いて行く。相対するのは、以前レオン・レグザーに殴打されていた少女騎士だ。
何百どころじゃない人数に見守られているにも拘らず、堂々とした二人の様子には少しばかりの関心を抱いてしまう。
「そういえば、あの子とはちゃんとお話した事なかったかも」
「あら? 知り合いなの?」
「知り合いって程じゃないけど……アーク君の昔のお友達、的な?」
「まあ、そんなもんだと思っていただければ……でも、俺からすれば、腐れ縁というよりも小さな頃の知り合いという方が正しいですね。友達とは少し違う関係ですけど」
最早乗り越えた出来事とはいえ、あまり人に話したい過去ではないし、一から十まで説明する気も無い。やはりゴシップの種になるのは気分が良いものじゃないという事だ。
ルインさんにしても、俺とリリアのやり取りはマルドリア攻防戦の一幕くらいしか見ていないわけだし、黙っておくが吉だろう。
まあ色々と述べたが、婚約者がどうので周囲から
(それにしても、本当に垢抜けたな)
俺は今も戦っているリリアを見ながら内心で呟いた。
お互いに魔法を駆使して戦っているという差異はあれど、対戦の質そのものは第一戦と遜色ないか、それより少し低いといった所だろう。
しかし、騎士団所属の剣士に対して、盾士で
その上、防御という
つまり、ガチガチの戦闘職並みに単体で戦える力を保持している盾役は、かなり貴重な存在だという事だ。
(前に進んでるのは、俺だけじゃないって事か……)
結果自体は、リリアが僅差で勝利。
周囲は容姿の良い女子同士の戦いに目を引かれているようだが、俺からすれば、あのリリアが正規の騎士団員を真正面から下すという結果に対し、驚きを隠しきれないというのが正直な所だった。
「おつかれ!」
「やるじゃん、美少女!」
リリアに関しては、最初の紹介の時に自分の
結果だけを見れば、敵を作らない良い立ち回りだったのかもしれない。
「おいおい! もうちっと根性入れてくれよ!」
そんな時、騎士団の控えメンバー目掛けて誰かが叫んだ。恐らくはずっと帝都に留まっていた団員――当時は二群辺りだった者の言葉だろう。
その言葉が、模擬戦における帝都騎士団の勝率に低さに起因するものであるのは想像に難くない。
実際、閉鎖環境だったこれまでとは一転して、騎士団はこの数ヵ月の間に
しかし、こういう規模の大きな戦いでは、初っ端のルインさんから始まり、冒険者に四戦全敗。大規模模擬戦でも冒険者ばかりが目立っていたし、更にはここに来ての二連敗。世界最強軍団と謳われた騎士団からすれば、不本意な結果と言わざるを得ない。
「お口だけは立派ね」
戦いの場にすら立たせてもらえない者の負け惜しみとはいえ、結果が出ていない以上、的を得た言葉となってしまっている。
軽く毒づいたアリシアもそれを分かっているからか、それ以上言葉を発する事はなかった。
「まあ、あのオッサンが模擬戦場に立って何か出来るとも思えないし、騎士団にしても相手と時期が悪かっただけだろうに……」
確かに帝都騎士団VS冒険者の戦いは、後者が大きく勝ち越している。だが、俺とレオンはともかく、他に戦ったのはSランク最上位三人と“剣聖”、“聖盾”だ。
さっきまで繰り広げられていた後者二人の時はともかく、レオン時代の弛み切った団員で、ルインさん達と勝負になるはずがないというのは子供でも分かる。
実際、一方的過ぎた前者三人と違って、ガルフやリリアとの戦いは拮抗していた。
それに俺達と戦ったのが、現団長と共に行動していた遠征組ならいい勝負が出来ていただろうし、マッチング次第ではこちらの勝ちが保証されていたとも思えない。
逆に言えば、ガルフたちに対して遠征組をぶつけていれば、一方的な蹂躙になっていただろうというのも誰が考えても分かる。
故に冒険者と騎士団の間に、そこまで大きな力の差はないと結論付けていいはずなのだが――。
(戦時前の連携強化と自己紹介を兼ねての模擬戦って事を理解してるのか?)
目の前の勝負事に夢中になったのか、自分が出られない嫉妬から来る言葉なのかは知らないが、声を上げた男性があまりに幼稚過ぎるというのが正直なところだ。
そんな様子に思わず呆れていると、リリアと入れ替わる形にマジェスト家のご令嬢が姿を現した。流石に
一方の張本人は、自信無さげな顔で身の丈もある長い杖を掲げている。
「ふ、“ファイアボール”ッ!!」
次の瞬間、白球が煌めき、天高く昇る炎となった。
それは炎属性の基本ともいえる魔法。モロに実力が出る基本魔法は、ウォーミングアップ兼デモンストレーションとしては最適だ。
しかし、火の玉などと言えるレベルを飛び越えた炎大球は、術者の制御を離れ、俺達に向かって近づいて来る。
「なんか、やたらデカくないか?」
「というか、こっちに向かって来るよね」
「あらあら、元気があっていいわねぇ」
向かって来る炎大球を前に思わず呟く。
「少しは焦ってくださいよ!」
結局、暴発した魔法は、エリルの氷結玉によってボヤになる前に打ち消され、ストナのターンは強制終了。
「あうぅ……」
この大一番でやらかした所為か青い顔で下がるストナだが、彼女の思いとは打って変わって、周囲の反応はそこまで悪いものじゃない。確かに大多数は彼女の失敗に湧き立っているが、一部の上役達はさっきの二戦よりも関心を抱いている様だ。
その実力に興味を抱いた者と、野次を飛ばしたり嘲笑している者――それは、一群と二群、SランクとAランク以下という、一流と二流半の境界線を示しているという事なのかもしれない。
俺は周囲の雑音を外にやりながら、そんな事を考えていた。
しかし、次の瞬間――。
「いっくぜぇェェェっっ!!!!!! “シュラーゲンインパクト”ォォォォォ――ッッ!!!!!!!!」
魔力が煌めき、凄まじい衝撃と共に岩山が丸ごと消し飛んだ。
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