第24話 崩壊への拳撃
姿を変容させたマンティコアは、後ろ足で地を蹴って跳躍。巨体を宙に舞わせながら、剛腕を振るった。
「火力が凄まじいのは分かっちゃいたが……どういう腕力をしてるんだ!?」
どうにか攻撃を躱した俺は、深々と地面に突き刺さった太い腕に思わず毒づく。
「しかも、速い!」
固い地面はいとも簡単に砕け散って破片となり、その腕力と巨体に見合わない俊敏な動き。更に付与される魔力によって焼け付くような熱が俺を襲う。
「■――■■■――!!」
「ぐっ!? やっぱり正攻法じゃ勝機はないか……!」
怒涛の攻めを前に、どうにか攻撃を避けるだけで精一杯だった。それに対してマンティコアは、まるで愉しむかのように俺を追い立てて来る。
完全に獲物と捕食者。
これは戦いですらなく、奴にとっては退屈凌ぎの狩りでしかないってことを改めて思い知らされる。
だが、実力差なんて百も承知。
それでも俺はこいつを倒さなきゃらならない。
「一撃でもくらえば即アウト。正面から打ち合うのは論外だ。どうにか突破口を探さなくちゃな!」
振り下ろされる右拳を回避し、顔面に向けて“黒天新月斬”を叩き込む。
攻撃の威力も
「ちっ!? 一応、こっちの最高火力なんだが――!」
顔を狙った斬撃を魔力を纏った掌底に押し返された俺は、険しい表情を浮かべながら吹き飛ばされる。
ガルフを守った時に同じように吹き飛ばされたから分かっていたとはいえ、こうもあっさりカウンターに対処されるんだから文句の一つも吐きたくなるだろう。
しかし迫って来る剛拳を受けて、そんな思考はすぐさま放棄する。
「■■――■■■――!!!!」
唸るように振るわれる魔力を纏った拳撃。
迎撃はしない。付かず離れずの距離を保ちながらひたすら攻撃を回避し、要所でカウンターを繰り出していく。
「このままじゃジリ貧だ」
追うマンティコアと一撃離脱を繰り返す俺。互いに攻撃が当たる事はなく、膠着状態が続いている。だが、目の前のマンティコアがオーガの超完全上位互換なのだとすれば、俺の方が圧倒的に不利だ。
俺には再生機能なんてないし、この勢いで競り合っていれば魔力も体力も先に尽きてしまうからだ。そうなったら、外傷がなくても実質戦闘不能と同じ。
「奴の身体に今までの限界を超えた攻撃を叩き込む。突破口はそれしかない――!」
あのマンティコアの攻撃部位に斬撃が通らないことが分かった以上、首元や関節といった急所に決死の一撃を打ち込む事が唯一の生き残る道。
動きを止めるな。
常に思考し続けろ。
「正面から斬り合えなくてもいい」
余計な思考を全て削ぎ落し、奴の連撃を最小限の動きで躱せる手段を導き出せ。
どうすれば奴を討てるのかだけを考えろ。
「その時が来るまで、持ち堪える!」
全ては俺の全力を奴に叩き込むために――。
だが、俺の目が攻撃に慣れ始めた頃、奴は一手早く仕掛けて来る。
「■■■――!!」
上段からの拳を左にステップを踏んで最小限の動きで回避した。
しかし、先ほどまでよりも威力の高い拳撃は、半径数メートルの地面を破片に変える。それは俺の予測よりも攻撃影響範囲が広がっていることを指し示しており、今足場としている地面も崩れていく。
一撃でも貰ったら終わりだと、咄嗟の判断で崩れ行く地面を蹴って跳んだ俺だったが――。
「な――ッ!?」
野生の狩猟本能なのか、計算ずくなのかはわからない。だが、驚愕する俺の眼前では、既にマンティコアが追撃の姿勢を取っていた。
鋭い牙が覗く大口、硬い岩盤を容易に破片に変える筋骨隆々な剛腕。
そのどちらもが俺を狙える距離にある。
当の俺自身は滞空中の為、回避は不可能――。
「■■――■■■■――!!!!」
満を持して振り抜かれる剛腕。
狂気が迫り来る中、初ダンジョン侵入の時の様に脳裏に走馬灯が過る。
(死ぬのか俺は――。まだ何も成しえていないのに――)
冷たくなっていく母さんの前で誓いを立てた。
(まだ何も返せていないのに――)
全てを失った俺に命と
(まだ死ねない。まだ俺は死ぬことを許されていない)
生きて成さなければならないことがある。
返さなければいけない恩がある。
だが、そんな想いとは裏腹に、禍々しい魔力を纏った剛腕が迫り来る。
(俺は――!)
絶体絶命。
そんな状況の中、吹き上がる漆黒の魔力と共に俺の身体は真横に
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