第18話 戦場へ
「こんな人里にモンスターだと!?」
「あ、ああ! マルドリア通りの前まで押し寄せて来てやがる!」
焦った様子でギルドに駆け込んで来た男の存在を受けて、周囲の空気が張り詰める。
「マルドリア通りって?」
「ちょっと行った先にある街の大通り……色んな店舗が立ち並ぶ人口密集区域です」
「そう……」
俺は、ルインさんの質問に緊張を滲ませながら固い声で答えた。人の営みが激しい大通りにモンスターが現れたなんて聞いたことがないし、そこで戦闘になんてなったらどれだけの被害が出るか――。
「女子供は逃がして男衆で戦ってるが、とても押し留めれそうにねぇ! アンタらの力を貸してくれッ!!」
街の人間だって皆魔法が使えるわけだし、引退した元冒険だっている。そんな彼らが攻めあぐねてるって事は、聞いた感じからして最悪の状況みたいだ。
「それって、どんなモンスターが……」
「よろしい! 僕たちガルフパーティーが退治に向かおう!!」
ルインさんも戦闘モードに入ったのか、緊迫感を感じさせる声で駆け込んできた男に詳細を訪ねようとしたが、それを遮るようにガルフが名乗りを上げる。
「ただ働きだが、しゃあねぇな!」
「俺達も力を貸すぜぇ!」
それに追随するようにゲリオや周囲の冒険者たちも声を上げ、ギルド全体にモンスター迎撃の為の機運が高まっていく。
「あ、ありがてぇ!」
「強きを挫き、弱きを助ける正義の冒険者……それが僕達なのだから当然だ!」
泣きながら歓喜の声を上げる男と人助けをしようとするガルフ。傲慢不遜がデフォルトな弟の意外な姿に驚きを隠しきれない。
「僕達の戦いっぷりを見て頂ければ、貴方もこのパーティーの虜になるはずです。期待しておいてくださいね」
端正な顔ごとルインさんに身体を寄せている辺り、色んな意味で下心満載な事が分かって一瞬で冷めたわけだが。
「皆の者、モンスター討伐に向かうぞ!」
だが、ガルフたちは隣で怖いほど無表情なルインさんと、その様子に冷や汗を流す俺に気づいた様子もなく、総勢十四名の冒険者グループで
完全に置いて行かれた俺達――。
「どうしてダンジョンからモンスターが出て来たんでしょう?」
「原因はちょっと分からないかな。でも、こういう事例もないわけじゃないんだ」
俺はルインさんに行動の方針を聞くことも兼ねて、今回の一件について疑問を投げかける。
「ダンジョンって言ったって、モンスターが住み着く場所を人間が勝手に定義してるだけ……。そこの地形や環境、モンスター同士の縄張り争いの具合なんかで分布も大体固定できるから、それぞれで難易度分けされてるんだ。逆に言えば、何かの要因でその均衡が崩れると、モンスターがダンジョンを追われたりする事だってある」
その回答は、学園じゃ習えない冒険者としての知識。
「ここまで内地にモンスターが紛れ込んだだけじゃなくて、街中で暴れ回るなんてすっごく珍しいんだけどね。とにかく、あの人達が向かった大通りに向かおう。黙って見過ごすわけにはいかないからね」
今までにないモンスターの行動とのことで思わず思考に
でも、どうやら人命救助に力を貸してくれるようで少し安心した。グラディウス本邸から離れているとはいえ、かつては俺の行動範囲だった街だ。このまま傍観を決め込むのは、流石に寝覚めが悪い。
そして、俺達はギルドから飛び出していく。
「でも相手の戦力次第では、すぐに撤退するから、そこだけは肝に銘じておいて。あくまで出来る限りの範囲での救助だから、間違っても深追いしないようにね」
「それって……」
隣を並走するルインさんが真剣な眼差しと共に言い放った言葉に、俺は呆気に取られる。言い方を変えれば、ある程度で見切りをつけて住民を見捨てるとも取れる口ぶりだったからだ。
それに比例するようにルインさんの表情も険しい。
「先行した人たちが撃退できれば一番良いけど、そんな程度のモンスターが紛れ込んで来ただけなら住民の人で対処出来ると思うんだ。でも、これだけ大事になってるって事は、何か
起こりうる最悪な状況を想定したんだろう。ルインさんの目が細められる。
「どちらにせよ、状況が悪ければ退くよ。絶対に無茶だけはしないって約束して……」
そして、ルインさんの真剣な紅瞳に射抜かれ、熱くなっていた思考が冷や水をかけられたように落ち着きを取り戻す。
俺はただの新米冒険者だし、いくら強いって言ったってルインさんも神様じゃない。ましてや俺達は正義の味方なんかじゃないんだから――。
「……はい!」
今は出来る事を全力で――。
そう返事を返した俺達は、マルドリア通りへと駆けた。
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