第12話 宿屋のお説教

 見事に初ダンジョン攻略を成し遂げた俺だったが、オーガも裸足はだしで逃げ出すこと間違いなしであろう緊急事態に陥っていた。


「――で、どうして私の言うことを聞かなかったのかなぁ?」

「それは、譲れないものがあったというか。俺なりにちょっと頑張ってみようと思ったというか……」


 そう、俺は今――。


「前向きになったのはいいけど、頑張る方向が違うんじゃないかな?」


 宿屋の自室で、ルインさんからありがたいお言葉を頂いている真っ最中だ。


「それはそれとして、この体勢はちょっと……」


 しかも、正座というらしい足を折り曲げた姿勢で座らされている。この姿勢、見た目以上に足への負担が凄まじく、戦闘の疲労も相まって地獄のような苦しみを俺に与えており、正直今すぐに止めたいというのが本音だった。


「それはそれとしないし、あと一時間はそのままだからね」

「うげ、ぇっ……」


 軽装に着替えて寝台ベットに腰かけて足を組むルインさんは、悶え苦しむ俺を見下ろしている。

 まあ、俺の方から視線を上げるわけにもいかないので、どんな顔をしているのかまでは想像の範囲内でしかないのだが――。


「ホントに反省してる?」

「――してますとも」

「じゃあ、私の目を見て言って」

「いや……それは……」


 ジトっとした視線を受けるが、その要求には従えない。

 何故なら、この状態で俺が顔を上げると、目の前で足を組み替えられたりする時にルインさんの下着がモロに視界に収まってしまう。

 白くて肉付きの良い太腿だけでも目に毒なのに――。


「やっぱり反省してないんだ?」

「反省はしてますよ。してますけど……」

「じゃあ、何で私の方を向いてくれないの?」


 どんだけ無防備なんだとか、その私のせいだよ……など、声を大にして文句を言いたいところだが、ルインさんに見捨てられでもすれば再び人生終了だ。一度救われた分、無職ノージョブに戻るより辛い。

 結果、ルインさんに生理的に嫌われるのと、一時的に機嫌を損ねられるのなら後者の方が圧倒的にマシだと、鋼の意志で顔を上げないでいたが――。


「悪い子にはお仕置きしちゃんだから……えい!」

「何ッ――!? ぐ、おぉぉ……!」


 視界の端に白いものが映りこんだかと思えば、足に激痛が走った。


「ちょっとは反省した? えい! えい!」

「待っ――! ルインさん……!」


 ルインさんの長い足が正座状態で痺れ切っている俺の足を踏み付けたのだ。必死の制止も虚しく、何度も足を突かれて悶絶してしまう。


「ふふっ、あと一時間はこのままだよー」


 まあ、ルインさんの機嫌が良くなるのなら、この位の犠牲は安いものだ。悶絶している時に色々見えてしまったのは、不可抗力として俺の胸の中に刻み込んだのは言うまでもない。


 役得には間違いないわけだしな。

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