第75話 氷結ノ死神
「貴様ァ……何のつもりだ!? 部外者はすっこんでいろ!!!!」
若干身じろいだレオンは、目の前に突き刺さった
「それに、次が最終戦だとォ!? 我が騎士団が貴様ら風情に敗北するなどありえん!!!!」
「でも、大絶賛三連敗中ですよね? 次の試合、こっちが勝ったらストレートで決着。もう負ける理由を探す方が難しいと思いますけど?」
「ふん! 奴ら無能は既に騎士団から追放した。つまり我らは、騎士団の名は穢されていない! 残り四戦は本当の騎士達が、貴様らを蹂躙する! それに貴様らとて、腕の立つ奴らから投入していたように見えるが? ならば、残りはカスばかりではないのか!?」
激昂している奴の発言は、言い得て妙だろう。確かに一人一戦というルール上、こちらが動かせる最強クラスの駒は既に消費しきってしまっている。それに奴が言う通り、残存戦力の半分は
半面、連中は控え席にも観覧席にも数多くの騎士団員が控えている。今回代表として出てきた連中を超える者が紛れているとすれば、少々厄介な事になるだろう。
だが、そんな事はどうでもいい。
「確かに俺たちの
「田舎猿風情が、我らを愚弄するつもりか!?」
「愚弄じゃない。事実だろう?」
「貴様ァ――ッ!!」
もう立ち止まらない。そう誓った。帝都騎士団程度に怯む様な気概なら、それは叶わない。こんな程度の壁は、斬り裂いて前に進んで行くだけだ。
「それだけ大口を叩いたのだ! 余程自信があるのだろうなァ!?」
そんな決意を込めて怜悧な瞳でレオンを射抜けば、奴もまたそれに応えるように柄が横に突き出た十字架を思わせる大刀を手に取った。
「この俺が直々に、完膚無きまでに叩きのめしてやろう!! おい審判! 次の組み合わせが決まったぞ! さっさと宣告しろ!!」
「は、はいっ! 第四戦開始します!!」
結果、冒険者はリゲラから俺へ、騎士団も本来出るはずだった騎士からレオンへと選出が変わり、誰も予想し得ない方向へと舵を切る事となった。
「これが終わった後に五体満足でいられる事を祈っていろ。まあ、不慮の事故でも起きて、二度と立ち上がれなくなるかもしれんがなぁ!!」
「ルール内なら何をやってもいいって事か。とんだお山の大将だな」
「ふん、いつまでその生意気な面を保っていられるのか楽しみだ!!」
開幕一番、魔力を帯びた大刀が振り下ろされ、強烈な一撃が撃ち放たれた。威力もキレも、さっきまでの連中を軽々と越えている。
少なくとも、俺がこれまで
(腐っても現役の騎士団長か……。でも、こんな程度で臆するわけにはいかない!)
何故なら、俺はこれを優に超える攻撃を放つ者達の事を知っているからだ。
「でええぇぇぇぇいッ!!!!」
「声がデカすぎなんだよ!」
気合の入った一撃を身体を左に開いて躱し、更に踏み込むと同時に
「――ッ!? 田舎猿風情が、この俺に刃を向けようなど許されぬ!!」
「意外と器用だな!」
しかし、肩口を狙った剣戟は横に大きく伸びた
「どりゃぁァァッ!!!!」
「ちっ!?」
鍔迫り合いは一瞬。
力任せに振り払われた俺は、それに抵抗することなく押し出される力を利用して背後に跳んだ。
「ふん! 貴様も、その面妖な武器を己が手足のように振り回しているではないか!!」
俺の着地を狙い撃つかのように奴の剣が虚空を刻む。その影響か足元の大地が砕け、同時に岩塊が飛来した。
“土”の属性魔法――“アースクエイク”と“グランドクエレ”の同時行使。流れるような魔法が俺に襲い掛かって来るが――。
「そりゃ、どうも!!」
俺もまた、破片と化す前に大地を蹴り飛ばして地割れを回避。同時に刀身から蒼い魔力を放つ大鎌を軽く振り、具現化させた氷結の槍を次々と撃ち放って、飛んで来る岩塊を凍結させる。
“ブリザードランサー”――“氷”の属性魔法の一種。これまで近接一辺倒だった俺にとって、待望の飛び道具。マルコシアスとの戦いを終えた後、戦力向上の為に身につけた属性魔法だ。
「この俺を前にして、随分とふてぶてしい戦いっぷりだ。確かに大口を叩くだけの事はあるようだが、所詮それまでだ!!」
凍結して砕け散った岩塊を目隠しにレオンが突貫して来る。その大刀に炎の魔力を灯しながら――。
「ちっ!? これは、炎の……!?」
正面衝突は分が悪いと判断し、俺は氷結の槍を放ちながら即座に斜め後ろへと跳ぶ。
(予想していなかったわけじゃないが、少々面倒なことになってきたな)
戦闘中に属性魔法を自在に切り替えられるという事は、奴の実力をわかりやすく換算した場合、最低でもAランク以上は確実。それに実力は、少なくともグルガ以上――。
今までの連中の上位存在と考えれば、それほど驚きはないが、そういうタイプの相手と戦うのは初めての事だった。
「“デフェールスラッシュ”――ッ!!」
レオンは跳んで退がった俺を間髪入れずに追撃して来る。差し向けられるのは、炎の剣戟。即座に追撃に来るこの反応、やはりこれまでの連中とは動きが違う。
「それでも、立ち止まる理由にはならない!!」
だが、俺は追いすがって来るレオンに対し、更なる魔法を起動させた。
「“
それは“ブリザードランサー”を俺なりに発展強化させた属性魔法。具現化させた氷の剣群がレオンを強襲する。
「こんなもの! 我が剣で――!!」
範囲攻撃に対する奴の選択は、回避ではなく迎撃。それを目の当たりにした瞬間、俺は地を蹴り飛ばしながら刀身に漆黒を灯す。
「足が止まっている。隙だらけだ!」
氷の剣群はあくまで陽動。本命は、俺自身からの直接攻撃。
「この田舎猿が! 俺を、舐めるなぁぁ――ッ!!!!」
俺の奇襲に気が付いた奴は、迎撃体勢から身を投げ出すようにして剣群を回避。大きな体で前転し、勢いのまま立ち上がる。そして、迫る俺に対して魔力を纏った剣を振るう。
だが、やはり不安定な体勢からの一撃とあってか、剣戟に力が乗っていない。ほんの少しの腕の力と、剣の重量だけで動いているような攻撃だった。
「何ィ――ッ!?!?」
それをバックステップで回避すれば、標的を失った奴の大刀は地面に切っ先を突き立て制止する。
「断ち斬る!」
そして、俺は退がると同時に刀身に収束した魔力を解き放ち、斬撃魔法を起動させて一気に肉薄。
「“真・黒天新月斬”――ッ!!」
(いつもならもっと慎重に攻めるとこだが、今日は力技で捻じ伏せる!)
「おぅ――っ!? がぁぁッ!?!?」
結果、奴の苦悶の声と共に十字架を模した大刀が演習場の端まで吹き飛んでいく。
大刀自体が地面に突き刺さって固定されていたからか、奴自身が余程力んでいたのかは知らないが、ガッチリと掴んでいた鋼鉄の塊を無理やりで吹き飛ばされたのは、かなり堪えたんだろう。
レオンは、思わぬ形で大きなダメージを負った両腕を抑えて、その場に
「これ以上の戦いは無駄です。言ったでしょう? これが最終戦だと」
「ぐ……ぐ、ぅ……っ!?!?」
そして、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます