第4章 深淵盈月のデュアルモーメント
第96話 昂りゆく力
大規模模擬戦を終えた翌日――。
「来たね、アー坊。いらっしゃい」
「毎度の事ながら、お世話になります」
早朝、俺がやってきたのは、開店前の“ダイダロスの武器屋・帝都出張店”。
「ルインから訊いてるよ。大活躍だったそうだねぇ。この色男!」
「あはは、そんな事ありませんよ。結局、戦果は上げれなかったわけですし……」
にこやかに迎えてくれたセルケさんに軽く会釈し、“虚無裂ク断罪ノ刃”を手渡す。
「謙遜し過ぎさ。騎士団のトップの中で大暴れするだなんて、冒険者デビューして半年ちょいってのを加味すりゃ、十分過ぎる――というか、割と頭おかしいレベルで凄い事なんだからねぇ」
セルケさんも慣れた様子で
「まあ、活躍の代償はちゃんと圧し掛かってるみたいだけど?」
「そう、ですか……。でも、掴んだ感覚を実戦で試すまたと無い機会だったので……」
魔力による武器生成の運用技術向上。
“風”の属性魔法の会得。
限りなく全力に近いルインさんとの戦闘経験。
昨日の模擬戦で得たものは、非常に大きい。これも、ある意味、実戦以上に緊張感のあった戦いの中だからこそ得られたものだろう。
その事への後悔はない。
唯一、後ろ髪を引かれる思いがあるとすれば――。
「後、どのくらいもちますか?」
「そうさねぇ……。騙し騙しケアしていけば、まだ暫くは大丈夫。でも、全力戦闘は後一回が限度。それも負荷のかかり方によっては、絶対の保証はない……ってとこかね」
「――残り、一回……」
「驚いたかい?」
「ええ、外見だけじゃ、とてもそんな風には見えないので……」
「こればっかりはしょうがないさ。そんだけの無茶を仕出かして来たって事なんだからねぇ」
原因は、右も左も分からない新人の頃から繰り広げて来た度重なる狂化モンスターとの戦闘と、これまでの無茶な魔力行使に端を発するモノ。
「まあ、正直否定は出来ないですね。自分の武器に過剰負荷をかけながら無茶苦茶な戦いをして来た自覚は一応あるので……」
だが、トドメを刺した大きな要因は、常軌を逸脱した力を誇るマルコシアス、白騎士との連戦に、ルインさんとの全力戦闘。加えて、“アブソリュートアポカリプス”の習得訓練。
要は間髪入れずに激しい戦闘を繰り広げ、大規模魔法を連発した影響で、知らず知らずのうちに
「こんな短期間で、
「喜ぶべきか、悲しむべきか……。何とも言えないですね」
口角を上げたセルケさんを前に、俺は肩を竦めた。その行動の半分が照れ隠しだというのは、ここだけの話。
まあ、たった半年という短期間で帝都騎士団、冒険者ギルドの目に留まるぐらいの成長を成し得た代償として、
「それで、
「あぁ……魔力の喰いがデカいというか、出力調整が難しいというか……ちょっとピーキーなので、制御度合いは六割ってとこですね。やっぱり、“虚無裂ク断罪ノ刃”と比べて、かなり勝手が違うのが大きいです。本体重量も若干増してますし……」
「アタシが目をひん剥く位の
「――ええ、無手で戦場に出るのは勘弁ですから、早く制御出来るようにならないと……」
“ダイダロスの武器屋”にも、他の
その為の対処法について話し合っていると、店先から人の声が聞こえて来る――。
「ん? ああ、もうこんな時間かい。悪いね、アー坊」
「いえ、開店前に武器を見て貰ってるわけですから、お構いなく」
気が付けば、開店時間。思ったよりも話し込んでしまっていたようだ。
「それにしても、今日は賑やかですね」
「そりゃ、昨日あれだけドンパチやったんだから、皆して武器の整備に忙しないのさ。まあ、整備を疎かにしてない事には感心だね。
賑やかな店先に視線を向ければ、開店準備を始めたセルケさんから耳の痛い話が返って来る。あんな大規模で戦闘員が動いたんだから、彼女達サポート班に大きな負担を強いてしまうのは、考えてみれば当然なのかもしれない。
「――確かに、意識が変わったってのは間違いないかもしれませんね。昨日の模擬戦に参加した大多数は非番のはずですけど、こうして自分の武器を気にしてるわけですし……」
来る途中にも、自主練習に励んでいたグループがいくつかあった事を思い返しながら呟く。
数少ない休日を潰してまで戦闘訓練に打ち込むだなんて、少し前なら考えられもしない光景。それも複数グループ単位での自主特訓だなんて、まずありえなかった。武器の整備に来るのも同様だ。
昨日の一件が、良い意味で後を引いているって事なんだろう。
そうこうしている内に開店準備が終わり、解錠された扉から冒険者や騎士が入店して来る
「いらっしゃい! 剣から変態武器まで、大体揃ってる“ダイダロスの武器屋”にようこそ。用件は何だい?」
「――購入は無しで、武器の整備をお願いします」
「了解さね。種類は?」
「長槍です」
「ほう、これは中々……」
セルケさんが完全に接客モードに入って手持ち無沙汰になってしまった為、そろそろお暇をと思って退店しようとした俺だったが、店主に武器を預けて店内を物色し始めた女性と目が合ってしまう。
「あら、ボウヤじゃない!」
「キュレネ、さん……?」
目の前で柔和な笑みを浮かべたのは、見事な美人さん。
他事を考えていて気が付かなかったが、今日初めての客はキュレネさんだった。
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