第15話 死神の胎動

「“黒天新月斬”――!」


 俺は漆黒の魔力を纏った“処刑鎌デスサイズ”を振り抜き、包帯を纏ったミイラ型のモンスター――キラーマミーの胴を両断した。


「流石にCランクモンスター……動きが速い!」


 真っ二つに裂いたキラーマミーを吹っ飛ばしたが、即座に毒々しい色をした蝶々――三体のポイズンバタフライと、刃物の付いた宝箱――ギロチンミミックに囲まれてしまう。


 数に物を言わせた波状攻撃に晒されるが――。


「後ろ、上……!」


 背後から箱を閉めるように近づいて来たギロチンミミックのみつきを身を翻して躱すと、上下のパーツを繋ぐ接合部を蹴り飛ばす。

 体勢というか、箱の角度を崩したギロチンミミックは、そのままの勢いで飛んで行き、空中で攻撃態勢に入っていたポイズンバタフライの一体と激突した。


「隙だらけだ――!」


 中央でミミックと激突した蝶がリーダー格だったのか、他の二体も体勢を崩している。


 ここが攻め時。

 ダンジョンの床を蹴り、処刑鎌デスサイズの刀身を巨大化させ――。


「“黒天円月斬”――!!」


 空中で大車輪。

 組み合っていた四体を大鎌に巻き込む様に纏めて斬り伏せる。


「ふぅ……」


 これで周囲のモンスターを掃討したと、俺は一息をつく。


「お疲れー! じゃあ、今日はここまでだね」

「了解です」


 ボス部屋直前までルインさんの助けなしで突っ走ってきたが、どうやら今日の探索は終わりのようだ。


「ぎこちなさも抜けて来たし、かなり動きは良くなってきたよ。もうすぐソロでもCランクは回れそうだね」


 前の俺なら、ボスに挑戦したいとごねたかもしれないが、今はそんな気は湧いてこない。

 焦りがなくなったというか、視野が広がったというか……前より少しだけ余裕が持てている気がする。


「ルインさんにそう言ってもらえるのは嬉しいですけど、イマイチ実感がないんですよね。目の前の事で手一杯っていうか……」

「Cランクをソロで回るってなったら、ベテランの冒険者でも命懸けなんだよ。それを冒険者になり立てでやれそうなんだから、十分凄いんだよ」


 ルインさんはそう言ってくれるけど、比較対象がこの人な所為で、イマイチ強くなってる感じがしないのと、その日の目標を達成するとダンジョン半ばでも撤退してしまうから、成人の儀の条件が全く達成されないのが少しだけ不満なのは内緒だ。


 でも――。


「私が居れば大抵の依頼は受けられるから冒険者ランクなんて関係ないし、そんなのは後から取ればいい。今は基礎を固める事が第一だよ」


――という方針の為、成長が数値で出ないのは仕方のない事。


 今の俺は所詮、新米冒険者でしかない。必要なのは、絶対的な必殺技でも、名誉ある称号でもなく、冒険者としての地力。


 それが漸く分かった――目の前のこの人が気づかせてくれた。


 ガルフやグラディウス家に思う所はあるけど、そっちに気を取られて自滅したら元も子もない。

 今はただ、目の前の事を乗り越えて歩き続ける。それがきっと、目標への最短距離。


 家族も、友達も、帰るべき場所も――何もかも失った俺には、それしか残されていない。


 それに、光輝く金色の髪を揺らして歩いているこの人が、俺の隣に何時まで居てくれるのかも分からない。願わくば、彼女が隣に居てくれる間に受けた恩に報いたい。俺が自分の想いを貫く様を見て欲しい。


 様々な想いを胸に、俺は本当の意味で冒険者としての日々を過ごし始めた。



 そして、半年後――。

 じっくりと冒険者としての地力を鍛えながら、成人の儀の規定回数分のダンジョンを攻略し終えた俺達は達成報告の為に、再びジェノア王国へと帰還する事になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る