第138話 新装備

「とりあえず今の所は、特に問題なさそうなので安心してくれても大丈夫だとは思いますよ」


 空いた左手に魔力を出したり引っ込めたりしながら、ルインさん達を安心させるように笑みを浮かべる。


「それならいいけれど……」

「アーク君は無茶しがちだから、素直に頷けないんだよねぇ……」

「あはは……まあ、その内に馴染むと思いますよ。幸い元々の魔力光が黒いので、口で説明でもしなきゃ周りからも訊かれなそうなので……」


 武器と魔力性質の変化に伴って運用難度が跳ね上がった代わりに、得られた恩恵も少なからずある。今は強くなる為の指標が明確になった事を嬉しく思うべきだろう。


「大きな戦力アップには変わりないですし、せっかく装備も変わった事なので、一緒に心機一転でいいんじゃないですかね。ほら、二人共似合ってますし」

「もぅ、こういう時ばっかり調子いいんだから」


 ルインさんの頬が仄かに紅潮し、プクっと膨れる。


 俺が話題反らしの為に口にしたのは、皆の出で立ちが変化している事について――。


 というのも、前回の戦闘で俺達三人は文字通りボロボロと称して差し支えない状態になっていた。幸い大きな怪我こそなかったものの、大破した“虚無裂ク断罪ノ刃”を除いた中で特に酷かったのは防具の損壊具合。


 単純に言えば、嵐のような闇の魔力によって破損し、早急な修理が必要となってしまったというわけだ。


「流石は大陸有数の武器職人。機能性と着心地は抜群ね」


 そんなわけで俺たち三人は休んでいる間に“ダイダロスの武器屋”に赴き、セルケさんに各装備の修理を委託した。

 結果、セルケさんの厚意によって俺達の防具は修理ではなく、改修という形の措置を執られる事になった。


「見た目も私好みだし……まさか武器の方も補強してくれるなんて」

「うん、ビックリだったよね」


 ルインさんやキュレネさんの戦闘装束バトルドレスも大分意匠が変わり、前者は黒金が基調なのは変わらず、あかのラインと、ワンポイントで白銀の装飾が成されている。

 後者も蒼を基調に、白やみどりで彩られており、どちらの装備も以前より洗練された印象を受ける。


 ルインさんは鋭角シャープな腰回りの意匠に加えて肩が露出している上に、わきから前身にかけて白い肌が見えており、キュレネさんは細部にあしらわれた天女の衣を思わせる長いリボンが特徴的だ。

 動きやすさ重視なのか、二人の体のラインが以前よりはっきりわかる形なのが目に毒と言わざるを得ないだろう。


 因みに両者の武器も細部が変化しているらしいが、俺は実際に目にしてはいない為に視覚的な説明は出来ない。


「確かに明確に前よりもいい装備だって分かるのは、良い所かもしれませんね」


 俺の防具に関しては、“虚無裂ク断罪ノ刃”と同様に蓄積されたダメージが限界を超えて完全に破損してしまっていたので、新調という形になった。まあ、闇の魔力が暴走していた爆心地に居たんだから、当然かもしれないが――。


 二人の言う通り、今も纏っている黒を基調に白銀と紫の装飾が成された新装備の着心地には感心せざるを得ない。実際、さっきの斬撃の時も今までよりかなり動きやすかった。

 というか、そもそもCランクが精々だという装備でSランクオーバーの敵と戦い続けて来た今までの方が異常だった気がするが――まあ、もう終わった話だ。


「本人が前と同じように魔法を使えているのなら、とりあえずはいいでしょう。暫く単独行動はしない方がいいと思うけど」

「そうだね。アーク君は単独行動禁止!」

「うげっ……」

「賛成のー人ッ!」

「はーい」


 そうこうしていると、目の前の二人は背筋を伸ばして大きな胸を揺らしながら即座に挙手。


 この場に居るのは、合計三人。

 その内、二票が向こう側に付いた時点で、既に勝敗は決してしまっている。


「瞬殺……卑怯だ」

「多数決だものしょうがないわよね」

「うんうん。大体、アーク君のその武器の事についても、私は何も訊いていなかったんだからね!」


 更なる追撃。

 前回心配をかけた事を加味せずとも、些か旗色が悪い。


「まぁ、三群の訓練でそんなトンデモ武器が手に入るようなダンジョンに行くわけないものね。諦めて怒られていなさいな」


 キュレネさんも意地悪そうな表情でたしなめて来る。面白がっているのと本気なのが四対六といったところか。


 俺自身、怒られる要素が多すぎて弁解のしようもないわけだが――。


「魔力が変わっちゃった事で、身体に何か影響があるかもしれないってのは間違いないんだからね!」

「アーク達も一群に上がって来ることになってるから、逃げるのは無理よん」

「あはは……っていうか、俺が一群に?」

「三群のモチベーションは充分高くなったから、もう下からやる気を押し上げて貰わなくてもいいって団長さんも言ってたよ。アーク君たちのおかげだねぇ」


 悪戯が成功したかの様にウインクして来るキュレネさんと、えへへとはにかむルインさんによって、知らぬ間に進行していた俺の処遇についてを知らされる。


「――決戦間近なので、なりふり構ってられないって事ですか」

「端的にいえばそういう事になるでしょうね。尤も、今の共同戦線の感じならアークの気にしている通りにはならないと思うけれど?」

「私たちが来た時に比べれば皆仲良しになったし、少なくとも騎士団の人でアーク君の実力を疑う人はいないしね」


 帝都に乗り込んできた俺たち七人は、当時の騎士団長を廃する原因となってしまった冒険者として良くも悪くも注目を集めてしまっていた。実際、歓迎されるどころか共同戦線の相手に敵意を向けられていたのは記憶にも新しい。


 そんな状況では、騎士団長としても俺たち全員を一群で徴用するわけにもいかず、最上層と最下層に散らしたはずだ。


 しかし、今はそうもいっていられない状況になってしまったという事だ。言われ方が少々照れ臭いのは、ご愛嬌だろう。


 ならばこそ、俺のやる事は一つ。


「――それなら尚更、この魔力と武器を御しきれるようにならないといけないって事ですね」


 処刑鎌デスサイズの刀身に灯した闇纏う漆黒の魔力を実戦で使える練度にまで磨き上げる事しかない。

 それに、今の魔力性質なら色々・・と出来そうな感じもするしな。


 しかも、目の前にいる二人は、女性に限定すれば大陸でも双璧を成す最強クラスの戦闘力を誇る実力者。特訓を見てもらうには、申し分なさ過ぎる相手だ。


 それに、合法的に美女二人と一緒に居られると考えれば、役得なのだろう。


 まあ、根本的に今までも似たような状況だった気がするのは、気のせいだ。多分――。

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