第67話 錆び付いた刃
「帝都との連携が厳しいとは、どういう事なのでしょうか?」
「今言った通りさ。帝都側に情報を伝えたは良いものの、彼らの返答は自らの手で問題を処理するというものだった。私達、根無し草の冒険者は戦力外なのだそうだ」
ここに来て、これまで話の中心に居たジェノさんとサブリーダーの表情が険しいものに変わる。
「情け無い話だが、総本部の中ですら一枚岩ではない。現にトップがこの場に居ないわけだしな。そして、帝都の中でも様々な思惑を持った者達が日夜、権力闘争を繰り広げている。こんな状況で我々が無理に参加したとしても、城壁の外で捨て石にされるのがオチだろう」
「それぞれの派閥にしろ、ギルドの冒険者にしろ、自分達が戦功を上げて立場を盤石なものにしたい。だから、共に戦うのは構わないが、代わりに下に付けと?」
「ほう……グラディウス少年は、若いのに視野が広いじゃないか。まあ、そういう事になってしまうね」
こう言ってはアレだが、俺達ですら世界存亡の事態に対して危機感を持っている状況であるにも拘らず、肝心の上役達の認識の低さには、驚きを通り越して呆れが先行してしまった。無償の正義などありえないとはいえ、人類根絶よりも私利私欲を優先するなんて笑い話にもならない。
「帝都アヴァルディア――神話の時代に人類最後の砦として魔王と戦った者達の拠点であり、世界の中心といってもいい。そんな場所の守護を許されたんだから、上役や騎士達の
「平和が長続きしたせいで実戦から遠ざかり続けた勇士たちの刃は
「身も
「――掴み取った平和が彼らを堕落させるなんて皮肉な話……ですね」
帝都の実情を改めて思い知らされていると、ルインさんの小さくもよく通る声が俺達の隣から聞こえて来た。その声音に宿るのは、激情と憤り。
ポラリスの一件を自分の過去と重ねてしまっているであろう彼女からすれば、上役達の態度に対して怒るのも当然だろう。
「そんな彼らからすれば、家系や
「冒険者内でも蹴落とし合って、長年の
俺の脳裏を過るのは、ルインさんを巡って冒険者同士で漁夫の利を奪い合ったローラシア王国のギルドでの記憶。
アレをもっと陰湿にして規模を大きくしたものが末端から世界の中心まで根付いているともなれば、最早マルコシアスと戦う以前の問題だった。帝都の戦力規模がどのくらいなのかは知らないが、正直詰んでいるんじゃないかとすら思えてしまう。
「そんな状況だからこそ、君達の若い力が必要なのさ」
「……? どういう事ですか?」
皆の表情が曇り切っていく中、サブリーダーの鋭い視線が俺達を射抜く。まるで希望がある風の彼の言いぶりに、誰もが怪訝そうな表情を浮かべていた。
「君達には我々の特使として帝都に赴いて貰う。帝都サイドに対等な条件で協力を取り付けることを目的としてな。その為に、君達の鍛え上げた力を振るってくれ」
「――協力にこじつける手だてがあるんですか? それに俺達の力って……」
「まあ、今はそういう事だと思って貰って構わない。賭けに違いないがね。そして、総本部の意思統一については私や部下たちに任せておいてくれ。君達はとにかく前に進んでくれればいい」
サブリーダーの表情が曇り切らなかったのは、何かしらの打開策があっての事。現状はそれを信じて進むしかないという事だ。
「お父様、私は……」
「ふむ……グラディウス少年、アストリアス嬢。うちの娘についてだが、足手纏いでなければ引き続き同行をお願いしてもいいだろうか?」
そんな時、父親に自分も内勤に回る方が良いのかと尋ねたアリシア自身についての質問を投げかけられ、俺とルインさんは視線を交錯させる。しかし、その問いへの回答が出るのに時間はかからなかった。
「乗り掛かった舟ですし……曲がりなりにもマルコシアス相手に連携してあれだけ戦えたんですから、足手纏いなんて思ってませんよ」
「私も同じ気持ちです」
アリシアとの付き合いは短いが、あれだけの戦いを乗り越えた仲だ。今はもう彼女に対する疑念はないし、極端な事を言えばこれから帝都に殴り込みをかけるんだから戦力は多い方がいい。同行を断る理由はないというのが正直な所だ。
「――だそうだ。今後も我々の
「はいッ!!」
そして、フリーズドライを地で行くアリシアらしからぬ気合の入った返事を聞くと、利用し合うだけだと言っていた当初よりも、良い意味で関係性が深まったのかもしれないと密かに感じていた。
「というわけで、君達七名は我々の第一陣として帝都に向かい、
まだまだ不確定要素は多いが、ひとまず行動の指針は定まったといった所だろう。世界の中心である帝都に乗り込むだなんて現実味がない話だが、こうなったからには腹を
「グラディウス少年――少し良いか?」
俺だけがこの場に残る事となった。
「ユーリ・グラディウス――この名前に聞き覚えがあるだろうか?」
サブリーダーが口にした意外な人物の名に衝撃を受けながら――。
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