第45話 岩塊破撃

 俺はギルドの前の平地で、グルガ・ビッカーとかいうオッサンと相対している。


「さあ、行くぜ! クソガキぃ!」

「とんだ正義の味方だな。全く……」


 奴が突っ掛かってきた理由は、呆れるほど分かりやすい。


 自分でいうのもアレだが、はっきり言って俺とルインさんでは冒険者として釣り合いが取れてない。


「はんっ! ボコボコにして警務隊に突き出してやるぜ!」


 しかも、新人の俺程度とパーティーを組んでるって事は、ルインさんが利権や名誉で動かないという事を示している。

 本当に俺が彼女に付き纏っているのだとすれば、好感度アップで万々歳。そうでなくても、俺以上に自分が優秀であることを直接見せつければ、パーティーを鞍替くらがえしてくれるかもっていう事なんだろう。


 要は、悪役おれから女性ルインさんを守る正義の味方を演出しようっていう寸法だ。


(モテモテなことで……。まあ、あんまり羨ましくはないけど)


 Sランクという称号よりも自分が誰と居るかという意志を優先する以上、誰にもワンチャンスある。きっと、皆がそう思っている。


「私は彼に何もされてません!」

「大丈夫です! 私達は貴女の味方ですからね!」


 ルインさんも必死に抗議してくれてはいるが、善意で動いている周囲の連中は聞く耳を持たない。寧ろ、それだけ卑劣な手段で俺に付け込まれているとでも思ったのか、さらにヒートアップ。美人もいい事ばっかりじゃないって事だな。


(冒険者同士の私闘を容認する時点で、どうかしてる気がするが……。地元の連れって奴なのかね……)


 身の潔白を晴らすには、俺自身の手で冒険者ランクAと名乗るこのオッサンをどうにかするしかないって事だ。


「まあ、自分で罪を認めて土下座して許しを請うってんなら、半殺しで勘弁してやるけどなァ!!」

「はぁ……」

「何だ、テメェは!? 俺様は、Gクラスのゴミに慈悲をくれてやってんのによォ!!」

「いや、“私の為に争わないで”ってのに自分が巻き込まれるとは思ってなかったもので……。まあ、どうにか切り抜けるしかないんですケド……」


 俺は待機状態の“処刑鎌デスサイズ”を肩に担ぎながら、目の前の岩のような男を見据える。


「切り抜ける? Gランクのゴミが? おい、みんないたか!? このゴミガキ、こんな訳の分からねぇ武器を使って俺様をどうにかするらしいぞ!?」


 そんな俺に向けられるのは、奇異や侮蔑の視線の嵐。


「そこのボクぅー! 皆に囲まれて頭おかしくなっちゃったのかなぁ!?」

「ちょっと、ボコられて現実を見るのがいいんじゃね!?」


 大剣――“アイアンソード”を手にしているグルガを筆頭に、周囲の連中が声を上げて俺を嘲笑う。だが、臆する事はない。逆境には慣れている。

 お生憎様、これまでの経験で煽り耐性は最強クラスだからな。


(やるなら、さっさと始めろ。そうじゃないと……そこの金髪お姉さんが殴りこんできそうだし……)


 騒いでいる連中の隙間から、俯いたルインさんの金色の髪が魔力で揺らめいているのが見えた。自惚うぬぼれでなければ俺の為、そうでなくても自分の意志をこれだけ無視されてるんだから、怒って当たり前だろう。


 だが、連中の言う事も一理ある。いつまでも見守って貰って、寄り掛かっているわけにはいかない。俺自身の手でかたを付けて見せる。


「じゃあ、死なねぇ程度に全殺し確定な!」


 上段から剣が振り下ろされた。太い腕から繰り出される一撃は、巨漢のゲリオが可愛く見える程の迫力だ。


 だが――。


「なに――ぃッ!?!? テメェぇぇッ!!!!」


 魔力を纏った剣は空を切り、足元の地面を砕くのみに留まった。余程自信があったのか、Gランク風情に躱されたのが堪えたのかは知らないが、怒り狂って追撃して来る。


「どんなに力があったって、直線的な動きでは――!」

「ちぃ!? このっ!!」


 大剣が普通のサイズに見えるほどの迫力ではあるが、大振りで手数が少ない分、回避自体はそれほど難しくない。


「そんな粗雑な攻撃――止まって見える」

「このゴミガキがぁっ!! くらいやがれぇぇぇっ!!!!」


 グルガが剣を振るい、“土”の属性魔法が放たれた。虚空に出現した岩の塊が俺に向けて押し寄せる。


「“グランドクエレ”――ッ!!」

「これで、Aランク……ね」


 確かに威圧感と威力は凄い。だが、俺はこの攻撃に対して、それほど脅威を感じていなかった。パワーを維持しながら、連撃を繰り出して来た狂化マンティコアの方がよっぽど脅威だったからだ。


 あの全身の血が逆流して、脳が焼けつくかのような感覚、心臓の鼓動が胸を裂きそうになる程の緊張感を目の前の男からは感じない。それこそ、雲泥の差だ。


「これがGランクには無縁の高等技術だ! チビったか、ゴミ野郎!!」

生憎あいにくと体験済みだ――!」


 俺は降り注ぐ大きな岩塊がんかいの間を、最小限の動きで躱しながら突き進む。


「――父さんの風の斬撃の方がはやく鋭かった。ルインさんの雷光は鮮烈で桁違いの威力だった」


 今の俺には使えない属性魔法。

 でも、これまで見た属性魔法と比べてしまうと、グルガの攻撃は大味で稚拙。速度、威力、練度――どれをとっても下位互換でしかない。

 確かに脅威ではあるが――。


「この程度なら、ぶち抜けるッ!!」

「な、何ィ――ッ!?!?」


 俺は飛んできた岩塊の横腹を蹴り飛ばして急加速するとグルガに肉薄――。“処刑鎌デスサイズ”の刀身を叩き起こし、奴が自分の目の前で生成した岩塊を漆黒を纏った刃で両断する。


「ちっ!? このゴミ野郎がッ!!」


 土煙と岩の破片で視界が塞がり、互いの姿が見えなくなる。だが、俺には奴が次にどんな行動をするのかという事が手に取るように理解できた。


「一度下がって体勢を立て直そうとする所を叩く! 対する迎撃は――」


 地面を蹴り飛ばして土煙を突き破りながら、更に肉薄する。


「コイツ! ウゼェんだよ!!」

「俺を退かせるための大きなモーションでの斬り払い! 躱してしまえば、隙だらけだッ!!」


 破れかぶれの反撃カウンター

 それは俺は想定通りのものであり、力任せの大振りを回避するのは容易。


 そのまま、大振りされた剣を躱しながら奴の左側を抜けて行き――。


「な……にっ――!?」

「決着はついた。さっさと武器を棄ててくれ」


 驚愕する奴の首元に刃の内側の添えた。

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