第4話 金色の女神

「何とか間に合ったみたいだね。ちょっと待ってて」


 突如現れた金色の女性は、地面に転がる俺にてのひらを向けた。回復魔法を使ってくれたのだろう。彼女が発した金の光を浴びると随分体が楽になった。


「すぐに終わらせるから……」


 そう言った女性は、鋭い目つきでダンジョンを見回す。俺も釣られて周りを見れば、そこには今までの騒ぎに釣られて集まってきたであろうモンスターたちの姿――。


 先程から俺を襲っている大柄の巨人――“ギガース”。銀色の石像――“シルバーゴーレム”。巨大な蝙蝠こうもり――“ブラックバット”。


 素人の俺ですら知っているような強力なモンスターが続々と押し寄せている。


「まっ、て……」


 そんな相手にたった一人で戦おうとするなんて無茶だ。俺の事なんて見捨てて逃げろと制止をかけようとしたが、今の俺には声を出す力も残っていない。


 その時――女性の手に虚空から呼び出されたように武器が出現し、俺は驚きで言葉を失った。


 現象そのものは理解できる。魔法の応用で武器やアイテムを空間収納しておくのは珍しい事じゃないし、魔力の無い俺以外の冒険者は皆ができる基本技能だから――。


 だが、俺が驚愕した原因は、女性の武器自体にあった。

 何故なら、彼女の手に収まったソレは、恐らくどの職業ジョブにも該当しないであろう全く見覚えの無い・・・・・武器だったからだ。


「――大丈夫だよ」


 落ち着く声音で語りかけて来た女性が構えたのは、長い柄の先に三日月を幅広にして湾曲させた刃が付いた武器――長槍のたぐいなのか……。とにかく見た事の無い武器だった。


「もう大丈夫だから……!」


 そんな俺を尻目に、彼女の空気が変質したのを肌で理解した。目の前の女性が全身から放つ鋭い剣気は、背後にいる俺にすらはっきりと感じ取れるほどったからだ。


 今日初めて出会った女性。彼女が何者なのかも分からない。どうして、こんなに危険な状況になっても俺を守ろうとしてくれているのかも分からない。


 だけど、何故だろう。さっきまであれほど俺の心を巣食っていた絶望は、いつの間に消し飛んでしまっていた。


「行くよッ! “青龍零落斬せいりゅうれいらくざん”――ッ!!」


 彼女が放った刀戟とうげきはしる。


「■■――■■■■――!?!?」


 あれほど恐ろしかったモンスターたちは、彼女が繰り出す斬撃に抵抗一つできずに断末魔の叫びを上げながら斬り刻まれる。

 巨岩のような筋肉も、鋼鉄を超える硬度の銀も意味を為していない。


「はぁ――ッ!!」


 閃光のような刺突と、剛裂な斬撃が織り交ざった凄まじい攻撃――。あの女性が放った斬撃魔法なのだろう。

 嵐のような勢いで繰り出される刀戟とうげきに俺は心底打ち震えていた。


 何も出来ない無職ノージョブの俺とは、対極に位置する彼女の刀戟とうげき

 それはまさしく、俺がどんなに焦がれても手に入らなかったモノ。俺が憧れ続けて来た……いや、それを超える太刀筋だった。


――あんな風に職業ちからがあれば、俺は何も失わずに済んだのに……。


 揺らめく金色の髪と青い軌跡を残す刃の残光を目に焼き付け、限界を迎えた俺は意識を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る