第13話 連携行動

 初ダンジョン攻略から二日後――。


 昨日は疲れているだろうというルインさんの気遣いで休みを頂き、羽を伸ばしていた。


 何も不安の無い休日なんて何年ぶりだろうなと思っていたら、俺が休んでいる間にルインさんが依頼品の換金を終えて報酬を持ち帰ってくれたおかげで、脱一文無しに成功。

 しかも、下から三番目のEランクとはいえ、幾つもの依頼を重複して受けていたので一回の探索にしてはかなりまとまった額が懐に入ってきた。


 冒険者なら普通の生活なのかもしれないが、これまで居ない者として扱われて飼殺されて来た俺とからすれば、自分の成果が目に見える形で出るのは天国に等しい。


 色んな状況が変わってきたことを肌で感じながら充実した休日を終え、俺は今――。


「アーク君、一旦下がって!」

「はいッ!」


 Eランクの二つ上、Cランクダンジョンにルインさんと二人パーティーで挑んでいる。


「よし……はあああァァッ!!」


 “処刑鎌デスサイズ”を振り抜いた勢いをそのままに飛び退けば、ルインさんの“青龍偃月刀”――“逆巻ク終焉ノ大刀”が豪快に振るわれ、モンスターたちは為す術なく斬り飛ばされていく。


「偃月刀を見るのはダイダロスの武器屋以来だけど、相変わらず凄いな。あの細身のどこに重量級の武器をぶん回す力があるのやら……」


 Bランクダンジョンですらあれだけ無双していたのだから今の状況に驚いたりはしないが、やはり一撃、一撃が規格外。凄まじい勢いだ。

 その激烈な太刀筋を感嘆の眼差しで見つめていると――。


「アーク君! 前!」


 凛とした声が、俺に指示を下す。


「了解!」


 ダンジョンの床を蹴ってルインさんと入れ替わる様に前衛に飛び出し、戦闘形態の“虚無裂ク断罪ノ刃”を振り上げる。

 俺の眼前には、ルインさんの刀撃に吹き飛ばされて一点に密集しているモンスターたち――。


「“黒天新月斬”――!!」


 漆黒の魔力を纏って刀身を巨大化した“処刑鎌デスサイズ”を一閃。

 密集状態で身動きが取れないモンスターたちを一掃した。


「うん! 上出来だね。じゃあ、今日はここまでにして、ギルドに戻ろうか」


 “処刑鎌デスサイズ”を肩に担ぐ俺に、素材を回収して満足そうなルインさんが近づいて来る。


「まだ中腹位ですけど、今日は奥まで行かないんですか?」

「そうだよ。今日は連携の練習だけだからここまでなの。まさか奥まで行くつもりだったの?」


 Cランクのモンスターがどの程度の強さなのかと興味があった俺は、ルインさんにジト目を向けられ、思わず身構えた。


「大体、アーク君は自分がGランク冒険者だって自覚ある? ホントなら今頃のアーク君は、最低級のゴブリンとかボーン戦士とかと必死に戦ってるはずなんだよ」


 白く長い指を鼻先に突き付けられ、予見した通りに行動を咎められてしまう。

 腰を落として顔を覗き込まれる体勢的に、自然と向けられる上目遣い。ドギマギする俺を尻目に、ルインさんの有難ありがたいお説教が始まってしまった。


「ダンジョンや周辺のモンスターの難易度分けは、四~五人パーティーで攻略するための指標なんだよ。つまりEランクの冒険者だからって、Fランクダンジョンをソロ・・で攻略するのは楽勝とかってわけじゃない。さっきも言ったけど、アーク君はパーティーを組んだ上・・・・・・・・・・で、Gランクダンジョンを回ってなきゃいけない段階なの」


 Bランクダンジョンに置き去りにされたり、二日前の大立ち回りのせいで頭から吹っ飛んでいたが、言われてみれば確かにその通りだ。


「この間のEランクダンジョンも、今日のCランクも、私とパーティーを組んでるから大手を振って・・・・・・入れるんだよ。依頼だって私名義だし……」


 つまり、今の俺はルインさんの付き添い――もとい、そのおこぼれに預かりながら経験を積ませて貰ってるだけだ。

 あまりの正論にぐうの音も出ない。


 初攻略で思った以上に成果を上げられたからか、俺自身もどこか舞い上がっていたのだろう。結果、猛省せざるを得ない態度を取ってしまったようだ。


「でも、焦らなくたって大丈夫。アーク君は、もっと強くなれる。私が保証して上げるから――」

「ルインさん……」


 そんな時に発せられたルインさんの言葉に、俺は思わず息を飲んだ。母さんの言葉を否定するために、ガルフたちに負けないように強くなろうと決意した俺にとって彼女の一言は、その根幹に突き刺さる言葉だったからだ。

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