第55話

今のクライスト学院の校長は違う。樽辺がなってからはその後違う校長になり、それから又変わった様だ。            だが樽辺は何年間、校長をしていたのだろう?本当なら、犯罪者なのに。      もしあの時、私と古田が警察で証言していたら、あの男は犯罪者になっていた。そして今岡や甘堂もそうだ。           実はあの時、古田は私に警察に行こうと何度も言ったのだ。私に、一緒に警察へ行こうと言い、自分がその現場を見たのを証明するからと言った。あの事件当日に、自分が説明するからと。だが私が困った態度をして、煮えきらなかった。             実は私は家で、一種特殊な育てられ方をしてきた。又、普通の家族とは違う接し方もされていた。                祖母は、私には基本何でも我慢をしなければいけないと言う育て方をした。例えば学校で虐められたり、何か嫌な事があってもそれは家では言ってはいけない。そうした事は全て自分で解決をする。もしできなければ我慢をする、何故なら自分が悪いのだから。自分に解決能力がないから、それが悪いのだからと。                  そして絶対に母にそうした内容を話してはいけない。何故なら、母は働いていて忙しいし大変だから、余計な問題で困らせてはいけない。だからだ。             でもそんな事は非常におかしい!!本来あり得ない事だ。だが祖母にはその方が色々と都合が良かったからだが…。        だから母は普段、私に何か学校等で嫌な事があっても何も知らなかった。又、知った時には大概もっと後からだった。       クラスの他の生徒の親や、見かねた教師が、こんな事があったのだが知っているか?、と聞いてきたりして初めて分かる。     だからついには母が祖母へ、今度もし何か あれば、もし自分が知った時には直ぐに話してくれと頼んだ。            こうした事から、私は殆ど、学校や外で何かあっても自分から言う事は無かった。それが習慣と言うか、当たり前になっていた。  だからこの時も、馬鹿な私は古田の言う事に耳を貸さなかった。そんな事をして騒ぎになれば、家でうるさく詰問されたりしたら大変だし、又万が一学校を辞めさせられたら困ると思ったのだ。             母が辞めさせなくても、そんな事を言う生徒を置いてはおけないとなったら大変だと思った。                  だがそんな事がある筈が無かった!私一人がそんな事を言えばもし信じなくても、古田が証人でいたのだから。          だから私が学校から辞めさせられるのでは無く、辞めさせられるのは鬼畜達3人だったのだ。                  古田は、今岡達から鍵を無理矢理に奪い取り、教室の扉を開けて中に飛び込み、私を追いかけ回していた樽辺から救ったのだから。それをありのまま話せば良いだけだったし、私も自分に起きた事柄を素直に話せば良いだけだったのだ。             家で詰問されても、悪いのはあっちで私では無い。なら祖母はともかく、幾ら祖母の召使い兼奴隷の母親でも、しばらくすれば納得はしただろう。一応は自分が産んだ娘なのだから。                  だが当時私は祖母や母に洗脳されていた。家で凄く威張っていたのは祖母だし、母は殆ど役に立たない。唯お金を稼ぎに行く機械みたいな役割だったから。          それと母は、私に対して複雑な気持ちを抱いていた。私に対して、わだかまりがあった。理由は色々とあっても、結果的には自分を置いて、子供だけを残して行ってしまった私の父親、その男の血が半分入っている。そして外見がよく似ている、そっくりだ。だから嫌でも思い出す、又は忘れられない。いつもでは無くてもそうだろう。         だから私には無関心でもある反面、祖母の影響ばかりでは無く、やはり厳しかった。  小さな時から怒ると手を挙げていつまでもしつこく打ち、いつも知らんぷりをしている祖母でさえも、見かねて止める事がたまにあった。                  口も悪どく、怒ると罵詈雑言を吐きまくった。お金はちゃんとに使うし、可愛がる時もあった。だが怒ったり口喧嘩をすると、小さな時から必ずこうした事を毎回言った。  「あんた、死んでいいよ。死になよ。」   そんなに簡単に死ぬなんて恐くてできないし嫌だと言うと、こう言う。        「何で、簡単だよ?そんなの、ビルのてっぺんから飛び降りれば良いんだから。凄く簡単だよ?!」               そう何度も繰り返して言う。       否定しないと言い続けるから困るので、そんな事は出来ないし、そんな高いビルなど無いと言うと、又言う。           「あるよ?そんなの幾らだってあるよ、そこら辺に。どっかのビルの屋上に行けば良いんだから!凄く簡単だよ。死ぬのなんて物凄く簡単だよ?!だからあんた、死になよ。死んじゃいなよ?その方がママ、良いもん!あんたなんかいない方がスッキリして良いもん!ママ、嬉しいもん、あんたが死んだ方が。」(他にも母のこうしたお決まりのコメントは幾つかあるが又違う時にしよう…。)    とにかくこんな事をいつも、小学校低学年から言われて育って来たので、私は古田と一緒に、樽辺達のあの悪行を訴えるのがはばかられた。                 凄く馬鹿だった!!あの時に訴えていればその後の執拗な虐めは無かった。あいつ等鬼畜は正式に‼犯罪者になり、当然そうした犯罪者達が学校にいる訳が無く、クビになっただろう。                 自分の学校の生徒を強姦しようとしたり、それに協力したりする教師を、幾らあの校長でも置いておく訳が無かった。そんな事をしたら自分が困ったのだから。        その時に取る行動が、色々と運命を変えるのだ…。

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