第74話 誇りと犠牲と

 これにて第三試合も終結。中間戦績は冒険者サイドの三連勝となり、騎士団サイドはもう後がない。正しく予断を許さない展開となっていた。


「おつおつー」

「まあ、当然だわな」


 そんな空気感とは裏腹に、キュレネさんとリゲラは戻ってきたジェノさんを笑顔で迎え入れていた。

 少々計算違い・・・・はあるものの、おおむね作戦通りに事が進んでいるからか、皆の表情に緊張は見られない。


「Sランク最上位の戦闘員を適当に放り込み、初戦からフルスロットルで連戦連勝。作戦も何もないですけど、力こそパワーって感じですね」

「まあ、私達は対人戦に不慣れな上に、こういう団体戦なんて誰も経験した事ないからね。勢いに身を任せるしかないんだよ」


 俺も隣のルインさんと目を合わせると、想定通り過ぎる状況を受けて苦笑を浮かべ合う。何故なら、こっちの作戦は、相手の出方や会場の空気感なんてお構いなしで強い駒を放り込むという戦略もへったくれもないものだったからだ。

 馬鹿でも思いつく作戦。シンプル・イズ・ベスト。要は圧倒的な個人技によるゴリ押しだ。


「まあ、ストレートで王手をかけれてるんだから、結果的には成功だよね」


 その火付け役となったルインさんは、えへへと他人事の様にぽわぽわとした笑みを浮かべている。

 この戦法は、開幕直後から切り札ジョーカーを切ってしまう為、失敗した時に立ち直るのが難しい反面、シンプルであるが故に決まった時の威力は、これ以上ないくらい絶大だった。


「――貴様らは、一体何をやっているんだ!?!?」


 そんな時、剣呑極まりない空気を放っていた騎士サイドの控え席で事件は起きた。


「三戦三敗……。最強の称号を受け継ぐ、我が帝都騎士団に所属していながら、よくもまあこんな無様を晒してくれたものだな!! この恥晒しがァ!!!!」

「な、何!? が、っぁ――ッ!?」


 観覧席に居たはずのレオンが控え席に乱入。俯きながら肩を落として戻った少女騎士の頬に拳を叩き込んだ。

 突然拳を打ち込まれた少女の首は跳ね上がり、身体全体が宙を舞う。そのままの勢いで少女の細い体が地面に叩き付けられ、数回転した後に沈黙。“泣きっ面に蜂”とは、正にこの事だろう。

 しかし、レオンの怒りはこれで収まらない。


「貴様も、デカいのは図体だけかァ!? ええ!?」

「ひっ――!?」


 次の標的ターゲットは、ルインさんと戦った大柄の騎士。激昂する団長に恐れをなしたのか、さっきまでの勇ましい態度が嘘のようだった。


「あんな小娘に膂力りょりょくで負けおって……力自慢の切り込み隊長が聞いて呆れるな!!」

「ぐぼぉ……っ!? や、やめ――!! がぎぃ――ッ!?!?」

「どうした!? 一方的に殴られてるのに反論一つ出来ないのか!?」


 レオンが放つ体重の乗った右ストレートが大柄の騎士に何度も炸裂する。そのまま無抵抗な相手の顔やボディーをモロに殴り続けている辺り、差し詰め人間サンドバッグといったところか。


「き、騎士団長! もうお止め下さい!」

「なんだァ!? テメェ如きがこの俺に指図するつもりなのか!?」

「あ……っ!?」

「どうなのかって訊いてんだよォ!!」


 そんな姿を見かねて別の騎士団員が止めに入るが、レオンは完全に頭に血が上っているようで訊く耳を持たない。それどころか大柄の騎士の胸ぐらを掴み上げると、その団員目掛けて巨体を放り投げた。


「お、がっ!? お、っえええ――っ!?!?」


 騎士団員は大柄の男と共に、二人仲良く重なり合うように倒れ込む。しかし、殴られ過ぎて脳震盪のうしんとうでも起こしているのか、上に乗っかっている男は自立すら出来ず、力なく横たわっていた。


「あ、足がァ……!?!?」


 しかも、下敷きになった騎士団員は、上の男が乗っかって来て倒れ込んだ所為で足を負傷したんだろう。苦し気に身体をジタバタさせながら絶叫している。

 時代錯誤な鉄拳制裁だ。


「文句がある奴は全員出てこい! 俺が身体にきっちりと教え込んでやる! それが嫌なら残りの試合は全て勝利しろ!! 万が一負けるような事があれば、コイツらと一緒に騎士団を除名してやるから相応の覚悟しておけ!!」


 だが、レオンは苦しみ藻掻もがく団員になどお構い無し。地位と腕力にモノを言わせて、震え上がる騎士団員の前で怒号を張り上げていた。


「じ、除名……で、ありますか!?」


 その発言を受けた騎士団員達の顔から一層血の気が引いていき、殴り飛ばされた少女騎士は散漫な動きで顔を上げながら茫然と呟く。


「当たり前だろう!? 我々、帝都騎士団は最強でなければならない! よって無能な存在は許されないのだ。この茶番が終わり次第、さっさと俺の前から消え失せろ! 騎士団の面汚しめ――ッ!!!!」


 良きにしろ悪しきにしろ周囲の誰もが、その鉄拳制裁を茫然と見ている事しかできない。そんな中、俺には目の前の光景が全く別のモノに見えていた。


「こんな形で騎士団を抜ける者など前代未聞だ。大した家の出でもないし、家族郎党どうなるのかなァ!?」


 口角を吊り上げたレオンは、足を振り上げながら叫んだ。その先に居るのは、未だにうずくまったままの少女騎士。


「というわけで、お前達を我が騎士団から追放する!」


――というわけで、お前は追放だ。さっさと死ねよ。


 絶望に打ちひしがれる者達と、その惨状を引き起こして嘲笑う権力者。


「帝都から落ち延びた無能として一生過ごすといいわッ!!!!」


――じゃぁな! 無能なアーク君。ぎゃはははっっ!!!!


 この光景は、俺がガルフたちによって追放されたあの時とどこか似通っている。


「――ッ!!」


 そして、気が付いた時には、俺の身体は自然と動いていた。


「な、何だァ!? どこのどいつだ! 俺様に向かって武器をぶん投げて来るような奴はッ!?!?」


 レオンは自分と少女騎士との間に突然割って入って来て、その刃を地面に突き立てている特異な武器デスサイズを凝視すると、怒り狂ったように叫んだ。


「――さっさと最終戦・・・を始めないんですか? そちらのくだらない内輪揉めに、これ以上付き合うのは御免なんですけど?」


 そう、気が付いた時には、俺は戦闘形態の処刑鎌デスサイズを連中に向かって放り投げていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る