第56話

今、樽辺と甘堂は70代だ。今岡は80代だ。まだ生きているだろうか?大して興味はないが、そんな事をした、犯罪者の烙印がつくべき人間がそうではなくて、普通に生活をしている。本当なら前科が着いていたのだろう?                  私はその後、甘道とも偶然顔を合わせた。 やはり相変わらず、凄く最低で嫌な女だった。それは、私と母が電車に乗っていた時に、あの鬼畜が乗って来たのだ。     今から、確か6年位前だろうか。私は最初あの鬼畜を見た時に、何となくそうではないかと思った。だがあっちは最初はこちらを見ずに、私達の前の、空いた席に座った。それから前を見た。              すると顔色がかすかだが曇り、直ぐに下を向いた。そして目を閉じた。ずっと降りる迄、そのままだった。            降りる時にやっと目を開けた。そして私達親子の様子を分からない様に、それとなくチラチラと見た。そして、ほくそ笑んだ。とても嬉しそうだった。            何故か?それは、母が認知症にかかっていて、一見分からないが一寸よく観察をすれば、直ぐに分かったからだ。だからその様子を見て、喜んだのだ。          何故なら、母は甘党と今岡に、私を修学旅行へ行かせないときっぱりと断った。そこへ行く途中や帰りに、行っている間中にずっと、できる限りの虐めをしようとして、私を無理矢理に行かせようとしたからだ。     だからそうして毅然と断った相手が目の前にいて、幼児の様になっている。そうした態度をしている。きっとそれが面白いし、ザマァ見ろと言う感じだったのだろう?     本当に、嫌な意地悪い女だ。そのくせ、もう成人して大人になった私から何かを言われると思ったのだろう。何せあれ程の意地悪をやりまくっていたのだから!!       だからああして下を向いて、寝ているふりをしていたのだ。顔をハッキリと見えない様にして。声をかけられたくないから。    もし私が何かを言えばどんな反応をしただろう?何かを言い返したか、又は知らないふりをしたか、どうだろう?!        分からないが、恐らくは人違いだとか言って、急いで逃げたのではないだろうか?こちらがしつこくしたら駅員を呼んで騒ぎ、何か嫌がらせをされていると訴えたかもしれない…。                 例え知り合いだと分かっても、やはりそうした事を言ったのではないだろうか?    生物を教えていたから馬鹿ではない。外見や中身は最低だが、それでもちゃんとに上手く男を騙して結婚して、子供も二人産んで、離婚もせずにやっていた女だ。       幾ら嫌だと思いながらもその男の両親の家に転がり込んで、平然と生活していた女だ。 私は何も言わなかったが、降りる寸前に聞こえる様な声でこう言った。       「何、あの変な格好?!」        この鬼畜は髪を紫がかった灰色に染めて、ベレー帽を斜めにかぶっていた。そして様々な色の入った派手なブラウスにスカートの、妙な格好をしていたからだ。        特に極めつけが足元だった。短い、確か猫柄か何かの動物の絵の着いた赤いソックスを履いて、ヒールの靴を履いていたのだ。   その足元のソックスが靴に合わず、何とも馬鹿みたいでセンスが悪かった。高校の時と同じで、相変わらずソックスを履いていた。 私はこの格好を見た時に思った。あぁ、やはりこの女は目立ちたがり屋だったのだ!見た目はうんと地味でも、派手な格好が好きで、目立つ外見になりたかったのだと。    私と母はこの時、海外に(アメリカ本土に、その後はアメリカ領のグアムに)住んていて、たまに帰って来ては数週間日本に滞在してから戻っていた。           (只母の認知症もドンドンと酷くなり、結果7年近く居住してから日本に戻って来たが。)                 だから、まさかあの女にそんな時に会うなんて夢にも思わなかった!国内にいた時には一度もそんな事が無かったのに、海外に移住して、たまに戻って来た時にそうして会うだなんて?!                だからあの時は不快だったのと共に、正直驚いた!!           続.                    

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