第30話 新たなる誓い
「それって……アークが使ってた……」
「ああ、そうだ。これが俺の武器。俺は天啓の剣から
俺は複雑な心境を言い表す様に小さく呟く。
「これが今の俺にとっての
自分がみんなと変わらず魔法を使えるのだという事を気づくのに九年もかかってしまった。九年前に気づけていれば、父さんやガルフたちとの関係も違うものだったのかもしれない。逆に九年かかったからこそ、この短期間でこれだけ強くなれたのかもしれない。
家族を求めれば異質な存在として埋没し、自分の強さを求めるなら他の全てを捨てなければならなかった。何とも皮肉な話だ。
「――アークは、凄いね」
「ん……?」
「だって、ちゃんと自分の足で歩きだしたわけでしょう? 家の支援を受けながら、この近くでお山の大将をやってる私達と違ってさ」
リリアの自分達に対する評価が思った以上に辛辣な言い回しだったことに軽く呆気に取られる。
「いや、俺だって半人前だ。でも、こんな俺にも手を差し伸べてくれる人達がいた。今はまだ、その人たちに助けられてるだけだ」
手にした“
俺を助けてくれたルインさんや、武器を譲ってくれたセルケさん。俺が冒険者として戦えているのは、この二人のおかげだ。まだまだ頼り切っているんだから、到底胸を張って誇れるような状態じゃない。
「だから、強くなるよ。その人たちに報いる唯一の方法だから――」
得物を格納した俺は、自分の決意を再確認するように呟く。俺の誓いとルインさん達への恩返しは奇しくも同じ領域にある。ならば、進むべき道は一つしかない。
「俺は自分の道を歩き始めた。だから、リリアも俺との事に囚われなくてもいい」
謝罪は受け取った。心の内はもう分かった。なら、これ以上をリリアに求める事はない。
「私にも出来るかな? 自分の足で歩く事……」
「大丈夫だよ。リリアだって自分の道を見つけられる。俺なんかよりもずっと凄い素質があるんだからさ」
不安そうなリリアに対し、俺はその背中を押す形て言葉を紡ぐ。
「それに、少し嬉しかった」
「なにが……?」
「こんな近くに俺を心配してくれた人がいたから……かな。だから、もういいさ」
その言葉を最後に、俺達は花畑を後にして帰路に就く。目的地はガルフたちが治療を受けている医療施設。
「……ここまでで大丈夫だよ」
「そうか……」
目的地の目算百メートル前、リリアの足が止まる。
「送ってくれて、ありがとう」
「大したことじゃない。じゃあ、これで……」
もう伝え合う事はない。リリアに背を向けて歩き出した俺だったが――。
「アーク!」
「リリア?」
名前を呼ばれて振り返る。そこには、月明かりに照らされたリリアが瞳を揺らしながら立っていた。
「こうして、また話せて嬉しかった」
「ああ、俺も……だ」
そんなリリアの姿を目の当たりにすると、胸が詰まる思いだった。俺もリリアも互いを嫌い合って離れたわけじゃない。世界が、情勢が共に在ることを許さなかった。
もしもを連想する事に意味はない。そんな事は分かっている。
「ねぇ……知ってた? 私さ、アークの事が
この期に及んで、もう一つの可能性を考えてしまうのは、俺の弱さなのだろうか――。
「俺も……。俺は……世界から隔絶されて育ってきた。だから、人を好きになるだとかっていう感情は正直よく分からない。今は自分の事で手一杯で、そんな事を考える余裕もない。でも――」
真正面から伝えられたリリアの想い。
俺もそれに応えなければならない。
「もし、俺にそういう人が出来るんだとすれば、リリア以外が隣にいる事が
俺にはまだ、足りないものだらけだ。だからリリアに向けていた想いが親愛から来るものなのか、異性に対する愛情なのかは分からない。誓いを叶えるために、色恋の事なんかを考えてる場合じゃない。
でも、どちらにせよ俺は、リリアの事が好きだったんだ。
これが、今の俺なりの精一杯の気持ちの伝え方だった。
「そっか……ありがとう」
それを聞いたリリアは、儚く微笑んでいた。その瞳から、光る雫を零しながら――。
「いや、俺の方こそ……今までありがとう」
そんなリリアの微笑に対し、氷の棘が心に刺さる。でも、俺も自然な笑みを浮かべ返した。
ちゃんと笑ったのは何年ぶりだろうか――。
リリアの笑みを見るのは何年ぶりだろうか――。
「サヨナラ、アーク――」
だけど、それはお互いにとって、
「サヨナラ、リリア――」
俺は月明かりに照らされるリリアの微笑を
神の
そして、九年の時を経て交わり、再び
これが俺達の選択の結果。
別に今だって嫌い合ってるわけじゃない。話をすれば、こうして隣り合うことが出来た。このまま振り返って引き留めれば、今度は何の
だけど、俺はその選択を斬り捨てた。
俺には何より優先すべき誓いがある。今は、それだけを目指して前に進むしかない。
誰も追いつけない速度で――。
誰にも否定させない地平へ――。
「強くなるんだ――」
涙が頬を伝う。
助けられた恩に、振り切った思いに報いる為に、絶対に誓いを果たす。涙を流すのはこれで最後。
今日、この日をもって、
自分の深層に、そう刻み込む。
背後に居るのは、初めての友達。多分、初めて好きなったヒト。
だが、もう振り返る事はない。
俺とリリアは、互いに別の
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