第43話

古田は三匹が自分の前に来ると睨みつけた。「おい、お前ら。一体何をやってるんだよ?!」                3匹は黙って、困りながらうつむいている。「何を子供の苛めみたいな事やってんだよ?!お前ら、たった一人を束になって3人がかりで。恥ずかしいと思わないのか?エッ、おい??」             誰も、当然何も言わない。        「おい、お前ら!そんな事をしているとなぁ、内申書をちゃんとに書いてやらないからな?良いのか〜?!」          「そんな、困ります?!」        吉川が叫んだ。             山田と結城も同じ事を言い出した。    「な〜にが困るんだよ?何にもしていない相手に毎回毎回色々嫌がらせをやっていて。そんな奴等に何でちゃんとに書いてやらなきゃならないんだ?」            「だって、そんなの!」         「そんなの、何だよ?お前ら、高木がお前に何かやったのか?何かされたのか?どうだ、返事してみろよ。吉川、どうだ?」   「…してません。」           「そうだな。山田も結城もそうだよな?どうだ?!」                「…はい。」、「はい。」          「なら何でいつも見張ったり、後をつけたり、嫌がらせをしたり、そんな事ばかりしてるんだよ?お前達は警察にでもなったつもりか?エッ、おい?」           3匹が悔しそうに黙っている。      「そんな事をして、探偵だとか警察にでもなったつもりなのか?!そんな事をする権利があると思っているのか?なら、進学なんかしないでずっとそんな事ばかりしていたら良いだろう?警察にでも弟子入りするか?探偵事務所で雇ってもらうか?どうだ?」    古田は三匹を眺めた。          「だがな、誰もお前等なんて雇ってもくれなきゃ、欲しくもないんだよ。お前等なんて そんな所で、丸で役にたたないんだからな。そんな下らない苛めしか能のない、只の高校生なんかが!!」            三匹は頭に来ながら、下を向いていた。  自分達が叱られるのは嫌なのだ。他人は良くても!!               「それからな、甘堂先生の事だ。お前達は クラスが違っても、何かあれば助けてくれると思っているみたいだけどな。だが甘堂先生にそんな力は無いぞ?」         三匹が心配そうに聞いていた。      「甘堂先生はな、前の学校で生徒を虐めてばかりいたから、クビになったんだよ。それで此処に来たんだ。校長に頼んでな。だから、此処でだって余り酷いなら、自分の事を心配しなきゃならなくなるんだからな。分かったか?」                  三匹は凄く驚いた顔をしていた。     私はこの様子をしばらく見ていたが、そのまま帰った。だがきっともうしばらくは続いただろう。甘堂達鬼畜よりは短かっただろうが。                  だが、三匹はまだ直らなかった。表立っては、側へ来て何かを言わなかったが、まだ私を遠くから睨んでいた。         だから古田は別々に呼んで、注意をしたりしていた。                吉川は、以前私の顔を山田に爪で引っかかせようとして必死だった。古田はそれに付いては知らなかったと思うが、男だから分かったのかもしれない。私自身、そんな事を知らなかったが、古田は分かったのだろう。   だから吉川には、他人の顔に付いて羨ましいだなんて思わず、自分の顔も悪くないのだから自信を持てと言っていた。だが吉川には通じなかったみたいだ。          結城にも何かを言っていた。もう甘堂先生のクラスでは無いのだから、そんな虐めを平気でできないからと又繰り返して。     この娘も嫌な人相で、困っしゃくれた感じだったが、三匹の中では一番態度は大人し目だった。勿論、同じ様に意地が悪くて陰険でワガママだったが。            山田には、こうだった。         「山田、お前、歌はどんなのを聞くんだ?」山田が返事をしなかった。        「お前は誰が好きなんだ?誰の歌を聞くんだ?」                 「何でですか?」            「早く答えろよ!先生が聞いているんだから。誰だ?言ってみろ。」        「…オフコースです。」        「へ〜、お前あんなのを聞くのか?馬鹿じゃないの?!」              山田の顔が曇った。           「馬鹿じゃないか、お前?!凄く馬鹿だよ!!お前、本当に趣味が悪いなぁ。最低だなぁ。」                「…何がですか?」           「だってあんな変で馬鹿みたいなのを、よく好きで聞くよな?凄い馬鹿だよ、お前は!!この大馬鹿が!!」           「別に良いじゃないですか?!」     「お前、何を怒ってるんだ?」      「先生は嫌でも私は好きなんだから…。  だから、良いじゃないですか?!」    「何を怒ってるんだよ?お前だって高木に 言ったんだろう?手塚治虫が好きだなんて馬鹿だって、あんなのの何処が良いんだって?なあ、おい。お前ら、そうやって馬鹿にして笑ってたんだろう?」          山田が困って返事をしない。       「どうした?人に言っても、自分が言われたら嫌か?他人が好きな物を馬鹿にしても、 自分が言われたら怒って嫌なのか?!自分は駄目なのか?なあ、山田、どうだよ?」  山田はやはり返事をしない。       「なあ、山田。本当に手塚治虫が嫌いか?色々とやっていたんだから、お前だって昔は、手塚治虫の漫画をテレビで見ていたんじゃないのか?何かしら好きな作品があったんじゃないのか?高木が好きだから、悪口を言ったんじゃないのか?だけど自分だって嫌なんだろう?自分が好きな物の悪口を言われたら?どうなんだ?それに、お前ならもっと分かるんじゃないのか?お前、お母さんから聞いてるぞ。中学の時にクラスの男子に、怪物って仇名を付けられて虐められていた事があったんだろう?なのに、何を人を虐めてるんだよ!しかも3人がかりでたった一人を?!自分が虐められたから、今度は他人を虐めるのがそんなに嬉しいのか?良いか、山田? これからもまだそんな事をしていたら、クラスのみんなに知らせるぞ?お前の中学の時の仇名は怪物で、お前はそれが嫌でよく泣いて帰っていたってな。そうしてほしいか、どうだ?」                 山田は赤い顔をして下を見ていた。    「お前が高木の事を嫌いなのは知っているよ。お前、新宮師と同じ中学で同じクラスだったから、高木の事を色々と聞いていて頭に来たんだろう?吉川や結城も同じ中学だから、そうだな?だからそんな事をしてたんだろう?丸で恋人か何かみたいに怒りまくって!!だが、高木が新宮司と付き合わなくなったのにはな、ちゃんとに理由があるんだ。別に高木が悪い訳でも無いんだ。それを、 そんな事も何も知らないで、何をやってきたんだよ?!それからな、高木だって色々と大変なんだよ。お前が怪物なんて言われたら嫌な様に、高木はお父さんが外国の人間だから、外人なんて言われたりするんだから、そんなのも嫌だしな。お前、先生だって田舎に帰って歩いていたら、小さな悪ガキ共が悪口を言う時は、デブとかメガネだとか言うぞ。禿げていたらハゲだとかを言うぞ?何でも目に付けばその特徴を見つけて、はやしたてるんだから。だから高木の場合は、幾らあんな顔をしていても、只綺麗だとかで終わらないんだよ。だから、あいつにも悩みがあるんだ。それなのに、お前達がそうしたガキみたいに、年中甘堂先生と一緒になって虐めてな!!可愛そうだとは思わないのか?!」 山田は黙っていた。           「よし、山田!今日は丁度良いから、お前の家に寄ってお母さんに話をしよう。お前とは同じ帰り道だしな。」          「先生、困ります?!」         「何が困るんだよ?!今迄散々好き勝手をやっておいて。それで済む訳がないだろう? お母さんにもハッキリと教えて、しっかりと注意してもらわなきゃな。もう2度とそんな事をしない様に。」           「先生、お願いです!!止めて下さい?!」「駄目だ!さぁ、山田、一緒に帰るぞ。」  私は放課後にこの様子を教室の外から見ていて、最後まで見届けた。そして、二人が出て来る時には階段をどんどんと降りていた。 そして山田の母親は古田から聞いた後に、 さぞや驚いたのではないだろうか…。 

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