第3章 神聖絶刃のナイトオーダー
第65話 突入!冒険者ギルド総本部
冒険者ギルド総本部――。
「ここが……冒険者ギルドの総本山か。この間のギルドにも圧倒されたのに、それすら霞んで見える……」
「うん。私も来るのは初めてだけど、これはびっくりだよ」
俺とルインさんは、眼前に
「二人ともどうしたの? 早く入りましょう」
この中で一番の田舎者は俺、次いでルインさんだろう。アリシアと
「さて、総本部に戻ってきたわけだが、僕達が上に話を通している間はここに滞在してもらう事になる。帝都に向かうのはそれからだ」
「そんなに悠長にしてていいんですか? この間の話を聞いた感じ、結構緊迫した状況だと思うんですけど」
冒険者ギルド総本部があるのは、ローラシア王国の最南端。帝都アヴァルディアとは殆ど隣り合っているような地形だ。移動自体に大した時間がかからないとはいえ、あまりゆっくりしているわけにはいかないのが実情だろう。
「ポラリスでの一件は既に上にも伝わっているから、穏健派も動かざるを得ない。滞在するといっても、一日二日さ。それに奴らが攻めてくるのは今日明日って話じゃないよ。僕達人間にも
「どうして、そんな事が言いきれるんですか?」
「それは君達のおかげによるところが大きいかな」
しかし、回答を得ても疑問は募るばかりだった。
「“戦力が整った暁に”……マルコシアスは去り際にそう言っていた。つまり、奴の下にまだ戦力が集まり切っていないという事だとは思わないかい?」
「額面通りに受け取るのならそうでしょうけど……。しかも俺達とは無関係ですよね」
「そういうわけでもないのさ。実際、前回の戦いで君達はマルコシアス自身にもそれなりの深手を負わせただろう? しかも、アーク君は奴の右腕を奪い、連れていた狂化モンスターを倒してしまったわけだ。奴からすれば大きな計算違いだろう?」
よく考えれば、俺達を倒せる状況だったにも拘らず、マルコシアスがあんな事を言って撤退したという時点で、奴がすぐに攻め入ってくるわけじゃないってのは明白だ。話を訊いていく中で、猶予があるというのはそういう事かと納得できた所だったが――。
「つ・ま・り! ボウヤの一撃が人類を延命したって事よ」
これからの戦いと新天地であるギルド本部や帝都でのことを考え始めた直後、キュレネさんが腕に引っ付いてきたせいでシリアスムードが四散してしまう。
「ちょっ!? アーク君から離れて下さいッ!!」
「やーよ」
(兎にも角にも、毎度のことながら俺を挟んで喧嘩するのは止めてくれと声を大にして言いたいところだな)
詰め寄って来るルインさんは、口をへの字にして不機嫌オーラ全開だし、前から向けられるアリシアの瞳は心なしか冷たい。エリルは赤くなった顔を手で隠して随分と空いている指の隙間から、リゲラはそこを変われと言わんばかりに血走った視線を向けて来るだけだ。
「では、本部長たちと顔合わせといこうか! 少々癖は強いが気の良いおじさん達だから、そんなに緊張する事はないぞ!」
最後の砦であるジェノさんは俺の動揺に気づいた様子もなく、爽やかな笑みを浮かべている。
(ぐ……っ! まともな味方がいない!!)
しかも、今俺達が居るのは、人の往来がそれなりに多い総本部の中央通路。行き交う彼らからすれば、初見の人間が
(それに、いい加減離れてくれないと理性と視線とが凄まじいことに……)
その上、俺を揉みくちゃにしているのは、スタイルが抜群過ぎる美人二人だ。腕やら背中やらに当たる二人の脅威の胸囲によって理性がゴリゴリ削られ、男女問わず――特に前者からの刺すような視線によって精神的に疲弊してしまう。
「あらあら、そんなに目尻を吊り上げたら可愛い顔が台無しよ」
「ツリ目は元からです!」
超美人同士のじゃれ合いを間近で見れるとなれば鼻の下を伸ばしたいところだが、この二人に限っては竜種同士が絡み合っているようなものだ。物騒な事この上ない。
「きゃー、助けてアーク君。お姉さんが三枚に下ろされちゃうわー」
「その棒読みは何ですか!? いいから早く離れて下さいッ!! しれっと名前で呼んでるし!」
(キュレネさんなりに緊張を
キュレネさんが茶々入れして、俺達が巻き込まれる。それをジェノさんが笑い飛ばすという、すっかり恒例になってしまったやり取りだった。年長者の余裕なのか、妙に生々しいやり取りになってしまうのが玉に
「さて、冒険者の長達に会うわけだが、心の準備はいいかい?」
「もう何でもいいです」
さっきまでのやり取りを含め、マルコシアス戦から続く頭の痛い話に疲れ切っていた俺は、ジェノさんの言葉に投げやりに回答する。
新たな魔王との遭遇を経験した後なんだから、今更誰と会っても驚かない――なんて思っていた俺を尻目に大きな扉が開け放たれた。
「侍女諸君! 見たまえ、この鍛え抜かれた鋼の様なボディをッ!!」
そこにあったのは、筋骨隆々なはち切れんばかりの肢体を周囲の女性達に見せつけるようにポージングを取っている中年男性の姿――。
「お、お父様……ぁ」
その光景を見て一歩前に立っていたアリシアがへなへなと倒れ込んで来るが、俺自身も呆気に取られており、反応一つ出来なかった。
だが、そんな状況の中でも、たった一つだけ確信したことがある。
――この国終わったかも……。
頭の痛い話が、もう一個増えたという事だ。
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