第28話 断絶された日々
星明りに照らされる中、見覚えがある景観の道を静かに歩く。
(昔は、ここを走り回ってたんだよな)
成人の儀の時は周りを見る余裕なんてなかったが、今なら少しは
多少変わってはいるが、少なからず小さな頃の思い出が詰まった景色なだけあって、目の当たりにすると感慨深いものがある。
「ここは……?」
そんな事を思っていると、大きく開けた場所でリリアの足が止まる。目の前に広がるのは、見覚えのある満面の花畑。
一面に広がるのは、穢れ無き純白の花――。
月明かりに照らされる花々は美しくもあり、どこか儚くもある。そんな幻想的な景色。
「覚えてる? 昔、ここで沢山遊んだよね?」
「あ、ああ……お互い時間を決めて、家を抜け出してたんだっけな」
そこは、俺とリリアだけの秘密の遊び場だった。
「アークと話すんなら、ここが一番いいと思ったから……。ダメだった?」
「いや、構わない」
俺達が相対するんなら、ここより相応しい場所はないだろう。
「そっか――」
夜風に揺らされる中、光り輝く花々を感傷に浸りながら見つめていた時――。
「アーク……その……ごめんなさい!!」
「り、リリア?」
目の前のリリアが突如として頭を下げて来る。深々と腰を折った綺麗な礼だった。
「とにかく頭を上げてくれ。こんな状態じゃ話も出来ないし……」
「で、でも……私は……っ!」
震える声を漏らすリリアに対し、呆気に取られてしまう。謝られる心当たりがないわけじゃないが、突然すぎて驚きの方が勝ってしまっているからだ。
「それで、いきなりどうしたんだよ」
何はともあれ、今のままじゃ会話にならないのでリリアに頭を上げさせて事の真相を尋ねる。
「私は
リリアの
「――でも、それはリリアが自分を守るために必要だった事なんじゃないのか? 実の父すら見放した
誰もが使えるはずの魔法を使えないという事は人間としての致命的な欠損であり、それは死ぬまで付き纏うほど重たいモノだ。実際、
「人は自分と違う存在を嫌悪し、排除しようとする。
そんな扱いを受けていた俺の側に付いたりすれば、家でも学園でもリリアの立場は無くなっていたことだろう。
「俺の置かれていた状況は、リリア一人でどうにかなる話じゃない」
家族である父さんやガルフだけじゃなく、
「特に、グラディウス家の長男である上に無能の俺は格好の獲物だった」
しかも、
何故なら、羨望の逆は妬みだ。
グラディウスの威光に手が出せない一般人たちにとっては、その跡継ぎが欠陥品の
そんな状況なら、集団心理で右へ
「それに成人の儀で再会した時は、どうやって声をかけたらいいか分からなくて……初めてダンジョンに入った時にも……」
今までだったら思い出すのも気分が悪かった忌むべき記憶を辿る俺の前で、リリアの懺悔が続いている。
「最初はFランクに行くって聞いてたのに、いきなりBランクでびっくりしたし、入った途端のガルフたちの変わり様について行けずにアークが置き去りに――!」
そして明らかになったのは、あの日の真実。
「何も知らなかったのか?」
俺の言葉にリリアは涙を流しながら頷いた。
「きっとアークにちょっかいを出すだろうとは思ってたけど、まさかあんな事するなんて――!?」
「そうか――」
パーティーメンバーの人選。
九年ぶりの街々。
そして、ガルフたちによる手を汚さぬ殺人行為。
俺は目まぐるしく移り変わる状況を受けて周りを気にする余裕が無かったが、今にして思えばリリアだけは戸惑っているように見えた。
当のダンジョンでは、俺と話しているとき以外は常にガルフたちがリリアの脇を固めていた。大方、戸惑っているうちに発動寸前の転移結晶を渡されて、そのまま撤退してしまったって所だろう。
「知っても知らなくても、何も出来なかったら同じだよ」
自責の念を滲ませるリリアを前にして、意外にも俺は冷静さを保っていた。
でも、今は違う。
勿論、そういう気持ちが皆無と言えば嘘になるが、俺が
「アークとの事だって、私は何も言わずに!」
「お互い、言えない状況だっただろ? それに相手を俺からガルフにスライドしたのは、グラディウス家の問題だ。リリアが拒否したって、結果は同じだったさ。グラディウスとフォリア――今まで緊張状態にあった両家が繋がることに意味があるんだからな」
俺とリリアの関係――嘗て断ち切られたソレが、大人同士のエゴで成り立っていた事を知っているのも、それを後押ししていたのかもしれない。
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