第5章 斬暁終焉のリザレクション

第137話 闇纏フ漆黒

――帝都アヴァルディア近郊。



 俺は今、処刑鎌デスサイズを手に荒野に立っている。


「……」


 同時に少し離れた所からは、ルインさんとキュレネさんにジトーっと凝視されており、それはもう素晴らしい位に居心地の悪さを覚えていた。


「はぁ……まあ、見物人が二人だけってのを喜ぶべきなのかね」


 休む間もなく目まぐるしく変わる自分の状況に対して、思わずため息が漏れる。



 ランサエーレ本家による襲撃から早三日――。


 傷を治し、疲労を回復させた俺達は帝都に戻り、事後報告を終えた。


 俺達が伝えたのは、決戦時期や魔族の動向、ランサエーレ本家が暴走とも取れる狂化状態に陥った事など――。良くも悪くも衝撃的な内容ばかりであり、皆の驚き様もかなりのものだった。


 次いで、その場では捕らえたランサエーレの連中への尋問結果なども訊かされたが、予想通りの情報無し。

 最後方が定位置のラセット・ランサエーレ達が前に出た事に驚いただとか、いつの間にか見た事もない魔法を使っていただとか、本当に何の役にも立たない情報だった。


 まだまだゴタゴタしている様だがランサエーレ家の処遇に関しては、名家認定した大本である帝都がせわしく動き回っているらしい。


 そして、今――。


 暴走状態の余波が消えて普段通りに戻った俺は、騎士団の訓練に参加せず、現場に立ち会わせていた二人と共にリハビリがてら、この場所に赴いたというわけだ。


 まあ、実際の所、それだけが理由というわけじゃない。


「他の連中に見られて説明出来るとも思えないし、なんだかんだ良い機会なのかもな」


 一番の理由は、俺自身に起きた異変・・を確かめる為に必要な事だったからだ。


「とりあえず、当たっても砕けないように頑張ってみるしかない……なッ!」


 俺は眼前にそびえる岩山を見据え、新たな処刑鎌デスサイズ――“禁忌穿ツ刹那ノ刃”を構えると、地を蹴って一気に前に飛び出した。


 金色の刀身に漆黒の魔力を纏わせながら荒野を駆け、対象物に肉薄――一歩で踏み切り、巨大な岩山を撫で付ける様に処刑鎌デスサイズを振り抜く。


 それは、これまで幾度となく繰り返して来た工程。


 “真・黒天新月斬”――初期から使い続けている俺にとっての基本ともいえる技。


 現状確認の為に、これ以上相応しい技は無い。


「な――ッ!?!?」


 しかし、俺達はいとも容易く・・・・・・根元から破断されてしまった岩山を目の当たりにして、驚愕に目を見開く事となった。


「おいおい……嘘、だろ……。あの一撃で山が消し飛んだ……?」


 俺が使った斬撃魔法は効果範囲も狭く、特段火力に優れているわけでもない。発生速度や燃費の良さ、応用性といった取り回しの良さを評価して愛用している基本技だ。


 斬撃を叩き付けて根元を中腹まで抉り取った結果、岩山が崩れるというのなら自然な話として納得出来る。だが、その斬撃魔法で岩山の根元が吹き飛び、全体が破片と化すまでの火力を叩き出せるなんて、今までならありえなかった。


 つまり、俺達が驚愕したのは攻撃に使った魔力と、その結果のつり合いがあまりにも取れていないという事に対してだ。


 しかし、その現象を解明するのは容易だった。


「この感じ、やっぱりそういう事か……」


 刀身に再び自分の魔力を灯し、燐光を見ながら呟く。


 根源的な拒絶感。

 鋭さを増した圧倒的な魔力。


「俺の魔力が、闇に変質・・・・している……?」


 刃に宿るのは、闇纏う漆黒・・・・・


 それは、これまで幾度となく戦った――俺自身も無意識化で使ったであろう闇属性の魔力。


「アーク君……」

「今のって、まさか……」


 俺と同じ事を思ったのか、ルインさん達も足早に近づいて来る。


「身体は大丈夫なの!? また暴走したりとか、どこか痛い所があるとか!?」

「いえ……魔法は完全にいつも通りの感覚で使えましたし、身体も問題ないです。それどころか、いつもよりも身体の調子が良いぐらいで……」


 人間が闇の魔力を使う事の代償を目の当たりにした二人だからこそ、こんなに心配してくれているんだろう。

 だが、セラスが言う所の異物・・であるはずの闇の魔力は、完全に俺に馴染んでいる・・・・・・


「強いて言うのなら、出力のコントロールがからっきしって所くらいですね。まあ、新武器の特性も込みですけど……」

「それって……」

「この武器自体、少し前に手に入れて特訓してたんですけど……あまりにもピーキー過ぎて振り回されてる感があったので実戦で使うのは厳しかったんですよね」


 試練の果てに得た新たな処刑鎌デスサイズ――“禁忌穿ツ刹那ノ刃”。

 セルケさんが大陸屈指の業物と認める程の武器であり、入手経緯も特殊なだけあって単体性能はこれまでの“虚無裂ク断罪ノ刃”の数倍以上と、根本からして比較にならない。


 単純かつ純然たるパワーアップではあるが、制御に難があり過ぎた為に最後まで実戦投入に踏み切らなかった。


「しかも、魔力が変質した影響か、単純に性質が変わったみたいで……」

「そう! それだよ! 魔力がおかしくなったって一体どういう事!?」

「どうやら、基本デフォルトの“無属性”が“闇属性”に変質しちゃった……って事みたいっぽいですね」

「じゃあ、今までの魔力は……?」

「無属性は使えなくなって、闇の魔力に還元。属性魔法は今まで通りに使えますね。若干感じが変わった気もするので、もうちょっと派手に使ってみないと分からないですが……」


 刀身に烈風、左の掌に氷の結晶を出現させると、属性魔法の制御具合を確かめるように呟く。


「ただ、魔力性質そのものが変わったからか、今までよりも格段に破壊力が増してるみたいです。今、見て貰った通りですね。まあ、その代償に制御の方がかなり大変になっちゃいましたけど……」


 属性魔法の運用にはそこまでの支障はないが、通常魔法に関しては変質した魔力ピーキー新しい武器ピーキーが組み合わさって、取り回しが最悪になったと言わざるを得ない。

 つまり――俺の魔力は、その代償を加味しても、有り余る程に超攻撃特化型の性質に変化してしまったようだ。

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