第124話 禁忌の存在
「――捕まえたっ!!」
二人揃って、属性魔法で作り出した長槍でラセットの両肩口を刺し貫いたルインさんとキュレネさんが同時に飛び退く。
傷口から雷光が奔り、水流が躍動する。狂化モンスターに対しての有効打である再生の鈍化を狙っての攻撃だが、ラセットはそれでも止まらない。両腕が引き千切れる事すらも
「“
そんなラセットに対し、イリゼの“土”の属性魔法が繰り出された。
「■■■――!?!?」
飛来する土塊はラセットの膝の皿を前方から押し込み、さっきの着地から再生しきっていなかった両足が吹き飛ぶ。すると、
それを見た瞬間、俺は地面を蹴り飛ばした。
「くそっ! これで……!」
同じ人間を殺す為に刃を振るう。
その事を実感しながらも
「ぐ■、■ぁぁ■■っ、■っ■■ッ■っ■――!?!?!?」
「両手両足を喪ってもまだ動くのかッ!?」
だが、ラセットの全身から吹き出した魔力に煽られ、勢いを僅かに殺された。その間に、奴の左腕が再生。魔力を纏い、巨爪となって迫る。
「“ダークモナクシア”――ッ!!」
ラセットへの斬撃を迎撃に転化しようとしたその時、上空から降り注いだ紫天の斬撃によって、迫り来ていた左腕が両断された。
「くっ、間に合わなかったか……!」
「――ッ!? セラス・ウァレフォル!?」
「アーク・グラディウス……」
隕石の如き勢いで出現し、立ち昇る噴煙の中に立つのは、紫天の女性魔族――セラス・ファレフォル。驚きに目を開く俺たちの眼前で、周囲を見渡した彼女は悲痛そうな表情を浮かべていた。
「どうして、お前が!?」
「アドアから詳しい事情を訊き出した。彼らにしてしまった事までな。だから、戻って来たッ!」
セラスの
「なら、端的に今の状況を教えてくれ。一体、何が起きてるんだ!?」
「■■■――!?!?」
再びの遭遇に動揺したのは勿論だが、今はそれどころじゃない。
「奴はこの人間達に、我らと近しい魔獣の核を譲渡した。目的は、動乱を思うままに引き起こし、人間達を潰し合わせる事」
「どうしてそんな回りくどい事を? セラスにすら刃を向けるんじゃ、戦力としてはとても使い物にならないだろうに!?」
「人間が闇の魔法を使うなど前代未聞だ。我ら自身も、どうなるかなど分からない。だが、この様子からして、あの人間は我らの因子の方に取り込まれているのだろう! アドアの思惑だが――」
「他人の命を踏み潰して遊んでいるのだ! あの馬鹿はッ!」
「■■■■――!?!?」
二重の斬撃魔法により、四肢を失ったラセットが吹き飛んで行き、再び大樹に背中を叩きつけられた。
「――念のために聞いておくが、あの状態になった人間を助ける事は可能か?」
「いや……可能性を挙げるとすれば、我らの因子が体の末端にあるのなら、そこを切除すればあるいは……といったところだ。身体組織との
隣のセラスを一瞥し、最も理想的な現状打破の方法を問うが、答えは当然――否。希望的観測だという自覚は十分過ぎるほどあり、それ自体への驚きはない。
「いや、俺達が
「何だと? どういう事だ!?」
「――
「味方を襲って血肉を喰らう、だと!?」
「ああ、“共喰い”とでも言えばいいのかもな。原因に心当たりは?」
「……」
俺が驚いたのは、目の前で起きた現象が、セラスから見ても理解の外にあるという事だった。
「その味方の人間は、どんな風に息絶えた? お前が手を出せぬ程、激しい戦闘でも起きたのか?」
「いや、アレは戦闘というよりも蹂躙だった。やられている側も外傷に対しての身体再生をしていたが、目の前のアイツ程じゃない。それに、死んだ時も突然再生が止まった風に見えたが……」
セラスは俺の言葉を受け、神妙な面持ちで再び無残な姿となった、三つの亡骸へ目を向ける。
「可能性を挙げるとすれば、他の人間に宿った核を自らの肉体に取り込み、より強い力を得ようとした……という事だと思う」
「奴の狙いは、味方の狂化因子……」
「ああ、核を抜き取られたとなれば、再生出来ぬというのは不自然な話ではない」
「一人で複数の狂化因子を取り込むとどうなる?」
「分からん。前例がないからな。しかし、核に宿った魔力が互いに影響されて増幅し、相乗効果で膨れ上がっていると見える」
ラセットであったモノが求めたのは、自身と同じ力を持つ狂化因子。俺達四人に勝てないと悟ったのか、本能的な衝動から来るものであるのかは定かでないが、味方を捕食する事で不完全な群体から脱し、一個体としての完成度を固めたのだろう。
「魔獣の因子を一個体で四つ宿す人間だったモノ。アレは、
人間を素体にした狂化因子四個付き。それは、禁忌の存在。
「――奴は血統だけなら人間の中でもかなり高位な存在だ。もし、決定的に足りていなかった
「もう何が起きても不思議ではないな」
「■、■■■■■■■■■――!!!!!!」
俺たちの眼前で槍を拾い上げたラセットが咆哮を上げた。これまでよりも、更に魔力を膨れ上がらせながら――。
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