第58話

私はシンちゃんとしばらく話した。その時に彼女を外で会わないかと誘うと、忙しいからと断られた。絶対に無理だと言った。   外で会って話せないので、一年生のあの時、交換日記を見もせずに返した事を謝った。只、あの頃のしつこい態度や、よくきつい事を言うのが耐えられなくなったからだと説明した。                 私は全てを話した。あの時に、チコがその ノートをシンちゃんの机に戻しに行った事を。そして彼女が、絶対にもう関わらない方が良いと強く言った事も凄く影響したのだと。                  別にかまわなかった。チコとはもう丸きり付き合っていなかった。彼女が毎日同じ時間帯に公衆電話から私へ電話をかけてきていたのも、しばらくは続いていたがいつの間にか終わっていた。              そして後からだが、私は何となく分かったのだ。彼女がシンちゃんと私を付き合わせない様にと強く勧めたのも、本当に私の為を思った訳では無く、只面白いからだったのだ…。又、自分には誰も親しい人間がいなかったから、余計にそうしたかったのかもしれない。自分にいないなら、他人にもいない方が良い。恐らくはそんな考えだったのではないだろうか?                だから私はシンちゃんに話した。シンちゃんはもうそんな事はどうでも良いと言った。気にしていないからと。          そして彼女はある事柄に触れた。放課後に自分と私が一緒に飲食店に入っていたのを、一度誰かが学校に言い付けたから、もう寄り道をせずに真っ直ぐに帰る様にと古田から注意をされた事についてだ。         あれは、私が古田に頼んで注意をしてもらい、一緒に帰るのを止める為だったのを知っていると言った。古田は注意した後から、実はこうだと話したそうだ。        この時初めて、何とかしてほしいから古田に相談した事を、古田がそれをシンちゃんに話した事を知った。            古田は何故話したのだろう?!何故もっと 上手く話してくれなかったのだろう?   別に悪気があった訳ではないとは思うし、私が嫌がっているのだからいい加減にしたらどうだという気持だったのかもしれない。  だが結果、その事がシンちゃんをもっと怒らせたのだ。               だから彼女は自分と同じ中学の生徒や、元同級生の山田、吉川、結城の3人に私の事をありとあらゆる悪口を言った。古田に頼んで放課後一緒に帰らない様にした事もそうだし、交換日記を一方的に返して一切関わらない様にした事や、ホテルのプールへ年中行って いた事(自分も喜んで、むしろ執着していたのだが。)、又その他諸々の思い付く事をだ。                  鬼畜の甘党にもやはり色々と告げ口をして、要は私を虐めさせる様にと働きかけたのだ。私が聞いて頭に来ると、あの時にはそんな事はお互い様だからと、しれっと言った。  教師の羽村昌美が私に意味も無く土下座させようとした時には、狼狽していたが…。  あれは本当だったと思う。だからあの時にはまだそれでも、私に対しての気持ちがあったのだと思う。もしかしたらずっとか、かなり長い間そうだったかもしれない?よくは分からないが。               だがやはり、可愛さ余って憎さ百倍だったのだろう。特にまだ十代で、多感な時期だ。 それに彼女は子供っぽかったし、恐らくは余り苦労した事が無かったのだろうから。  だから、雪子さんや母が食事を奢れば遠慮無く食べまくり何度もお替りをして、奢ると言ったのだから当然だと言う風になる。   悪いだなんて丸で思わない。逆に何か言えば、何をケチケチしたうるさい事を言っているのだと怒る。親も厳しく躾けていないから、自然とそうなったのだろう。     仲間の3人、吉川達もそうだろう。だから平気で、甘党にくっついていつまでも執拗に私にかまい、一緒に虐めを楽しんだ。そんな、小学生みたいな行動を絶えずした…。   シンちゃんは高校を出たら働く事になっていた。彼女は進学クラスではない、商業クラスだった。だから2年生の時のクラスは、私と別別になった。             卒業後は就職をする事になっており、だから私は何も深い意味は無く聞いた。どこに決まったのかと。              彼女は執拗に隠した。今が一番大切な時期だからと言った。自分が私の事を甘党や山田、吉川、結城に虐めをさせようと色々と尾ひれを付けて話した事で、うっかり教えれば今度は自分が何かをされると思ったのだ!   だから私は彼女が何処に就職したのかを知らなかった。ずっと何年もの間。      だがこの世は広い様で狭い?!出身の区は違っても同じ市だ。私はその後何年もしてから彼女を数回見た。            二度は、歩いているのを見た。直ぐに分かった。昔と同じ体型と、髪型だった。只、年を取っていただけだ。           彼女はスーツ姿だった。そしてカバンを下げていた。これから働きに行くのだな、その時そう思った。              その後、母と銀行に行った時にそこにいた。私達がいた窓口の隣の隣で、紺の制服を着て、接客をしていた。          最初は分からなかったのだが、彼女の声は独特だった。甘ったるい、可愛い声を出す。正直、ごつい体にはアンバランスな感じがした。その声は、中年になっても変わらなかった。                  この声が聞こえてきたのだ。あれ?私はその方を見た。横顔がそうだった。客の年配の男に何かを説明していた。だから私には気付かなかった。               母が銀行員と話していたから、私はしばらく彼女を、余りジッと見ない様にしながら観察していたら、その客の老人は用が終わって去った。                 私は彼女から目を話して前を向いた。だが暇になった彼女は周りを見た時に私に気付いたみたいだ。               私はそれとなく、分からない様にチラッと見た。すると、彼女は下を見ていた。明らかにこちらを気にして、見られたくないと言う様だった。                母の用が終わり、私達は銀行を出た。恐らくは後ろからジッと見ていたかもしれない。気が付いていないと思い、安堵したかもしれない。                  この銀行に私の口座はない。違う所だ。  母も普段は私と同じ銀行をいつも使用している。だから普段は余りこの銀行やこの系列には行かない。              だから、それきりだ。この後に、私達はアメリカへと移動して、あちらに何年も移住してから戻って来たからだ。         だから今も彼女があの店舗にいるかは分からない。もういないかもしれないし、どうだろう…?女の子の様な可愛い名前の銀行の、あの店舗に。

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