第17話 半年ぶりの再会

「騒がしいぞ、ゲリオ。おや……見慣れた顔だが、これは誰だ?」


 目を見開いて端正な顔を歪めているのは、半年ぶりに顔を合わせる双子の弟。最後に見た時よりも随分と装備が豪華になっているようだった。


「そっくりさんかと思ったら、無職ノージョブのアークだぜ! しかもマジモンみてぇだ!」


 生き残った俺を嘲笑う様に声を荒げるゲリオを尻目に、他の二人も近づいて来る。


「マジかよ! どうやって帰って来たんだ?」


 近づいてきても小さなガスパー・ショーテ。


「……」


 遠くで複雑そうな顔をしている元許嫁――リリア・フォリア。


 見事な総集結。

 あの日の光景が蘇ってくるようだ。


「これはこれは、パーティーの戦線離脱について来れずに・・・・・・・ダンジョンに置き去りになってしまった我が不肖の兄――アーク君じゃないか」


 信じられないものを見るかの様なガルフだったが、次の瞬間には口元を吊り上げながら何の臆面もなく例の一件について口に出した。


「そうそう、皆で脱出アイテムを使おうとしたら一人だけタイミングを逃してなァ!」

「あれは傑作だったよなぁ!!」


 普通に考えればパーティーメンバーをダンジョンに意図的に置き去りにするなんて許される事じゃないが、男衆はどこか得意げに手を叩いて笑っている。


 ガルフパーティー以外のギルドに居る連中も遠巻きにニヤニヤとしている辺り、意図的に俺を置き去りにした事を知っているんだろう。まあ、ルインさんが助けに来てくれたことを考えれば、そんなに驚くことじゃない。


「愚図で無能のお前が、あの状況からどうやって生き残ったんだい?」


 皆に状況が筒抜けにも拘らず、ガルフは敢えて内容をぼかしながら煽る様に俺に事情の説明を求めて来た。

 俺を置き去りにしたBクラスダンジョンは、一流冒険者になる為の最後の壁。踏破するのは、名の知られた冒険者でも容易じゃない。そんなダンジョンを俺が一人で生き残れるわけないのは、子供でも分かる事だ。これに関しては純粋な疑問なんだろう。


「まあ、色々と幸運が重なったおかげで助かったよ。成人の儀も終わって、晴れて冒険者デビューってわけだ」


 とはいえ、懇切丁寧に説明してやる義理もないし、俺一人ならともかくルインさんが近くにいる以上、さっさと話を切り上げたい所だったが――。


「成人の儀を達成……無能のお前がか……?」


 心底意外そうな表情を浮かべたガルフは矢継ぎ早に疑問を投げかけて来る。でも、俺の背後に視線を移すと、全てを察したようにニタァっと口元を吊り上げた。


「なるほど……そちらの麗人に寄生して、後ろを歩いてただけって事か! 大方、グラディウスの名と母さんに似た、無駄に整っている顔立ちを使って近づいたという所だろうな! 全く、我が兄ながら最低な男だ! あァ、口に出すのも嫌になる!」


 そして、勝手に予測した俺の内情をギルド中に聞こえるように大声で叫んだ。

 ただ、言っていることが半分くらいは当たっている為に、即座に反論の言葉を紡ぐことが出来ない。


 俺がどうしたものかと口ごもると、ガルフはここぞとばかりに責め立てて来る。

 こっちにも弁解の余地があるし、向こうから手が出てこないだけ昔よりマシだが、完全にいつものパターンだ。


「そちらの方も、不肖の兄が申し訳ありませんでした。グラディウスの名をかたって貴方に近づいたかと思いますが、そこの無能は我が家の敷居を跨ぐことを禁じられた身です。もう、ソレと行動を共にする必要はありませんよ」


 そして、先ほどから視線をロックオンしているルインさんに、どこから出してるのかっていうくらいの甘い猫撫で声を向けた。

 俺が勘当された事実がしれっと明らかになるが、標的が変わった以上、今はそれどころじゃない。


「それはそうと、そちらの美しいご婦人の堂々たる出で立ち……相当の使い手とお見受け致します。我がパーティーには、残念ながら欠員・・が出ていまして……是非、加わっていただきたいと思うのですがどうですか?」


 流石に反論しようとしたものの、相変わらずの弁達者ぶりでルインさんの勧誘を始める始末。しかも言うに事欠いて、その見殺しにしたパーティーメンバーの目の前で勧誘を行う辺り、面の皮が厚いというかなんというか……。

 ここまで来ると、いっそ清々しいとさえ思える。


「我々の装備を見て頂ければお分かりかと思いますが、グラディウス・フォリア家からの支援によって最高級品を取り揃えますので貴方に不自由はさせませんし、僕とそこの彼女は稀少職業レアジョブ持ち――結成半年でDランクを踏破した実績もあります。いずれは、Sランク冒険者になる事も確実でしょう」


 自分達の経歴を得意げに語るガルフ。


 二つの名家バックアップがしている冒険者なんてそうはいない。ガルフたちがここに留まっているのはそういう事なんだろうし、旅に出ないと生計が立てられない冒険者からすれば、一ヶ所に留まっていられるのは、ある意味天国だろう。


「……」


 だが、グラディウス家の支援を打ち切られた元無職ノージョブの俺と居る事よりも魅力的な条件を提示されたにも拘らず、ルインさんの紅瞳は今まで見た事がないくらい冷たく研ぎ澄まされていた。


「貴方の麗しさは、僕にこそ相応しい。是非、僕の為にその力を振るっていただきた――」

「モンスターだ!! 街にモンスターが……っ! 攻めて、来たんだ! 住民が襲われてる!!!!」


 そんなルインさんの様子に気づかずに弁を振るうガルフだったが、その言葉を遮る様に血を吐くような悲鳴がギルド中に響いた。

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