第25話 反撃開始

「■■――■■――!?!?」


 マンティコアが雄叫びを上げる。

 しかし、それは勝利を告げるものじゃない。


「――っ!」


 俺が奴の殺戮領域キルゾーンから脱したことに対しての憤怒の咆哮なんだろう。


「俺は、一体……?」


 だが俺も、刀身から四散していく魔力を見ながら茫然としているだけで自分が何をしたのか理解出来ていない。いや、現象は理解しているが、何故そうなったかを理解出来ていないと言った方が正しい。


 しかし、それは俺にとっての光明。突破口となり得るかもしれない最後の希望だった。


「今のが出来るのなら――!」


 俺は怒り狂ってこちらに向かって来るマンティコアに対し、自ら駆け出していく。カウンター狙いは変わらない。


 でも――。


「こっちから斬り込める!」


 それは今までとは異なり、攻める為の疾走だ。


「■■――!!!!」


 マンティコアの眼前で右に方向転換。振るわれた右拳を躱し、刀身に魔力を纏わせ巨大化させる。

 だが、刀身は維持したまま斬撃は打ち込まない。


「このまま反撃しても、さっきの二の舞だ」


 攻撃力・機動力・防御力・体力――眼前のマンティコアは、その全てが俺よりも勝っている。だから、しぶとく生き延びてカウンターを狙うしかない。それ自体は間違いじゃないし、勝ち筋はそこにしかない。


「奴の隙を見極めろ」


 だからこそ、俺は相手の急所に“黒天新月斬”を叩き込もうとしていたが、カウンターにこだわるあまり、動きが単調になっていた。


 俺がマンティコアの攻撃を避けて反撃に徹していたように、奴は急所にしか攻撃が向かって来ない事を頭に入れた上で動いていたんだろう。

 狙いが割れている上にスペックで上回られているんだから、力任せに押し切られるのは当然の事だった。


「神経を研ぎ澄ませ」


 ならば、俺もその狙いが割れていることを頭に入れた上で奴と相対すればいい。


 その上で限界を超えた一撃を叩き込む。


「空中で奴の攻撃を躱した時の感覚を呼び起こせ。俺自身の身体を押し出す程の魔力放出を――」


 さっき俺が助かったのは、破れかぶれに“虚無裂ク断罪ノ刃”の刀身から全力で魔力を放出し、その勢いで身体自体が吹き飛んで拳を躱すことが出来たからだ。


「無意識で行った刃からの魔力放出を自分の意志で制御し、攻撃に転用することが出来れば――」


 漆黒の大刃を維持したままの刀身に更に魔力を込める。大技の斬撃魔法を放つのだとしても、明らかな過剰供給だ。

 刀身だけじゃなく、“処刑鎌デスサイズ”の先端部位全体を漏れ出した余剰魔力が覆っている事がそれを物語っている。


 だが、それでいい。


「全ての力を、この一撃に――」


 普通の斬撃が通用しないのなら、無茶でも無理でもやり通すしかない。またルインさんに怒られるかもしれないが、流石に今回は見逃して欲しいもんだ。


「■■――■■■――!!!!!!」


 背後に飛んで左の剛拳を避ける。

 戦況の主導権を失った事に苛立っているんだろう。威力は凄まじいが、さっきまでと違って随分と大振りな一撃であり、回避するのは容易だった。


 そして、隙が出来る大振りは俺が待ち望んでいた瞬間だ。先端部位に纏っている余剰魔力のみを刃の逆側に収束し、一気に放出する。


「ここだ――ッ!!」


 加速した“処刑鎌デスサイズ”を一閃。突き出された左腕を奴が反応するよりも早く切断する。


「■■――■――!?!?」


 左の肘から先を喪ったマンティコアは、怒り狂ったように咆哮した。獲物からの手痛い反撃に屈辱を覚えているのか、面食らっているのか――。


 何にせよ、攻撃が通ったのは事実。後は刃を振るうだけだ。


「やれば出来るもんだな」


 そのまま身体の左を抜けていくよう駆けながらに斬撃を奔らせ、マンティコアの左膝を両断する。


 連続攻撃に目を剥くマンティコアだったが、斬り落とした手足はすぐに再生を始めていく。でも、そんな事は始めから計算の内――。


「やはり前のオーガと同じ。なら、死ぬまで斬り続ける!!」


 奴に反撃体勢を取らせない怒涛の勢いで斬撃を奔らせ、その身体を次々と斬り裂いていく。

 漸く、反撃開始といこうか。

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