第16話 故郷への帰還

 ジェノア王国――。


「戻ってきたのか……」


 少しだけ様相が変わった気がする光景を前に、不思議な感情を抱いていた。


 俺が生まれた国。

 俺が飼われていた国。

 俺が殺されかけた国。


 これで感慨にふけるなってのも無理な話だろう。


「まだ、辛いよね?」

「そう……ですね。否定はしません。でも――」


 ルインさんの気遣いに申し訳なさを感じるが、こればかりは俺がどうにかしなければならない問題だ。


「この国と、あの人たちに向き合わなきゃ、俺は前に進んだことにはなりません。それに、成人の儀の達成報告は出身地でないと出来ませんしね」


 それは心からの本心と、精一杯の強がりなのかもしれない。でも、この国の人間――グラディウス家の人間と向き合うことは、冒険者として名前を轟かせる以前に俺自身にとって譲れない事なんだ。


 そうこうしているとグラディウス家近郊の冒険者ギルド、俺がガルフたちと共に街を巣立った場所に辿り着く。


「……っ」


 心臓の鼓動が乱れる。

 多分、トラウマってやつなんだろう。情けない話だが、そんな事は関係ない。


 前に進む。そう誓ったから――。


 そして、俺は因縁深い冒険者ギルドに足を踏み入れた。


「じゃあ、受付に行こっか」

「はい」


 ルインさんに促され、数ヵ月前と同じ受付員に冒険者ライセンスを差し出す。


「えっと、Fランク一回、Eランク三回、Dランク五回、Cランク一回……!?」


 受付のお姉さんは、俺のライセンスを凝視しながら固まった。Gランク十回に比べれば色々回っていると思うけど、そんなに驚く事なのかと思わず首を傾げてしまう。


(パーティーにルインさんが居たとはいえ、戦闘は全部ソロでだったっていうのは伝えてないんだけどな……)


 まあ、二人パーティーで回ったと考えても、凄い事なのかもしれない。


「何ィ!? 成人の儀でCランクだぁ!?」


 固まってしまったお姉さんの意識が戻ってくるまで待っていると、俺達の背後で掠れた大声が響いた。長年の経験から察するに、これは面倒事だろう。それはもう見事に強烈な臭いが漂って来る。

 正直、振り向きたくはないが、ルインさんに対応させるわけにもいかない。原因を作ってしまったお姉さんの甲高い声に恨みを抱きながら、背後を振り向けば――。


「あん……おめぇ、アークか!?」

「ゲリオ……」


 どこか聞き覚えのある声だと思えば、背後に居たのはガルフの腰巾着――もとい、パーティーメンバーの一人、巨漢が特徴的なゲリオ・ゲア。俺を追放して殺そうとした一人だ。互いに成長期だからか、あのころに比べると幾許かシルエットが肥大化している気がする。


「おい、お前らァ! こっち来いよ!!」


 その向こうには、見覚えのありすぎる人影――。


(まさか、真っ先に出会うのがこいつらだとは……)


 グラディウス家の本邸には報告の為に顔を出すつもりでいたとはいえ、まさか冒険者として旅をしているはずのガルフパーティー御一行と出くわすなんて、正直計算外だった。


 稀少職業レアジョブ二人持ちという所だけ見れば一流パーティーに引けを取らないにも拘らず、何でこんな所に留まっているのかは首を傾げたいところだが、こいつらを前にすると否が応にも神経が張り詰めていく。


 そして、逃れられない宿命なのか……と、何とも奇妙な巡り合わせを感じていた。

 尤も、俺はもう逃げるつもりはないわけだが――。

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